第10話
▼▼▼
「聖女、さま…」
「もう大丈夫ですよ…」
ティアが冒険者の男の手を握って微笑むと、安心したように眠りにつく。
全員の回復は終わった。あとは睡眠を取れば完治できる。
ティアは馬車を降りてフルガルに合流する。
「戦況はどうですか?」
「順調の一言です。
聖女に遣える空操乙女の存在は知っていましたが、まさかあれほどとは…」
上空ではフリアが華麗にワイバーンを翻弄していた。
縦横無尽に空を泳ぎ、捉えどころのない動きとスピードでワイバーンの尾を躱す。
「フリアは私の自慢の友達ですから」
ティアは胸を張って答える。
小さい頃から聖女としての役目を誰よりも応援し、助けてくれたのはフリアだ。彼女は今も私を信じて戦ってくれている。ならばそれに応えるのが友達だろう。
「準備はできていますか?」
「もちろんです。
さぁ!!!!展開だぁぁああ!!!!!」
フルバルが叫ぶと後衛の魔法使い達が空に杖を向ける。
魔力は集められ、一つの魔法陣として彼等の頭上に展開される。青く光る魔法陣に、魔法使い達は更に魔力を送り込む。
「射出のタイミングをお願いします。
私がそれに合わせて加護を授けます。女神ティアルシードはポロス戦争で弓の名手として活躍しました。
完璧な追尾は不可能ですが、多少の誤差ならコチラで修正できます」
「女神ティアルシードのご加護ですかッ!!!
それならば容易にワイバーンを落とせましょう!!」
フルガルは嬉々として腕を振り上げる。
「魔法陣展開完了!魔力充填完了!方角固定!
対象はワイバーンッ!
穿てぇぇぇぇえええ!!!!!」
魔法陣から高出力の魔弾が射出される。
空に撃ち上げられ、それを見た上空を飛ぶ冒険者達は急いでその場を離れる。
「来たわね。それならダメ押し!!!」
フリアは空を華麗に舞って翼を傷つけて後退する。
ワイバーンはフリアを追おうとした瞬間自分に向かってくる魔弾に気が付いて緊急回避を試みるが、フリア達に翼を傷つけられ、体力も消耗していたため、それが致命的な遅れとなり、魔弾がワイバーンの翼を穿つ。
「よし、前衛部隊、取り囲めッ!!!!」
一番の障害は突破した。
あとは墜落したワイバーンを仕留めるだけだ。
「大盾を構えろッ!!!
ブレスを受け止め、確実な攻撃だけを決めろ!!!」
冒険者達は大盾を構えてジリジリとワイバーンとの間合いを詰めていく。
丸太ほどの尾が迫りくるのを耐え、灼熱の業火が吹き荒れるブレスの壁を耐える。
大盾の後ろでは剣や斧を持った冒険者達がワイバーンの急所とされる胸の辺りに存在するエメラルドに輝く鱗を狙う。
「決まったな」
フルガルは体力が消耗しつつあるワイバーンを見て戦闘の勝利を確信する。
気を抜くことはないが、それでもフルガルは一度大きく息を吐く。
▼▼▼
「ワイバーンの討伐、何故止めなかったのですか?」
緑色の教会、カラフルなステンドガラスに囲まれた部屋の中でフーイは部下からの知らせを聞いて苛立ちの声を発する。
「えー、でもワイバーンくらい大丈夫でしょ」
「あの時は我々が居たではないか!」
「フーイ、行き過ぎた協力では悲しむのはティア様です」
「貴様は心配ではないのか!!」
「心配ばかりして過剰な協力をしていてはティア様は成長しません」
「落ち着けよエア。もしもの時は俺達が助ければいいんだ。
それより、同居してるって男はどうしてるんだ?」
ヴァンは報告しに来た部下に視線を向けると、部下は歯切れ悪そうに答える。
「はぁ!?!?!自分だけテントの中にいる!?
ティア様や他の冒険者にだけ戦わせておいて自分は安全なところにいんのかよ!!!!!」
「ははははー、凄いねーその子ー」
「笑いごとじゃねぇぞシャル!!
ティア様が聖女と知らないらしいが女に戦わせてテメェが安全なところにいるなんざ男じゃねぇ!!」
「まぁでも戦闘能力皆無らしいしー、正しい選択じゃないかなぁ」
「正しい選択かもしれねぇがティア様のパートナーとしては不正解だ!!
そいつとティア様じゃ吊り合わねぇ!!!」
「ヴァン、話しが脱線してないかしら?」
「うっ、すみません、マリア様」
「ティアに吊り合うかの話ではなく、今はワイバーンのことでしょう?
まったくもう…」
マリアは困ったように溜息を吐く。
ティアを大事に思ってくれるのは嬉しいが過保護になってもらっては困る。
「でもティア様が負けるとは思わないなぁ」
「そうですね。問題は何故ワイバーンが一匹で現れたのかです」
マリアは姿勢を正して皆に確認する。
この一件の始まりが、どうであるかを。
「確かに不自然ですね。
ワイバーンはドラゴン種の中でも唯一群れを成して行動する魔物です」
「群れから逸れたのではないですか?」
「そうね。そのパターンも考えられるわ。
あとは群れがドラゴンに襲撃されて散り散りになったとか、かしらね。
まぁ、珍しいことではあるけど無いわけじゃないわね」
「なら、問題ないのかなー」
「んー、けど、なんか違和感があるのよねぇ」
マリアは白いローブの上からでもハッキリとわかる豊満な胸を片腕で支えながら小首を傾げる。
「ワイバーンは何処から来たの?」
マリアが部下に尋ねると緊張した面持ちで答える。
「王都から離れた辺境都市、アルビオンからです。
アルビオンで生活している冒険者が依頼途中にワイバーンの群れを発見。突如群れの中から一匹が飛び出し冒険者を捕食。
そのあともワイバーンは森の中で滞在し続けました」
「へー、群れに合流しなかったんだね」
「はい。
アルビオンではワイバーンを討伐できないため、アルビオンから王都に緊急依頼が出されました。そして、アルビオンの冒険者が命懸けのワイバーン誘導作戦を行いました」
「作戦を任された冒険者はさぞ恐怖したでしょうね」
「アルビオンの英雄だぁー」
フーイが冒険者の苦悩に思い悩み、シャルが楽しそうに笑顔を浮かべている中、マリアは未だに首を傾げて何かを考えている。
「どうかされましたか?
何か不自然な点でも?」
「ん~、そうねぇ。
まぁ、ありえる話しよね。人間の味を覚えて人間を好んで食べる魔物は多いわ。だから群れを離れて冒険者を追ったのも納得できるのだけれど…」
「滞在した、ところでしょうか」
「そうね、そこよ。
人間の味を覚えて人間を襲うようになったのなら、近隣の村が襲われていないのは少し変よね」
「変異種、ですか?」
「その可能性があるわ。
念のため、ティアのところに行ってくるわね」
「マリア様が行かれるのですか!?
我々にお任せ下さいッ!」
「大丈夫よ。貴方たちは仕事でもしてなさい。
シャル、行くわよ」
「えー。僕も仕事したいー」
「貴女は残っても仕事しないでしょう?」
「バレたー」
マリアとシャルは席から立ち上がって部屋を出る。
マリアは今回の一件を訝しんでいた。
アルビオンは王都から離れた辺境に位置する都市だ。故に内情が詳しく入ってこない。
何が裏があるのではないか。
マリアにはそう思えてならない。
「シャル。アルビオンの情報を集めてください」
「了解です」
珍しく真剣な声音で話すマリアにシャルはハッキリとした口調で答える。
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