第33話◇めでたしめでたし……?
「な、な、な……っ」
現れたみんなを見て、マリーは口をぱくぱくさせる。
そして、言う。
「やはり女の子だらけではありませんか……!」
「いや、ほら、男もいるだろ、あと白狐も」
俺はフリップと白狐に視線を向ける。
「男女比の偏りが激しいと言っているんです……!」
反射的にそう言い返してきたマリーだが、すぐにここにいるメンバーの力を理解したようだ。
魔力の流れや佇まいで、実力というのは計れるもの。
そして、マリーは何かに気づいたようだ。
何かというか、エレノア、レジー、ルート、ヴィヴィの四人だ。
「……もしやあなた達、五年前にレインちゃんが解放した魔族ですか……?」
四人が驚いたような顔をする。
「まさか貴方が覚えているとは思いませんでした」
「レインちゃんに近づいた人物は全員覚えています」
エレノアが言うと、マリーが即座に返す。
だが言ってから、マリーは目を伏せた。
「そうですか……あなた達が……。てっきり大人の色香でレインちゃんを籠絡した悪しき淫婦共がいるのかと思えば、全員揃って乳臭い未――」
「せ、聖女マリー! 軍神グラディウスからの手紙を預かっているのだわ!」
情報官のヴィヴィがマリーの言葉を遮りながら、前に出る。
その手には、確かに紙が掴まれている。
「グラディウスからの……?」
マリーは怪訝そうな顔をする。
聞けば、グラディウスはマリーの暴走を予期していたのだという。
彼女を止めるためには他の英雄格が必要。一人止めるためにもう一人使うよりも、諦めて暴走させ、他の者は任務に当たらせた方が良いとあいつは考えた。
で、自分を監視していた魔族が俺に関わりがあると見抜いたあいつは、その者に手紙を渡した。
――やっぱりバレてたか。
この国の情報官がいかに優秀とはいえ、あいつを出し抜けるとは思えない。
あいつは渡しても構わないという情報しか与えず、また今回のように利用出来ると踏んで放置されていたのだろう。
あとは情報官が足の速い者に手紙を託し、俺とマリーの戦闘中にそれが届いたのか。
「むっ。これは確かに彼の字です……」
手紙を受け取ったマリーは苦い顔になりながら、文面に目を通す。
俺も気になったのでヴィヴィに尋ねると、どうやらこういう内容らしかった。
――レインが出ていくのは想定内。
――また、幾つか想定していた候補の内、そこは最も我々にとって都合の良い土地。
――レインに英雄の使命を強いるのなら、なおのことそこに置いておくべき。
――今のレインならば単独行動でも問題なし。迎撃が主な戦闘である人類の状況を変えうる。
――レインが瘴土で敵を屠ることで人類領に到達する以前に脅威を排除出来る。
――お前ほどの馬鹿でも、直接見れば納得出来るだろう。
――分かったら、さっさと帰還すること。
とまぁ、大体そんな感じだ。
どうやら【軍神】はこれまでの十年の中で俺に恩義を感じている者達をリストにしていたようだ。
その人達が、俺が単独行動出来るようになってから保護の名目で近づいてくると想定していたのだとか。
エレノアとの再会こそ偶然だが、いつかそういったことになるとは考えていたわけだ。
俺がエレノアのいる魔王軍に拾われたのは、人類にとって最上の結果。
グラディウスの考えていた通り、敵が魔族領にいる時点でどんどん俺が倒してしまうのだから。
それだけではない。
やはり、ここ最近の俺の感覚は間違っていなかった。
この瘴土では――。
「そ、そんな……グラディウスならレインちゃんを連れ帰る頭の良い作戦を考えられる筈なのに何もしないから、心のない冷血人間だと思って眼鏡を割ってここまで走って来ましたのに……」
眼鏡割ったのか。
多分無表情でめちゃくちゃ怒ってるぞ。
「スペアも割ったから少しは時間が稼げると思いましたのに……」
スペアも割ったのか。
絶対無表情でめちゃくちゃ怒ってるぞ。
「手紙は事前に用意していたのを使ったのでしょう。あなたの考えなどやつにはお見通しだったということね」
ヴィヴィが言う。
情報官達の動きも【軍神】にはお見通しだったわけだが、言わない方がいいだろう。
マリーは手紙を服に仕舞って、体勢を整える。
この短時間で、もう普通に立てるくらいに回復したようだ。
「……この手紙の内容が事実であることは、レインちゃんとの戦いで理解しました。わたくしが敵と知りながら駆けつけたあなた方の覚悟、レインちゃんの様子などから、関係が良好であることも理解したつもりです。わたくしは敗戦の英雄、本来ならば首を刎ねられて終わる身。このような言葉を吐く権利もないでしょうが、それでも言わせてもらいます」
マリーが俺を正面から抱き締めた。
柔らかい膨らみに顔があたるが、柔らかいので痛くない。
「離れたくありません……! レインちゃんが五歳からずっと一緒だったのに……! うぅ……こんなポッと出の女人共に奪われるなんて……!」
「マリー、苦しいよ」
『斬ってしまいましょう』
ミカ、お前は敵意向けすぎだ。
折るとか言われて気が立っているのかもしれない。
あと後ろから数人分の殺意が届いているが、エレノア達だろうか。
「そ、そうだ……! わたくしもその国にお邪魔して……」
「あんたがいないと人類が困るだろ」
【聖女】の魔法が使えるのはマリーと俺だけなので、二人共抜けるのはまずい。
「くっ、た、確かに……! わたくしの治癒魔法によって死を免れる者達がいるのは事実……これもまた使命です。し、しかしっ」
……ふむ。交渉するとしたら、このあたりか。
「マリーのさ、任務外の時間とかあるだろ。その時、【賢者】の魔法で飛ばしてもらえばいいんじゃないか? それなら、会えるだろ。帰りは俺が飛ばすよ」
俺と【賢者】の空間転移を利用するわけだ。
「!」
マリーの体が震える。
後ろのみんな、「えー」とか嫌そうな声を出さないでくれ。
「レインちゃんもやっぱりお姉ちゃんに会いたいんですね……!?」
ここでまた「別に」とか言うとこじれそうだ。
俺はマリーの拘束から脱し、笑顔を作る。
「そうだな。これでどうかな、お姉ちゃん」
「はぅっ……」
マリーが突然胸を押さえ、ゆらりゆらりと後退する。
まるで矢で心臓でも射抜かれたような挙動に、俺は焦った。
しかしすぐにいつものエレノアと似た動きだと気づき、スッと冷静になる。
なんだか振り返るのが怖くなるくらいに、背後の空気が冷たい気がする。
「ふぅ……ふぅ……危ないところでした。十年分の絆がなければ、ここで意識を失うところでした……。と、とにかくっ。レインちゃんがそこまで言うなら、わたくしとしてもやぶさかではありません」
「よかった」
グラディウスの手紙も効いた。
あれにあったとある情報のおかげで、使命を重視するマリーを説得出来たのだ。
たまに会うことになってしまったが、まぁいいだろう。
英雄のあれこれが関わらなければ、色々と教えてくれる上に世界一の治癒魔法の使い手だ。
「それじゃあ、送るよ」
「はい」
そう言って、マリーはまた抱きついてくる。
確かに触れた方が飛ばしやすいのだが……まぁいいか。
「まだまだ子供だと思っていましたが、立派な男の子になりましたね」
それ、まだ子供扱いしてないか。
「レインちゃんの新しい友人がた、くれぐれもこの子をお願いしますね? 本当に」
若干警告っぽい言い回しが気になったが、俺はマリーから元いた場所を聞き、そこへ彼女を飛ばすことに集中。
『空間』魔法を発動すると、彼女の姿が消えた。
俺はゆっくりとみんなを振り返る。
「えぇと……来てくれてありがとう。嬉しかったよ。みんなのおかげで、解決だな……!」
みんなはすごく微妙な顔をしていた。
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