平行世界の、君と僕

第1話

二〇二〇年四月二五日十四時二五分。佐々木菜々はもう開くことない目をつむった。

「なんで、なんでなんだよっ！...っ...」

部屋を包んでいる嗚咽に紛れて僕は涙を拭った。馬鹿みたいだ。なぜ僕はこんなにも悲しんでいるのだろうか。もうわかっていたじゃないか。菜々はもう長くないと知っていた。むしろ、少しでも長く生きてくれてありがとう、ではないのか。そもそも僕が、何もしてやれなかったせいなのだ。

気持ちが堰を切ったように溢れてくる。

僕の隣には、同級生の瑛太、舞衣が順に座っており、もうひとり彼女の親友であった鈴が、もう動かない彼女を抱いて声を上げて泣いている。

そうだ、僕もそうしたい。大きな声で泣いてしまいたい。この場に崩れてしまいたい。帰ってきてくれないか。もういっかい僕の前で笑ってくれ。頼む頼む...悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい＿＿＿＿

いつのまにか、僕は眠っていた。

二〇十八年四月八日六時二〇分。佐々木菜々は目を覚ました。

「くっはー！んんんんん...」

カーテン越しに部屋に差す柔らかい日差しが、朝を伝えた。

ぽん、と二段ベッドの二階の方から飛び降り、いつもどおり二段ベッドの一階の方で寝ている妹を起こしに＿＿＿

「あ、ねえちゃんおっはよー」

「きゃーーーーーーー！」

はあ、びっくりした。なんで起きているんだよ、そう言うと、ハシゴって知ってる？（飛び降りるな）と返され、私の負けを確認。

「今日ねえちゃん入学式でしょ？ののも行くから早起きしたの」

そう。今日は櫻井高校の入学式。私の妹、佐々木野乃はまだ小学六年生というのに、早くも櫻井高校をロックオンしている。

顔を洗い終わると階段を駆け下りパンをトースターに入れる。すぐに階段を駆け上り制服に着替える。そして戻った頃にはちょうどよい焼き加減に＿＿＿

「なってない！？」

うわー、しくじった。今日初めて着る制服なんだからいつもどおり行くはずないじゃない！

がり。うわ苦っ。真っ黒だし焦げ焦げだよ！

「あははは、ねえちゃんの真っ黒だ」

野乃のパン、なんかすごいいい焼色なんですけど！？けち。一緒に出してくれたっていいのに！

私は髪の毛に時間をかけない。クシを入れ毛を揃え、多少乱雑にまとめ、持ち上げてゆき、つむじより少し後ろのあたりで結ぶ。結ぶのに使うのはいつも決まって赤いリボンのついたヘアゴム。

『真っ赤なおひさまのように、明るく育ってほしいねえ』

おばあちゃんの口癖だった。

女の子とか関係ない。天真爛漫、活発發地。高校でも今の私のようにに振る舞わなくっちゃ＿＿＿

二〇二〇年四月二十六日六時二十分。小泉和は目を覚ました。

「ここは＿＿＿」

建物？大きいな、病院か？いや、違う。学校？あ、櫻井高校だ。僕の通っている。

櫻井高校は県内でもかなり大きい学校である。難関私立大学合格を目指す学校であるだけあって、部活は基本的に嗜む程度。と、よく言われるのだが、実際そんなこともない＿＿＿

いやまて、どうして僕はここにいる？昨日のことを思い出す。あのあと、僕が寝てしまってから何が起こったのか。わからない。自分でここまで歩いたきたのか？誰かが運んだ？今日はどちらにしろ休日であるからここに来る意味もない。じゃあなぜ制服を着た生徒が歩いている？おかしいおかしいおかしいなぜなぜなぜ＿＿＿

「どうしたの？」

芯があり、でもどこか透き通るような可憐な声。

聞き覚えのあるそれと、見覚えのある顔が一致した時、僕は言葉を失った。

同じ日。佐々木菜々はいつもどおり学校へむかう。

「同じ地区の友達」と呼べる人がいないため、ここ二年間、一人で通っていた。

人通りのないこの道。に今日は珍しく人が立っているのを見て、なんだか嬉しくなった。

男の子、同い年くらいの。

「あれ？なんか様子が変...？」

すかさず、菜々の足取りは彼に向いた。

「おーい」

「＿＿＿＿＿＿」

「きーこーえーてーるー？」

「＿＿＿＿＿＿」

そして聞く。

「どうしたの？」

と。