第30話◇唐突に水着回(下)
巨大冷凍イカの調理はエレノアと俺が転移で連れてきた料理人たちに任せることにした。
筆頭情報官ヴィヴィの水着は、拷問官風の露出が多いものだった。全体的に艶めいていて、やはり軍帽っぽい帽子を装備している。
エレノアのものは上下に分かれた下着みたいな水着で、下の方には飾り布が巻かれていた。
ルートは一応ワンピースっぽいのだが、後ろから見ると上下に分かれた水着にも見える。
体のラインがハッキリと分かるタイプで、お腹の横部分が惜しげもなく晒されていた。
俺はひたすら『似合ってる』の一言で勝負。
【聖女】の教えは正しかったということか、全員が喜んでくれた。
とはいえ、【賢者】より千の魔法を学んだ【勇者】としては、状況に応じて最適な手を講じたい。
褒め言葉って学校で学べるのだろうか。
あと、チビを除く女性陣の水着姿に、微妙に心拍数が上がった気がするのだが、なんなのだろう。
俺たちはそのあと、色々と遊んだ。
例えばチビ達。水遊びはしたいが波がざぷーんと寄せてくるのが怖いというので、砂を掘って中に海水を満たし、プールみたいにした。
作業は魔法で行い、結構な大きさになった。足がつく深さなので安心して遊べるだろう。
ビーチバレーなる球技も行った。
魔法は無しと決めて挑戦。
俺はフリップと組んだのだが、誰かが『負けた方が勝った方の言うことを一つ聞く』というルールを提案、即座に可決され、俺たちは七人組やチビ達との連戦を強いられることになった。
激しい動きで揺れる女性陣の胸に一瞬目を奪われるというのが何回かあったのだが、フリップを見ると彼も同じだったので、自分がおかしいわけではないのだと安心した。
でも以前【聖女】に怒られたことなので、控えよう。
ちなみに全勝した。
一同からため息が漏れたが、勝負事で手は抜けない。
あと、何故か木の枝を使った模擬戦も何度かやった。
確かに砂浜なら転んでも大した怪我はしないだろう。
フリップとジュラルの学生二人が複数回挑戦してきて、ちょっと訓練みたいな空気になった。
ミカが『あたし以外の剣を使うなんて……!』と木の枝に対抗心を燃やしていて少し笑った。
木板に立って上手く波に乗るというスポーツも楽しんだ。
俺以外だと、ヴィヴィとレジーが上手かった。
狐耳のウルが白狐に乗って並走してきて、何故かしたり顔をしていたが、それはズルだと思う。
白狐で波乗りしてはいけない、というルールはないかもしれないが。
エレノアに「日焼け止めを塗っていただけますか? 背中には手が届かなくて……」と頼まれたので了承したが、レジーが「れいんさまの手を煩わせるまでもない、よね」と代わってくれた。
ちょっと力加減があれだったらしく「やめなさいレジーいたたたたっ、孤島に飛ばすわよ!?」とエレノアが怒っていた。
ルートが「レインさまに見ていただきたいものがあるんです~」と言うのでついていくと、吊床があった。
網の両端をそれぞれ違う木に結び、網の上で寝られるようにしたもの。
「おぉ」
寝転んでみると、これが結構楽しい。
爽やかな潮風に当てられ、自分の身動ぎ一つでゆらりゆらりと揺れる吊床に身を委ねる。
「心地よいですよね~」
「うん、これはいい感じだ……」
「そうだレインさま、よかったらこちらの飲み物を~。あらっ」
視線を向けると、ルートの持っていたグラスが地面に落ちていた。
「ルート! 勇者レインに薬を盛ろうとしたわね!」
ヴィヴィの振るった鞭に叩かれた落としてしまったようだ。
「そんな人聞きの悪い~。ただ、男の子が少し元気になる成分が配合されているだけですよ~」
「そんなの邪道よ、邪道!」
「でもみんな、興味津々なくせに奥手というか~。保健体育はやはり教師である自分の領分かなぁとも思いますし~」
「あんた魔法の教師でしょうが」
七人組は仲がいいのか悪いのか分からないな。
釣りに挑戦してみようとみんなから少し離れると、猫耳の童女がついてきた。
魚が好物だという。
十五分くらい経過し、俺は釣りが難しいと悟った。
ので、生命力探知で魚の位置を捕捉、風魔法で周囲の空間ごと捕獲、そのまま海上まで引き上げる。
そして用意していたカゴに魚だけを入れた。
それを何度か繰り返す。
「大漁大漁」
巨大イカもあるので、数匹以外は逃がすことにする。
「すごいけど……ぜんぜん釣りじゃない……」
童女は複雑な顔で言った。
「でも食べるだろ?」
「たべる……!」
瞳を輝かせて即答した。
他にも泳ぎを覚えたいという者に教えたり、風呂でもやったただ水を掛け合うだけの遊びをまたしたりと、浜辺でやれることは結構多かった。
俺は楽しかったが、ミカが機嫌を損ねてしまったので、後でなんとかせねば。
夕日が見えた頃には、子供たちがうとうとし始めたので、帰ることに。
昼食に食べたイカと魚の料理も美味しかった。
そして帰還した俺は、夕食を楽しみにしていたのだが――。
「勇者レイン!」
部屋で水着から着替え終わったあたりで、扉が開かれる。
飛び込んできたヴィヴィはまだ水着姿だった。
しかしそれを指摘するような状況ではないようだ。
「今部下から情報が入ったわ――【聖女】があなたを探して、魔族領を疾走中とのことよ!」
『はぁっ!? あの女が!?』
ミカから驚きの声が上がる。
とはいえ、いつかはこうなると思っていた。
「……ここがバレてるのか?」
「えぇ、方向的にこちらに向かってるようよ」
ヴィヴィの顔には焦りが浮かんでいる。
どうやって見つけたかは分からないが、見つかってしまったなら仕方ない。
「みんなに伝えてくれ、俺とミカで行く」
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