二十代のうちは現実逃避が許される。だから、喉を外して睡眠薬を取り付けろ。

いありきうらか

二十代のうちは現実逃避が許される。だから、喉を外して睡眠薬を取り付けろ。

二十代のうちは現実逃避が許される。


なぜなら、それ以降の現実逃避は危険を伴うからだ。


三十代を過ぎてからの現実逃避は大きな責任を伴うことが多い。


自分だけでなく、家族や地位を犠牲にする可能性が高い。


年齢に見合わない給料と、幼い精神だけが残る。


まだ、学生から社会人に変わっていく過程である間であれば、救いの手は差し伸べられる。


未熟だということを周りも知っているからだ。


しかし、年を取れば取るほど、年齢の呪いが強くなっていく。


「〇〇歳にもなって…」


自分に見合わない年齢に縛りつけられてしまう。


仕事を辞めざるを得なくなる。


路頭に迷う。


思考が歪む。


逃げ場のなくなった肉体は、誰かを傷つけるために動き出す。


赤の他人からろくでなしと非難される。


家族に石を投げつけられる。


そんな未来を想像しては吐き気を催し、君は首を括る。


首に全体重がかかる瞬間に夢から覚める。



もちろん、現実逃避するべき、ということではない。


確実に、現実を一歩一歩進んだ方が、今後の人生の糧になるだろう。


しかし、現実を歩いたまま平衡感覚をなくし、現実から滑り落ちてはならない。


それならば、一回、道を外れることも必要だろう。


ウサギとカメのように、カメには追い付けないかもしれないが。


逆に言えば、一回休憩してもポテンシャルを秘めていれば、一歩一歩積み重ねた亀にも互角に渡り合えるということだ。



そんな言葉を言い訳にして、僕はまた液体と錠剤を用意した。


今日だけ。今日で辞める。


そんな決心はいつも脆く崩れ去り、甲子園常連校のような回数を数えた。



現実と夢と妄想と罪悪感を全てミキサーに混ぜて一つの液体にする。


そして出来た黒い液体を飲むと、僕の体は真っ白に染められる。


頭の中は雷が落ちたように、体はレントゲン写真になる。


現実も夢も混同してしまえば幸せだ。



だから俺は喉を取り外す。


そして、喉仏のあたりに睡眠薬を取り付ける。


言葉も呼吸もつっかえる感じがする。


その異物を取り除くように、ウイスキーを流し込む。


口の中にいっぱい入れたアルコールは口内を傷つける。


俺は名のわからぬウィルスを殺すためにうがいをした。


うがい薬は捨てずに飲み干す。



喉を塞いでいたものが熱い液体と一緒に中へ入っていくのを感じる。


次第に頭の中が消えていく。


脳みそがすべて誰かに吸い出されてしまったようだ。


丸いものは四角く、四角いものは丸くなっていく。


家が傾き始めた。


速報は何もない。


テレビは呪文を唱えている。


画面の住人は奇妙に笑っている。


「建前」が仮面を付けている。


リモコンを連打して、世界を消した。


床が頭にぶつかった。


服が歌いだす。


踊りだしたドレッシングは僕を歓迎している。


僕の脳内がスコップで何度も掘り起こされている。


目が裏側に行こうとする。


手と足がどちらかわからない。


虹色が襲い掛かってくる。


僕は何回転もしてそれを払う。


部屋が暴力を振るってくる。


飛行機が耳元で飛んでいく。


血液が高速で循環する。


世界は僕のためにあった。


私は僕は自分はあなたは俺は。


空気とあなたに二酸化炭素でしくじります。


頭へ木が生えて冷たい味を着ていますか?


服だ皮膚か靴下にいす。


痛い痛い痛い痛い痛い


気持ちいい気持ちいい気持ちいい


花火が爆発して内臓が破裂しましです。


頭には何も消えていいです。


離れた心が徐々に体に追いついている。


ウサギが喉を捉えにきた。


現実も未来も消えていった。



俺は夢の中へ落ちていった。



そして僕は、現実に帰ってきた。

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二十代のうちは現実逃避が許される。だから、喉を外して睡眠薬を取り付けろ。 いありきうらか @iarikiuraka

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