第195話 カリブ海の悲劇の件(グリーン視点)

「Tienes mala suerte.

Dios te ha abandonado.

Pero no te preocupes, yo te salvaré.」


薄暗い倉庫の様なところでムキムキの爆弾魔────コードネーム∶イースターバニーが俺に早口でまくしたてる。

 

「そんな早口に言われたって英語なんかわかんねーよ!」


「────なんだ、日本人か。この辺は色んな人種が居るからな、とりあえずこの辺の言葉で話しかけたんたが、日本人なら日本語じゃないと駄目だったな。スマンね」

ムキムキマッチョの白人の男は流暢な日本語を話してみせた。


「────お、おっさんは日本語話せるんか!?」

まさかの爆弾魔は日本語トーカー。

発音もテレビで見る元メタルバンドの外国人ギタリストやいつも日本人に疑問を持っている外国人芸人並に綺麗な日本語だ。


「────あぁ、日本語はバッチリだ。私のクライアントには日本人がいるからな」

────あ、コレは例の博士のことだな。

幸いこの爆弾魔に俺の正体も目的もバレてないだろうから、世間話でもして仲良くなってこいつから博士の情報を聞き出せるかもな。

「────俺は英語苦手だから助かるよ」


「────さっきのはスペイン語だ」


「…………スペイン語と英語の違いにも気づかない位のレベルって事だ」


「────わかった。まぁスペイン語なんてTe quieroって言ってりゃ何とでもなるよ」


「………テ…テキエロ?────なんて意味?」


「────スペイン語の挨拶みたいなもんさ」


「────そうか、スペイン語の挨拶か………教えてくれてありがとう」


「────お前は素直でいい奴だな!」

爆弾魔ことイースターバニーは白い歯を見せながら俺の方に握りこぶしを突き出した。

それに応えるために俺も右手を突き出す。


………ガチャ。

金属の鎖が当たる音がした。


…………実は俺は捕まって鎖に繋がれてるんだよね。

誰に捕まったかって?

よくわかってないけど、爆弾魔の仲間に捕まったわけではなさそうだ。


────だって爆弾魔も捕まって鎖に繋がれてるからな!


「────しかし、君も災難だったな。俺達のチームのメンバーと勘違いされたんだろうな」


「────チーム?」


「────あぁ、たまたまいつものクライアントが休暇をくれたんだがな、うちの隊は休暇ってものに慣れていない前科持ちの社会不適合者の集まりでな。暇を持て余して問題を起こしてまた監視が厳しくなるのも御免なんでな。とりあえずこんな時ぐらいは政府関係の依頼でも軽く受けて恩を売っておこうかと。

政府が手を焼いている麻薬カルテルの壊滅とケシ畑を焼き払ってやろうとおもったんだがな。────内通者が居たようだ。こちらの作戦が完全に漏れていた」


爆弾魔イースターバニーはそう言いながら鎖に繋がれた手でシャツのボタンを取り外した。

「あいつらはボディチェックが甘い」

シャツの裏側に縫い付けられていた金属を取り出し、それを使って器用に手枷の鍵を開けてしまった。

「とりあえずこれから君の手枷も外すけど騒いだりしないように。きっとここから逃がしてあげるから」


────そう言うと爆弾魔は俺の手枷も外してくれた。

………まぁ、実際のところ変身したらこんな鎖なんか引きちぎれるんだけどね。

今はまだ俺の正体は秘密だからやんないけど。


でも、さっきの爆弾魔の話でわかったことがある。

────博士はココにはいない。


────ここはハズレってことか。

………ってことは、ピンクかレッドのどちらかがビンゴなんだろうな。


────神様、どうかレッドの所に博士がいませんように!

そうなると………もしもレッドの所が当たりでもレッドが手柄を上げませんように!!


────俺が神頼みしている間にも爆弾魔は何か作業している。


「────なにやってるの?」


「────あぁ、コレね。見てればわかるよ。………これで良し────ちょっと危ないから端っこに行って頭の位置を低くしてて。」


そう言うと爆弾魔は取り外した袖のボタンをさっきの手枷で砕いた。


「────君は禁水性物質って知ってる?」


「────え?」


「────化学の実験だ!」

そう言うと爆弾魔は砕いたボタンの破片に唾を吐きかけた。


たちまち白煙が上り火の粉が辺りに飛散る。

部屋中に白い煙が充満して視界がゼロに近くなる。

ドアの隙間から部屋の外にも煙が漏れたんだろう。ドアの外が慌ただしくなっている。

「────Qué has he……ウグッ」


ドアから入ってきた男を爆弾魔は一撃でノックアウトした。


────流石は肉体派の爆弾魔。


「────さて、まずはこの拠点を爆破するか」


「────爆破?どうやって??」


「────そりゃあ、そのへんに有るもん使ってさ。とりあえず武器は入手出来たし、拠点制圧がてら何か探すさ。ついてきな!」


そう言うと爆弾魔はノックアウトした男から自動小銃を奪い、そのままドアの外に出て行った。


慌てて俺もその後に続く。

爆弾魔は自動小銃を撃ちながら、部屋を回っていく。

俺は怖いから部屋の中は見ない。

俺達の監禁されていたところは地下室だったようだが、とりあえず階段を登ったところで窓から外に出れる所を見つけた。


「お前はここから外へ逃げろ。そしたら合図があるまでどこかで隠れてな」


「────合図って?」


「まぁ、豪華な合図を楽しみにしてな!」


そう言うと爆弾魔は地下に戻って行った。


────隠れてろって言われたけど、とりあえず博士はこの国に居ないみたいだから俺はもう日本に帰っても良いよな?

そう思ってとりあえずこの場から離れようとした。

────しかし、建物から出たところで俺を監禁していた奴ら数人に見つかってしまった。


スペイン語なんだろうけど、俺に向かって唾を飛ばしながら喚いている。


────そうだ、とりあえずさっき爆弾魔にきいた挨拶で、敵意がないことを示してこの場を乗り切ろう。

無関係とわかってくれたらそのまま日本に帰れるし────もし無理だったら変身したら良いんだしな。

「テキエロ!」

────俺は爆弾魔にきいた挨拶を男達にした。


「────!?」


俺の挨拶を聞いて、あれだけ騒いでいた男達が静まり返った。


────え!?なに??俺の挨拶なにかおかしかった??


男達は一瞬硬直した後でヤレヤレという様なジェスチャーで明らかにこちらを馬鹿にするような態度を取った。

腹を抱えて笑っているやつもいる。


────まずい、どういうリアクション取ればいいかわからない反応だ。


俺が想定外の反応に困っていると、その直後に建物で大きな爆発があってその隙に逃げる事ができた。


もう関わり合うのはゴメンだったから隠れていろっていう爆弾魔の言葉は無視してとりあえず市街地を突っ走った。

肌身離さず身につけていたパスポートも現金も取られていないからとりあえず空港まで辿り着ければ日本に帰る事が出来るだろう。


とりあえずこれで俺の海外遠征は終わりだ。



追伸 後で調べてわかった事だが、スペイン語の「テキエロ」とは「あなたを愛しています」と言う意味だそうな。


────俺は挨拶だと騙されて麻薬カルテルの野郎共に愛の告白をさせられたわけだ。


────あの爆弾魔の野郎、絶対に許さねえ!

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