辺境都市アルビオン
第16話
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辺境都市アルビオン。
王都から離れた平原に存在する都市。全体的に白をベースにした独特な建物が多く建てられ、文化的にも好まれやすく、観光地としても人気の街だ。
しかし、近くには高ランクの魔物が多く生息している森林が存在し、未だに未開拓地がある地域である。
魔物が多く存在するため、近隣の村からの被害届も多く出ており、それ故に腕に自信のある冒険者達が集まる。冒険者の街とも呼ばれている。
理由もわからぬまま異世界に転移してしまった寺田文彦はメルメリア教会の聖女、ティアと行動を共にしており、ワイバーンの一件を受けて教会はアルビオンを調査するため、その一団の馬車に乗り込んでいた。
馬車など乗ったこともない引きこもり現代人の文彦にとって揺れる馬車での移動は苦痛である。
揺れるたびに硬い椅子にお尻を打ち付け、本を読むどころではない。チラリと同乗しているティアとフリアに視線を向けるが特に辛そうにしていないため馬車移動は慣れているのだろう。
文彦はお尻の痛みを忘れるために視線を外へと向ける。
辺境と聞いて鬱蒼とした森の中を進むのかと思えば周りは美しい平原に囲まれている。
魔物もいなければ動物も見当たらない。
馬車の轍は見えるので普段から頻繁に使われている安全な道なのだろう。
「調査という話だったが具体的に何をするんだ?」
今度は視線をフリアに向けて問う。
普段自分からは話さない文彦だが黙っているとお尻の痛みを思い出しそうであったため、珍しく話題を振る。
「私たちは何もしないわ。
私たちの目的はアルビオンの領主がコチラに付くかどうかを見極めること。ワイバーンの一件も気になることだけど、注力すべきはこっちね」
現在王都では教会と王家で静かな対立が生まれている。
それ故に教会は味方となる勢力を集めているのだ。しかし王国内での争いには興味のない文彦は自分の身を心配する。
「それ、僕は必要か?」
「フミヒコさんがいることで私は聖女としての力を100%発揮できます。
フミヒコさんの存在は、お母さんとって私の安全を保障する存在なんだと思います」
ティアは普段、聖女としての力を封印している状態だ。その封印はティアが何かを守りたいと願った時に解除され、大きな力を得ることができる。
文彦に対して恋愛感情では収まらない独占欲を持ちつつある天然巨乳聖女にとって文彦の存在は聖女としての力を発揮できるカギとなる。
「ま、貴方はティアの傍から離れなければ大丈夫よ」
「ふむ、そこにいるだけでいいというのは楽で助かる」
「はい、何があっても守ってみせますからね!」
文彦はニコニコと笑みを浮かべるティアの表情に和みながら視線を窓の外へと向ける。
美しい草原が続く世界。
「もうすぐだな」
道の先には白い巨大な壁に囲まれた街。アルビオンが見える。
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調査団がアルビオンに着くと多くの騎士達に出迎えられる。巨大な門が腹に響く重厚な音と共に開かれ、アルビオンの街並みが広がっている。
馬車はゆっくりと壁門を潜ってアルビオンの街並みの中を進んでいく。
白を基調とした多くの建物。まるで劇のワンシーンのような芸術的な噴水。綺麗に整備された石畳の道の上には多くの冒険者が行き交っている。
メリメイア教会を表す金色の錫杖のその両脇に咲く二輪の薔薇に似た花の紋章。その紋章を見た冒険者達は驚きの表情を顔に浮かべ、中には両膝を付いて祈る者もいる。
「本当に冒険者の数が多いんだな」
行き交う人々の殆どが甲冑や武器を身につけており、パーティの思われるメンバーと固まって動いている。
「此処は元々小さな小国だったんです。
でも立地が悪かったのか、絶えず魔物の驚異に晒されている過酷な場所でした。
そのことを思い悩んでいた王様は王国の属国となり、冒険者ギルドを国内に作ったんです。
それからは数多くの冒険者がアルビオンに集まり、今では冒険者の街とも言えるまでに大きくなりました」
「王都は平和だから依頼が少なくて下手すると日銭も稼げないからね。此処なら依頼は有り余る程あるわ。
冒険者を目指すならアルビオンを目指せ、とは冒険者の間ではよく言われる事よ。
まぁ辺境故に強い魔物が多くて新人の冒険者にはおすすめしないけどね」
馬車はゆっくりと街の中を進み続け、白亜の教会の前で止まる。
メルメイア教会は緑色を基調とした美しい巨大な教会だったが、目の前に聳え立っている教会は全てが白塗りされた混じりっけなしの純白だった。
教会の前には白い牧師服を着た男が恭しく一礼する。
「私が管理しているメリアード教会にようこそおいでくださいました。
メルメイアの聖女様。私の名はプラツェコ。プラツェコ・アフラスです」
「プラツェコ牧師、数日間ではありますが、よろしくお願いしますね」
「聖女様からのお言葉、大変嬉しく思います。
教会内には部屋が数多く有りますゆえ、好きにお使いください。
本日はワイバーンの調査であることはコチラも把握しております。調査に使える部屋と必要になるであろう道具は揃えておきました。
それと、アルビオンの領主、アーバンクル様はご多忙で明日の面会になるそうです。今日はゆっくりと旅の疲れを癒してください」
「ありがとう。
素晴らしいい働きね、プラツェコ牧師」
「身に余る光栄に存じます」
ティアは聖女らしい凛々しい姿で会話をする。
これが聖女としてのティアなのだろう。
「ほら、早く歩け、行くぞ」
後ろでティアの働きを見ていた文彦は護衛の騎士の一人に背中を小突かれる。
「ティアと一緒じゃないのか?」
「聖女様だ。
テメェが聖女様と同室なわけがないだろ。役立たずは部屋で大人しくしてやがれ」
そういって粗悪な部屋の中に叩き込められる。
騎士の口調が荒いのは文彦がティアを誑かしていると思っているのだろう。そもそもこんな怪しい奴が聖女としての力を引き出すカギになるで連れていきますと言われて納得できるわけがない。
信心深い者であれば、文彦は聖女の寵愛を受けた羨ましい存在であり、邪魔ものだ。嫌われるのも当然だろう。
文彦自身も教会で数日過ごして周りから自分がどう思われているのかは理解していたため、特に何も思わず与えられた部屋の中で本を読む。
しばらくすると窓が軽く叩かれ、視線を移すとフリアが窓から顔を覗かせていた。
「こんなところに居たのね。物置じゃない」
「騎士に連れられてな」
「貴方はなんとも思わないの?」
「仕方のないことだろう」
「そうなんだけど…まぁいいわ。
それよりティアが呼んでるわ。どうもアルビオンの街を観光してみたいそうよ」
「聖女としての仕事はいいのか?」
「聖女は人前に出ることは少ないのよ。神秘性っていうのが重要視されててね。
だから明日まで仕事は無いのよ。ワイバーンの調査は部下がやるしね」
「そうか、まぁ遠慮しておこう。本が読みたい」
「そういうと思ったわ。
因みに、アルビオンにも図書館はあるわよ。王都ほど大きくはないけど、辺境らしい珍しい物とか置いてあるかもね」
その言葉に文彦はピクリと反応して直ぐに荷物を纏めて窓から部屋を出る。
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