第69話◇雪遊び6(マッジ)




 六番手はマッジだ。


 彼女とはまだ再会して日が浅い。

 どのような企画を用意してくれるのか、読めないところがあった。


「私の企画は、ない」


 予想外だった。

 マッジの言葉に、俺は「なるほど」と頷く。


 チビ達は思い思いの遊びに興じたり、白狐の近くでうとうとしたり、雪洞に耳をつけて亜人の顔っぽく改造していたりする。

 そんな中、マッジが俺の正面に立って、企画を用意していないことを告げたのである。


「私は、楽しい魔人じゃない。普通の人が好んだり、喜んだりするものがよくわからない」


「……その気持ち、なんだか少し分かる気がするよ。俺も自分のこと、そう思ってたから」


「レイン様のことは、みんなに負けないくらい考えてる。考えまくり」


「考えまくりかぁ……」


「でも、私に出来ることで、レイン様を喜ばせることができるか分からない。だから、何も用意できなかった……」


 マッジは無表情で、声にも抑揚がない。

 だから感情は読みづらいが、纏う空気で落ち込んでいるのが伝わってきた。


 今の彼女は、他の六人と違って企画を用意できなかった自分を、情けなく思っているのかもしれない。


 俺は少し考え、口を開く。


「華やかなものだけが、人を喜ばせるわけじゃない、と思う」


「レイン様……?」


 言葉を紡ぎ出すのには、時間が掛かった。


「さっき……そう、雪投げの時さ。俺を守ってくれただろう?」


 マッジがこくりと頷く。

 彼女はチビ達が投げつけた雪玉をナイフで斬り裂き、俺に当たらないようにしてくれた。


「今まで、英雄以外と肩を並べて戦うことはなかった。同じ戦場に立ったってだけなら大勢いるけど、誰も俺達を、英雄を守ろうなんてしなかった。それはきっと、俺の方がみんなよりずっと強いからで、そのことを不思議に思ったことはないんだ」


「…………」


「でも、マッジは雪の玉から、俺を守ってくれただろう? 俺が勇者だって分かってるのに。あれはただの遊びかもしれないけど、実はあの時、嬉しかったんだ」


「――――」


「俺を楽しませようとしてくれる事も嬉しいけど、それが出来ないからってダメなんてことはないんだ」


 次の瞬間、俺の視界が真っ暗になった。

 違う。


 マッジに正面から抱きしめられたのだ。

 彼女は『七人組』の中では小柄だが、それでも俺の頭を抱きかかえるような体勢の所為で、防寒具越しに彼女の胸が俺の顔にあたる。


「……ん。これからは、何が現れようと、私がレイン様を守る。もし無理でも、隣で一緒に戦う。守られるだけの存在には絶対にならない。約束」


「……そっか。ありがとう」


「うん」


「それと……その……ちょっと息苦しい、かな」


「取り敢えず、エレノアたちの邪な思いからレイン様を守護する」


『……あんたもそんな違わないんじゃないかって、あたしは思うけどね』


「違う。私だったら何者の介入も受けずにレイン様を守り切ることができる」


『この子目がマジなんだけど。あらゆる者から守るためには閉じ込めておくのが一番とか言い出しそうな目をしてるんだけど』


「レイン様さえよければ、それもあり」


「閉じ込められるのは嫌だなぁ」


「では保留」


『却下よ却下!』


 長く抱きしめるのは協定に反するのか、すぐにみんながやってきた。



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