魔石×魔力=召喚

 更に3日ほど経った。


 3日経ったと思うのは、地球と同じようにこの世界にも昼と夜がおとずれるからだ。


 違う点があるとすれば、月が3つあることだろうか。

 色も異なっていて1つは赤い月、もう1つは青い月、残る1つは白い月だ。


 レボルに聞いてみたら、それぞれの月に女神が住んでいるとかいないとか。

 

 試しに月に向かって魔力探知をかけてみたら、確かに1つとも大きな魔力反応があった。

 そのうちの1つはアシュタルテのものだったので、本当に月に住んでいるらしい。


 私が月と呼んでいるだけで実際は違うのかもしれないけれど。


 アシュタルテについては顔と魔力は一致するから、いつでも会いに行ける状態ではあるから、今度行ってみようかしら。

 最初の時みたいにお願いしたら、他の女神に会わせてくれるかもしれないし。


 まあ女神についてはセバスが調査中だし、優先順位もそこまで高いという訳ではないから急ぐ必要はない。


 今は女神よりも大事なことがあるのだ。


 本日は完成した試作品の記念すべき実戦投入である。

 そう、魔石の状態から魔物を召喚するのだ。


 魔石に含まれる魔力と情報の研究を進めた結果、魔石に保存された魔物の情報を具現化することに成功したのだ。


 私の魔力で調整したこの試作品1号は、魔石に微量の魔力を流し込むことで反応し、魔物を生前の状態で召喚することが可能となる。


 現在、私は試作品1号を持って魔王城の外に出ている。

 実際に召喚し、魔物相手に向かっていくか試す必要があるからだ。


 城の近くだからか、門番であるアークデーモンが見ているけれど、別に見られたからといって困るようなものでもない。


 試作品1号の相手となる魔物は、アンにお願いしておびき寄せてもらう手はずとなっている。

 ゲームのように同じ場所を行ったり来たりしているだけで敵とエンカウントするようなことはないのだ。


 と、アークデーモンの後ろに隠れているカイルを発見する。


「あら? どうしたの?」


「エリカおねーちゃん、なにをするの?」


「そうねえ、説明が難しいわね。カイルくんも見てみる?」


「! いいの?」


「もちろんよ」


 このあたりの魔物の強さはアンから報告を受けている。

 特に問題のないレベルの個体ばかりだ。


 それに、いざとなればアークデーモンもカイルを守るだろう。

 現に今だって、とてとてとて、とこちらに向かって走ってくるカイルの後ろをそわそわしながら追ってきている。


 表情はよく分からないけど感情は慈しみに溢れていたので、アークデーモンから見てもカイルは可愛いのだろう。


「さて、そろそろかしら」


 向こうから近づいてくる魔物がいた。

 正確には飛んできている。


 ドラゴン? とはちょっと違うようだけど。


 全身は緑色で前肢と翼が一体化しているし、翼はどちらかというとコウモリのような被膜だ。

 尻尾は矢じりのように尖っている。


 ステータスは、っと――ワイバーンね。


 レベルは66。

 口から火を吐くといったブレス系の攻撃は無い、か。


 アークデーモンよりも大きいけれど、ステータスを視る限り特殊な攻撃は持っていないし、危険はなさそうね。


「じゃあ、試してみましょうか」


 私はポケットから魔石を取り出す。

 今回使用する魔石はオリハルコンゴーレムのものだ。


 この世界で2番目に硬い鉱石のオリハルコンでできている魔物で、倒せば魔石のほかにオリハルコンも手に入れることができる。


 セバスが仕入れてきた情報によると、善人が買い取りを依頼していた建物はギルドと呼ばれる場所で、魔物を狩って生計を立てている冒険者が利用している。

 

 冒険者の収入で安定しているのが魔石と鉱石の買い取りで、ランクに応じて価格が設定されているそうだ。


 善人をサポートすることや、召喚が可能となった魔石を販売するための店を購入する資金を考えると、お金は用立てておく必要がある。


 アンが狩った際に出た魔物の素材や、オリハルコンも回収済みだ。


「ワイバーンの爪や鱗も売れるといいのだけど」


 そんなことを考えつつ、魔石に魔力を流し込む。

 魔石が私の魔力に反応し、光を放っている。


 よし、ここまでは順調ね。


 どんどんと輝きを増す魔石を、前に向かって放り投げる。 


 カッとひと際強い光を放った次の瞬間……私の前には太陽のように輝くゴーレムが現れた。


 体長はアークデーモンとほぼ同じくらい、ステータスにはオリハルコンゴーレムとあるので、うまくいったようだ。


 魔力の繋がりは――うん、ちゃんとあるわ。


 魔石に含まれている魔力と、自分が流し込んだ魔力を同調させることで、制御可能にした。


「やりなさい」


 迫りくるワイバーンを指さしながら命令を出すと、オリハルコンゴーレムはワイバーンの翼を掴み地面に叩きつけた。


「ギャース‼」


 ワイバーンの片翼が折れる。

 追い打ちをかけるように、オリハルコンゴーレムがワイバーンの首目掛けて勢いよく足を踏みつけた。


「グゲェーッ!?」


 そのままワイバーンはピクリとも動かなくなった。


 試作品としては上々の結果だけど……うーん。


 売りに出せば間違いなく売れるだろう。

 魔物が少量の魔力を流し込むだけで、自分の思い通りに動くのだ。

 戦闘の幅も広がる。


 でも、もしも戦闘以外に使われたら……例えば、魔物相手ではなく、人間を襲うために使われたら……。


 その可能性は否定できない。

 人間は弱い生き物だもの。


 善人の助けになればと思ったけど、売りに出すのはやめておいた方がいいかもしれないわね。

 研究は続けていくとして、自分たちで使用するだけに留めておきましょう。


 そんなことを考えていたら、アークデーモンが近寄ってきた。


「おい」


「なんでしょう?」


「あれはなんだ?」


「ああ、私が召喚したオリハルコンゴーレムですわ」


「は? 召喚した?」


「ええ、魔石の状態から」


「はぁ!?」


 ちょっと驚きすぎじゃないかしら。

 

「この通り制御可能ですし、私以外の方にはできませんから安心してください」


「いや、貴様が出来るという時点で恐怖しかないぞ」


 そう言うアークデーモンの肩は震えていた。


「まあ、私のことをいったい何だと思ってらっしゃるのかしら」


「それは……いや、何でもない……」


 無理やり聞いてもよかったが、カイルがいるのでやめておく。

 カイルの前では優しいお姉さんでいたいのだ。


 さて、試作品の結果も出たし、善人のサポートに力を入れていきましょう。

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