第1話 安土美咲の勘違い
スパーン
スパーン
さてここで問題です。この擬音語は何をしている時の音を表しているでしょう。
剣道かな?クリケットかな?それともコーフボールかな?
残念。正解は弓道でした。パチパチパチ……。
ちなみにコーフボールとは、男女混合で行うバスケットボールのような競技である。男女混合に釣られたものの、試合で異性同士のマークは禁止なようなので冷めてしまった。
暇をしている俺は一人悲しくクイズ大会と豆知識を披露している。ふっと顔を上げると音を鳴らしていた本人がこちらに向かってくる。
「涼くん。タオルを」
こちらに手を伸ばして俺が右手に持っている物を要求する。
「あげないって言ったら?」
俺を暇にさせた腹いせに意地悪をしてみる。
「殴り殺すわ」
「せめて矢で射抜くとかにしてくれよ……」
キャラ設定弓道部なんだし……。いや、矢で射抜かれるのもやだけどね?矢だけに。てへぺろ☆
「早くくれない?涼くん」
まずい、これは完全にキレてる。
おそるおそるタオルを彼女の手に置く。
「ありがとう」
そう言って汗をタオルで拭うと一人部室へと向かっていく。
俺は今日放課後弓道場に来るようにある先輩に言われていた。
その先輩の名は安土美咲。先程タオルを渡した彼女だ。
彼女はうちの学校の弓道部の部長をしている。弓道の成績は県でも三本の指に入るらしく、うちの学校だけでなく他校にも彼女の名は広く知られている有名人。
そんな有名人になぜ今日呼び出されたのか。
大会が近いけど部員が居ないので手伝ってくれ。と言われたが、まぁ他の理由もあるだろう。
「ごめん涼くん!待った?」
美咲先輩がこちらを見つけて走ってくる。
「はい。先輩が何も言わずにどこか行ったので」
あの質問の模範解答は知っているがあえてそれは言わないでおく。
「ご、ごめん。あの時は集中してたから……」
そう。彼女は天性の集中力を持っており、それを活かして弓道部に入っているが、集中力が凄すぎて一度何かに集中してしまうと周りが見えなくなり、なおかつ性格も氷の女王に変わってしまう。
「いや別に怒ってませんよ。先輩がしっかり集中できてる証拠なんで」
俺の言葉を聞き、彼女の顔が一気に明るくなる。
「ほんとう?よかった!」
大きくてとても柔らかそうな胸をほっと撫で下ろす。
「それで、なんで今日は呼ばれたんですか?」
「そ、それはね……」
急にモジモジし始める美咲先輩。それを眺めていると急に意を決したように俺を見上げて叫ぶ。
「り、りょうくんが私と一緒に帰りたいかなって思って!!」
勢いよく俺を見上げた反動で彼女の胸が揺れている。一度俺を虜にした胸を見ながら思い出す。
そういえば俺は、先輩の弓道の時とのギャップとこの胸にやられたんだったな……。
現実世界に思考を戻す。なぜ彼女はこんなことを言っているのか。別に一緒に帰りたいなんて言ったことも無い。では何故か。
それは、
「涼君は私のことが好きなんでしょ?なら一緒に帰るくらいはしてあげてもいいかなって……」
先輩は俺に好意を持たれていると勘違いしているから。
そして多分、先輩は俺のことが好きなのだろう。つまり彼女の中では俺たちは両思い。かなり重度な勘違いだ。
その事を告げたら先輩多分恥ずか死♡しちゃだろうから言えないが。
まあでも、一緒に帰るくらいなら付き合おう。
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