第70話◇雪遊び7(フローレンス)
最後はフローレンスだ。
「どのような催しであろうと、わたくしが関わる以上最も成果を上げるのはわたくしよ!」
フローレンスが扇を広げると、彼女の周囲がきらきらと光る。
どうやら『光』属性魔法を使っているようだ。
「皆の者、前座の役目大変ご苦労だったわね。この企画の主役を務めるわたくしが! レイン様とその他おまけ達に最上級のもてなしを約束しましょう! おーっほっほっほ!」
ひとしきり笑ったあと、フローレンスがパチンッと指を鳴らす。
「今よ、セバスちゃん!」
「セリーヌです」
セリーヌの近くには、かまどが用意されていた。
既に火がついているらしく、煙が上がっている。
網が敷かれており、近くのテーブルには驚くほど大きな肉の塊が置かれていた。
セリーヌが丁寧に肉を切り、それを網の上に配置。
途端、じゅうっという音と共に、食欲をそそる匂いが空気に混じる。
ぎゅるるる、と子供達の腹が鳴った。
ちなみに俺の腹も鳴った。
「ホワイトマンモスの肉、存分に味わいなさいな」
「金にものを言わせて入手した高級食材で殿方の胃袋を掴まんとする浅ましき考え……さすがはお嬢様です」
「そこ、うるさい!」
セリーヌに注意したあと、フローレンスは真面目な顔になった。
「ここはわたくしの土地だから構わないけれど、他者の土地で野外パーティーを開催する際にはしっかりと許可をとるように。間違っても周囲に迷惑を掛けぬように気をつけなさい」
彼女の言葉に、素直な子供達が頷く。
「お嬢様が……まともなことを」
セリーヌが感動したような声を出す。だがどこかわざとらしい響きだ。
「わたくしはいつもまともですけれど!」
「お野菜は?」
二人の会話に割り込む形で、ウサ耳のキャロが口を開く。
「あら、貴女確かキャロとかいったかしら」
キャロも他の子供達同様に腹を空かせた様子。
口からヨダレを垂らしつつ、彼女はフローレンスを見上げて言う。
「お野菜はあるの? キャロは今、大事なことを訊いてるよ」
キャロの眼力がすごい。
あまりの圧力に、フローレンスが押されているくらいだ。
キャロは野菜好きなのだった。
「も、もちろん新鮮採れたてのものを用意していてよ?」
キャロがニッコリ微笑んだ。
先程までの迫力が嘘のように、幼くキラキラした笑顔だ。
「おフロちゃん、さすがだね」
「誰がおフロちゃんでして!? 妙なあだな付けないでくださる!?」
「あだ名を付けてくれるような親しい人もいなかったお嬢様は、内心喜んでいるのであった」
「セバスちゃん! 勝手にモノローグつけないでくださる!?」
「セリーヌです?」
「何故いきなり疑問形に……。わ、わたくしがセバスちゃんと呼びすぎたことで己の真名を忘却してしまった……?」
不安そうな顔になるフローレンスと、それを見てくすりと笑うセリーヌ。
この二人、実は姉妹なのではないか。
それくらいに仲がいい。
とにかく、沢山雪で遊んだ俺達は、雪に囲まれたまま食事を摂ることに。
「れいん、これおいしい」
狐耳のウルが自分の分の肉を分けてくれる。
同じものが俺の皿にも盛られているが、好意はありがたくいただくことにした。
「確かに美味しいな」
口の中入れるとすぐに肉汁が広がり、いつまでも噛んでいたいくらいに美味だ。
「ゆうしゃさま、お野菜も食べないと大きくなれないよ?」
そう言ってキャロが焼き目のついた野菜を分けてくれる。
焼き加減が絶妙なのか、食感を損なわず、それでいて野菜本来の甘味が際立つ。
「確かに、バランスよく食べないとな」
ウルとキャロがやってるのを見て、他の子供達も寄ってくる。中には、仲の良い者同士で食べさせ合っている子もいた。
かき氷ももよかったが、やはり寒い時に食べる温かいものは良い。
こう、沁みるというか。
冷気に奪われた体内の熱を取り戻すような、そんな充足感がある。
もしかするとその熱は、一緒に食べているみんながいるからこそのものなのかもしれないけれど。
「……お嬢様? 一頭の中から極一部しか取れぬ希少部位をドヤ顔晒して旦那様に差し出すのではなかったのですか? 冷めてしまいますよ」
「ふんっ。あの団らんを邪魔するほど、無粋にはなれませんわ」
「…………さすがです、お嬢様」
「ちょっと! こういう時くらいは皮肉はよして頂戴……ん? もしかして今、褒められたのかしら?」
「尊敬できぬ御方に、わたしはお仕えしません」
「ふ、ふぅん? いつもそれだけ素直なら、昇給して差し上げてもよろしくてよ?」
「はぁ……」
「雇い主に溜息! ふん! この肉をあげようかと思っていたけれど、要らないようね!」
視界の端で、主従が楽しげに会話している。
そうして、全企画が終了。
競技なのだから、優劣をつけなければならないわけだが……。
「うーん……全部楽しかったから、決められないな……」
俺がそう言うと、チビ達が賛同。
『七人組』からも文句は出なかった。
「あの、レイン様? 全員が勝者ともとれるわけですから、その……全員にご褒美を要求する権利が生じたりするのでしょうか?」
と、エレノアが言った。
『賞品が出るなんて話なかったでしょ』
ミカが鋭く言うが。
「まぁいいじゃないか。ご褒美というか、楽しかったから、その礼をするってことでさ」
『……レインが良いなら、いいケド』
その瞬間、『七人組』全員の顔に喜色が浮かんだ。
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