イチの書斎

一沙

表題にかえて

読んでくれる人がいるということ

 今、ひとつの物語を書いています。


 ずいぶん長いあいだ頭のなかにいた登場人物たちが、少しずつ、一人ずつ現れはじめ、それぞれの人生を生きる。


 本来、この物語を誰かに読んでもらうためには、身近な人にお願いするか(恥ずかし過ぎて無理です)、なんらかの賞を受賞して世に出してもらうしかありません。けれど今の世の中、この「カクヨム」や「小説家になろう」といった場がある。これはとても幸せなことだと思いました。


 私は今まで、物語を考えては書き、書いてはまた消して、忘れた頃にまた創作に対する意欲が沸いてきて机に向かう、といったことをくりかえしてきました。もちろん、一度だって物語を完結させたことがありません。ただ、今書いている物語だけは、そうなりたくはありませんでした。


 頭の中で世界が広がり、登場人物たちの声がいつまでも耳に残る。いつまでも考えている。家族といるときも、仕事中も、気づけば物語が動いている。机に向かう時間が増えていきました。

 なんとかこの物語を世に出したい、誰かに読んでもらいたいという気持ちが募りました。でも、今までそのような場は、少なくとも私にはありませんでした。WEB小説の存在は、そんな私の価値観を変えてくれました。

 意を決して「カクヨム」に投稿しました。下書きのつもりで、ほんの軽い気持ちで、誰かの目に触れたらいいなあと思い、始めてみたんです。


 ひとつPVが増えるたびに、応援コメントがもらえるたびに、レビューがもらえたびに、強い喜びを感じました。

 考えてみてください。前述しましたが、本来は誰の目にもとまることがなかったはずの物語なんです。PVが1カウントされるということは、少なくとも最初の一文だけは誰かが読んでくれた、ということです。

 

 投稿を始めて一週間が経過し、PV数が100、200と増えていきました。こう書くと、単なる数字でしかありませんが、これは実在する「」です。この場に投稿しなければ、間違いなく出会えなかった人たちであり、私の書いた小説なんて絶対読んでくれなかった人たちです。


 そう考えただけで、いつもの「書いてはまた消して」という作業が消え、「書いてはまた」へと変わりました。


 自分以外の誰かが、この物語を読んでくれている。そう考えただけで、私の心は奮い立つのでした。

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