できる執事は察しがいい
セバスに調査を依頼してから3日。
私はアンが採ってきてくれた魔石を調べていた。
大小さまざまな大きさや形をしている魔石があったので、全て触れてみる。
共通して言えることは、どれも魔力が多く含まれているものばかりだということだ。
魔王城の近くだけあって、生息している魔物が強いせいもあるのだろう。
保有している能力の1つ、『鑑定』を使って更に詳しく調べてみると、魔力の他に魔物の情報が記憶されていた。
もしかしたら私以外に気づいている者もいるかもしれないけど、活用方法までは考えついていないはずだ。
私の考えが正しければ――使い切りではあるけれど、倒した魔物を手駒として召喚することができるかもしれない。
やってみる価値はあるわね。
成功すれば単純に戦力の増強に繋がるし、いざという時にパーティの
魔石の大きさにもよるが、持ち運び可能なところもいい。
実用可能になったら、
他には転移門の設置にも使えそう。
転移門というのは、行き来する互いの場所に設置することで、制約なしに人や物を送り込める装置だ。
転移魔法の場合は、術者が使用しないと場所を繋ぐことができないし、その間は魔力を消費するからずっと繋いだままにしておくことはできない。
私なら1日くらいなら問題ないけれど、消費する魔力は距離に比例する。
今はまだいいけど、いずれは頻繁に行き来する必要が出てくるはず。
魔力供給は魔石で代用できそうだし、後は他の素材を集めておかないといけないわね。
そんな調子で魔石の用途に夢膨らませていたら、セバスから連絡が入ったので転移魔法を使い、同じ場所と繋ぐ。
「ただいま戻りました、お嬢様」
「お帰りなさい、セバス」
さて、いったいどんな話が聞けるのかしら。
「まず、
「鋼太郎の性格は?」
「かなり好戦的でいらっしゃる方のようです。基本的にパーティの助言を聞くことはほとんどなく、自分が主体となって前に進むタイプ、とでも申しましょうか。お仲間の方も苦労なされているご様子でした」
猪突猛進タイプね。
型に嵌まると厄介ではあるけれど、考えを読むのは容易い相手でしょうから、脅威にはなりえないでしょう。
「女神イシュベルから授けられた恩恵は3つ。経験値3倍と属性耐性は善人様と同じですが、残る1つは狂化という能力です」
「狂化、ね……効果は?」
「使用することで3分という制限付きですが、ステータスを大幅に上昇させるというものです。ただし、使用後は反動で1時間身動きが取れなくなるデメリットがあります。また、この能力は1日に複数回は使用できないようです」
効果時間に対してのデメリットが長い気もするけれど、それだけステータスの上昇率が高いということ?
一時的に力が増すのは注意すべき点ではあるけど、現時点で警戒が必要とまでは言えないわね。
私は頷いてセバスに続きを促す。
「次に定森
セバスが言いよどむ。
完璧執事の彼には珍しいことだ。
言いにくいことなのかしら?
「どうしたの?」
「その、お嬢様には少々刺激が強いかもしれません」
「『敵を知り己を知れば百戦危うからず』と言うでしょう? 善人の敵になるかもしれない相手だもの。どんな些細な情報でも頭に入れておかないといけないわ。続けてちょうだい」
「戦闘では沈着冷静に対処する頭脳派です。パーティに的確な指示を出し、自身で止めを刺す姿をよく目にしました。ただ、英雄色を好むと申しますが、駿という勇者もその傾向が強いようです。他のお二方と違い、女性だけのパーティなのですが、毎晩違う女性を寝室に招いていらっしゃいました」
「……それは、パーティの女性全員と関係を持っている、ということかしら?」
「その通りでございます」
セバスはちらちらとこちらの様子を
心配してくれるのは嬉しいけれど、それは杞憂というものだ。
この程度で顔を赤らめるほど私は乙女ではない。
いや、見た目は可憐な少女ではあるのだけれど。
まあ、地球とこの世界では何から何まで違うことだらけでしょうし、人にはない力を手に入れて勇者と褒めそやされれば、気が大きくなってしまうかもしれない。
私は視線で続きを促す。
「女神フローヴァから授けられた恩恵は3つ。2つは善人様と同じですが、残る1つは魅了という能力です」
「魅了?」
「はい。かけられた相手はどんな命令でも聞いてしまうようですね。一種の洗脳に近い状態でしょうか。ただし、確認したところ魅了が効く相手は女性限定でした」
「ちょっと待って。もしかしてパーティの女性にも使っていたり……?」
「恐らくは」
鋼太郎と比べると駿のほうが厄介ね。
単純な力でいえば鋼太郎でしょうけど、駿には魅了がある。
仮に善人のパーティの女性に魅了を使われたら。
ここぞという時に裏切るように仕向けられる可能性だってあるのだ。
パーティの女性に魅了を使用しなかったとしても、安心はできない。
どの女性が魅了されているか、善人には判断がつかないのだから。
早い段階で魅了の効果を打ち消すアイテムを開発しておく必要があるだろう。
それにしても、善人だけ恩恵が1つだなんて……アシュタルテが無能なのか、それとも他に女神が優秀なのかしら?
まあいいわ。
相手のおおよその能力が分かったことだし、対策は立てやすくなった。
私は喜びを胸に、満面の笑みをセバスに向ける。
「さすがセバスね。短い時間でこれだけの情報を集めてきてくれたんだもの。貴方には感謝しかないわ」
「もったいないお言葉です。それと、もう1つお嬢様のお耳に入れておきたいことがございます」
「あら、何かしら?」
「2人の勇者は、最初に魔王を倒したら願いをなんでも1つ叶えると女神から伝えられているようです」
なんでも1つ願いを叶える、ね。
なるほど、それで他の勇者に対する感情が良くなかったのね。
競わせるのは悪いことではないけれど、今のところ誰も魔王を倒せていないところをみると、功を奏していないように思う。
「女神の意図が知りたいわね」
「そちらについても調べておきましょう」
さすがセバス。
お願いする前に私が欲しい答えをくれる。
「ありがとう。でも今日のところは体を休めてちょうだい」
「お心遣い感謝いたします」
そう言って、セバスは部屋を後にした。
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