最強の転生令嬢、異世界へ行く
洸夜
幼馴染をたずねて異世界へ
私の名前は二階堂エリカ、17歳。
私には前世の記憶がある――しかも99回分。
嘘だと思うかもしれないけれど本当のことだ。
初めて転生した時にはビックリしたものだけど、それも2回、3回と続き10回を超えた時には「ああ、またか」という気持ちしか浮かんでこない。
ここで重要なのは、私が引き継いだのは記憶だけではないということだ。
そう、99回の人生の中で得た能力も全て引き継いだ状態で転生していた。
能力には魔法と呼ばれるものやスキルと呼ばれるもの、剣術、称号による恩恵など、ありとあらゆるものが含まれる。
これは転生するたびに違う世界で生まれ変わったことが関係しているのではないかと思っている。
思われる、というのは私の中で断定できる証拠が何もないからだ。
ただ1つ断言できるのは、今の私は圧倒的な力を持っているということだ。
例えるなら、物語の世界に現れる神様のように、どんな盤面も1人でひっくり返すことができる理不尽な存在――それが私、二階堂エリカなのだ。
使う機会なんてないのだけれど。
この世界はとても平和で、平凡で、そして退屈すぎるのよね。
私の家が恵まれているということもあるだろう。
私の家――二階堂家は元華族の血を引き、世界中に会社をいくつも経営している、超がつくほどの名家。
日本人の父親は眉目秀麗で、イギリス人の母親も容姿端麗、そんな2人から生まれた私は美しい少女の姿をしている。
母親譲りの金色のストレートヘアーはさらさらで美しい光沢を放ち、透き通った乳白色の肌はシミ一つなく、滑らかなモチモチ肌だ。
目鼻立ちもお人形のように整っており、可憐さと繊細な美しさを備えた美少女だ。
私は一人娘だったこともあり、幼い頃から両親の愛を一身に受け、これまでなに不自由なく育てられた。
十分すぎるほどの教育を受けただけでなく、転生者としての記憶と能力を持った私は、現在通っている高校の定期考査では常に1位を取っているし、体育の授業でも他の生徒を寄せ付けない活躍を見せている。
血筋、家柄、財力、容姿端麗で成績も優秀。
当然、男子が放っておくはずはなく、これまでに告白された回数は100を超える。
もちろん、全て断ってきたけれど。
彼らは私という人間の外面しか見ていない。
まあ私自身、話しかけられても当たり障りのない返事しかしないのだから、仕方のないことかもしれない。
それに私は、相手の心が読める能力を持っている。
読めるといっても考えていることすべてが分かるわけではなく、感情が読み取れるという限定的なものだ。
それでも相手の真偽を確かめることができるので便利だ。
告白を断られた中には、諦めきれずに逆上して無理矢理私を襲おうと企む輩が何人かいた。
見た目がか弱く見えるから、力づくならとでも考えたのでしょうけど、無謀としかいいようがない。
そんな時は私が実力行使をする――までもなく、私専属の執事とメイドが撃退してくれる。
執事の名前はセバスチャンで、愛称はセバス。
年齢は50歳で、黒の執事服に白髪のオールバックに整えられた口ひげが良く似合う紳士である。
特技は気功と体術、潜入のほかに料理などの家事全般も完璧にこなすダンディな執事なのだ。
メイドの名前はアンナリーナで、愛称はアン。
年齢は25歳で、ロングスカートのメイド服と、後ろに纏めた銀髪に青い瞳、笑うとむき出しになる八重歯が可愛らしい美女である。
特技は狙撃とスカートの中に様々な武器を隠し持つことだが、家事は一切できない。
語尾に「っす」をつける、ちょっとお茶目なメイドだ。
私がスカウトしてきた2人は、常に私からは見えない位置で見守ってくれていて、私に危険が及ぶ前に察知して即座に対処してくれる。
というわけで、今のところ私が本当の力を見せる機会はない。
だけど、本気が出せないから退屈かというとちょっと違う。
そう、たった1人だけ私が興味を示し、心を揺さぶられる存在がいるのだ。
その人物の名前は、一ノ瀬
私の幼馴染で同じ高校に通っている。
幼馴染といっても、彼の家はごく一般的な普通の家庭だ。
幼稚園で初めて出会い、そこから彼と同じ小学校、中学校、そして高校に通っている。
彼のどこに興味を持ったのかと言われたら、真っ先に在り方だと答える。
善人には、他の男子のような裏表の感情が一切ない。
彼の中でひときわ大きな感情――それは、困っている人を助けたいという善なる心。
どんな些細な困りごとでも親身になって話を聞き、手を差し伸べる。
一度だけ理由を聞いたことがあるけど、返ってきた答えは「みんなを守れる存在になりたい」だった。
小さい頃に、アニメやゲームに登場するヒーローや勇者に憧れる男の子というのはよく聞く話だけど、その気持ちを17歳になった今でも持ち続けているのだから、彼への興味は尽きない。
この退屈な世界において、実に貴重な存在だ。
今の私の気持ちを表すなら『陰で見守りたい』、これが一番近い。
善人の願いが叶うかどうかを見守る日々、それが今の私の唯一の楽しみだった――そう、これまでは。
私がいつも通り学校が終わった後、善人を離れて見守りながら帰宅している途中にそれは起きた。
急に前を歩いていた善人の体が、淡い光に包まれたのだ。
光はどんどん明るさを増していき、ひと際大きな光を放ったかと思った次の瞬間、善人の姿は消えていた。
いきなりの出来事だったけれど、見当はついている。
あの光には膨大な魔力が込められていた。
そして、転移魔法を使用した際の光によく似ていた。
もちろん、善人は転移魔法なんて使えない。
ということは、何者かが善人に転移かそれに類する魔法を使用した、と考えるのが普通だ。
問題は善人がどこに行ったかだけど……。
私は久しぶりに魔力を使い、善人の居場所を探ることに集中する。
手掛かりが何もない状態で探すのは難しいのだけど、幸い私は善人の髪の毛入りのお守りを肌身離さず持っているので問題ない。
どうやって手に入れたかはもちろん秘密だ。
意識を集中させること数秒、すぐに反応があった。
見つけた……けど、この場所は……。
善人は、この世界とは異なる世界にいるようだ。
普通の人間であれば、どうすることもできないと嘆くのだろうけど、転生を99回繰り返している私は転移魔法が使える。
さて、善人を追いかけるか、それとも追いかけずにこのまま退屈な日々を過ごすか。
悩むまでもないわね。
私は居るであろう2人の名前を呼ぶ。
「セバス、アン」
「ここに」
「はいっす」
2人は音も立てずに私の前に現れる。
「これからちょっとだけ遠くに行くのだけど、ついてきてくれる?」
理由は告げない。
返ってくる答えを私は知っているからだ。
「どこへでもお供致します」
「もちろんっす」
私は2人に優しく微笑む。
「ありがとう。じゃあ2人とも私の手を握ってちょうだい」
2人の手を握った私は、善人の反応があった場所を思い浮かべながら転移魔法を使用した。
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