第陸章  逆襲花嫁事変〜朔と桂の現実逃避『天空離宮と後六天空』〜

 あたり一帯が紅く染まる。


 紅蓮の焔は、森を焔で呑み込んでいく。


 森の中を焔を身に纏い背中に翼を生やした【大蛇】が這いずり、【大蛇】の身体が触れた箇所がたちどころに焔と化す。この焔が広がり、今の森林火災状態である。


 この【大蛇】は、はじめの【ヴァジュラ・騰蛇とうだ】の【第3解放・變生へんじょう】の【神獣形態】である。見た目は『紅蓮の焔を纏いし翼ある大蛇おろち』だが、実は【地竜】である。


【地竜】なので当然、【飛行能力】はない。背中に翼が生えているが、そもそも【竜】の巨体を翼程度 で浮かせられるはずがない。【騰蛇】の【翼】は『触れるモノ全て焔と化す』【騰蛇】の身体に触れそうなモノを払うのが主な用途のようだ。つまり腕の役割である。【神獣体】の【騰蛇】には腕や脚がない。故に【蛇】のように地を這って進む。地に触れる腹の部分まで可燃性だと自身も火だるまなので、そこは燃えないようだ。


【下級妖魔】の群れは、森に入った瞬間に焔に巻かれ灰塵かいじんと化す。後続する【下級妖魔】は先陣の有り様を見ているにも関わらず、森に突っ込んで来て同じく灰塵となる。ここまで学習能力が欠落していれば、アホを極めていると言うしかない。


 唯一の救いは、跡形なく消滅していることだ。忍武が不快感を味わったような【無課金】でも見たくない『ゾンビホラー』映像になっていない。


 後続の気配がなくなったので、【騰蛇】は朔が居る【】へと進行方向を変えた。敵襲が来ないので、帰りは障害物を【翼】で払って可燃させないよう気を付けて進む。


 森は燃え続けているが、【闘戯とうぎ結界】が解除されれば元の鬱蒼とした森に戻るので【騰蛇】はそのまま放置して進む。


 すると、【鱗】がジュウッと水を蒸発させた時の音を発している。【騰蛇】は鎌首をもたげて伸び上がる姿勢をとる。頭にポツリと水滴が落ちたのがわかったが、一瞬で気化した。


 騰蛇「………」


 空を見上げて、そこに黒曜石のような美しい輝きをしている黒い【鱗】が動いているのが見えた。


 騰蛇「【季卿公きけいこう】の【神通力】だな」


細雨さいう』という静かな雨音で降り続く弱めの雨だが、【竜種の王族】である【黒竜王】の【神通力】で降り注ぐ雨は、森を覆う【騰蛇】の業炎すらも鎮火していく。


季卿きけい】というのは、【竜種の王族】の【官職名】のようなものだ。日本で例えれば【大納言】【中納言】に当たる。


 騰蛇「はじめと合流するか」


【黒竜王】が雨を降らせているお陰で【騰蛇】は障害物を払う必要なく、スムーズに這って進める。



   ◆   ◆   ◆



 時間が戻るが、はじめは【騰蛇とうだ】に雑魚の相手なんて1人でも余裕だろ、と言って【第3解放・變生へんじょう】の【神獣化】をさせると森に放置してかつらを伴って立ち去って行った。


 一般常識では、朔の行いは危険な爬虫類(?)を野放しにするダメな行為だが、【騰蛇】は朔の【ヴァジュラ】なので基本、朔の指示に従う。また本来は【神獣】なので知能が並の秀才より優れているので、これは【遠隔操作】ということにしていいだろう。


 朔は、桂に話があるので宙広そらたの【探査能力】に引っかからない所へと言った。


 それはつまり、桂の【ヴァジュラ・後六天空こうろくてんくう】を【第四解放・神機しんき】にしろということだ。【十二天将】の【神機】は基本、【乗り物】と考えられているが【後六天空】は【天空宮殿】という『空に浮かぶ城』──────────【天空城】や【浮遊城】に該当する──────────が【神機】になる。


【宮殿】なので【茨木童子の城】と同じ規模かそれ以上だが、桂は【幻術】を得意とする【忍】なのでこの【天空宮殿】の規模を自在に調整できる。【幻術】は【術師】の【想像力】と【創造力】で構築する【術】である。桂は【幻術】の要領で【天空宮殿】のサイズを調整した【天空離宮】と名付けた【天空宮殿】の半分の規模に縮小された【神機・後六天空離宮】を【鬼ヶ島】上空に出現させた。


 朔「ホントに【浮遊城】だな。マンガみてえ!」


 上空の【天空離宮】を見上げて朔は、どうやってあそこまで行くんだと聞く。


 桂「【天空離宮】は【後六天空】の【半身】を【神機】にして残りの【半身】を【變生へんじょう】させて【宮】内で待機している」


【逆口寄せ】してもらえば行ける、と桂は答えた。


【逆口寄せ】とは【契約】を結んだ【霊獣】(神獣・精霊獣含む)を【術師】が【召喚】(口寄せ)するのと逆の動作だ。つまり【霊獣】の居るほうに【召喚】してもらうことである。【逆召喚】とも言うが、【忍の一族】は【口寄せ】と言い方をする。


 朔「そんな方法アリなのか?」


 桂「試しにやってみたら出来た」 


 桂は、場に縦横1メートルぐらいの正方形の【ハトロン紙】を広げた。そこには【陣】が描かれている。【召喚紙しょうかんし】と呼ばれる【アイテム】である。【夜狩省】の認可で【各ギルド】で販売されている。また、【鬼道衆】の【術師】が『お小遣い稼ぎ』に【露店売り】や【担ぎ売り】をしていたりもする。【召喚紙】は1度の使用で消滅する1回使い切りなので、結構いい『お小遣い稼ぎ』になる。


【召喚紙】を使う者は、【召喚術】が使えない者なので【血印】─────────【チャクラ】を込めた【血判】──────────を使って【口寄せの術】を行う【忍】には【召喚紙】は必要ない。


 桂がわざわざ【召喚紙】を広げたのは、それに何か意味があるのだろうと朔は【召喚陣】を凝視する。マンガなどの【召喚陣】だと【ルーン文字】がびっしりと書かれているのだが、朔はそこに書かれているのが【漢字】だったことに少しガッカリする。ちょっと『ファンタジーゲーム』っぽいとワクワク感があったからだ。


 朔(見慣れた【漢字】だと気分が萎えるな………)


 朔は、自信の【ステータス】を【戦闘】向けに鍛えてきたので、【召喚術】はあまり得意ではない。しかし、朔の場合は得意ではないが使うことはできる。『千年に1人の天才』の呼び名は伊達ではない。桂は朔とは正反対の【術師】タイプ──────────能筋寄りではあるが──────────なので、朔が知らない【召喚陣】の知識が豊富なので【ルーン文字】とか【エルフ文字】を期待していたようだ。


 朔はつまらなさそうに、【召喚陣】の【漢字】を眺めて──────────つまらないと思いながらも文字だけは読んでいる──────────ひとつの文字に釘付けになった。だがそれも一瞬ですぐに別の文字に視線が向くが、2度3度同じ視線釘付けをする。


 朔(【繁体字はんたいじ】とか【簡体字かんたいじ】の類か?)


【漢字】だったので、すぐに気づかなかったが【中国語】の【文字】だということがわかった。


 桂「【古代殷周文字】が読めるのか?」


 朔「これ、【古代文字】だったのか?」


 桂は解読しているのではなかったのか、と言って所々に【象形文字】が混じっているだろうと示した。


【象形文字】は【漢字】の元になった文字である。文字より記号に近い形の字だ。


 朔「今さっき、【中国語】かもしれないと思った所だ。そこまで気づかねえよ」


 正直に自己申告する。桂は【IQ】が高い。そんな相手に知ったかぶりの見栄を張るのはバカの極みと朔は理解している。


 桂「この【陣】は【十二天将】を文字で並べただけのものだ。いわゆる【占事略决せんじりゃっけつ】だな」


【占事略决】とは【陰陽道】について記された書物とも【陰陽道】で使用する【式盤】とも伝えられている。どちらが正解かはこれを残した【平安時代のレジェンド陰陽道】の【安倍晴明】にしかわからないだろう。【陰陽道】が【星】を詠んで【運勢】を視ることから、どちらも間違っていない気がする。


 桂「【陣】の上に乗れ。これは【シン】(後六天空の真名)の所に直通だ」


 この【召喚紙】は【後六天空】が【逆口寄せ】専用に桂に持たせたものだった。


 朔と桂は【陣】に乗る。一瞬で風景が変わった。


「おかえりなさいませ。【マスター】。朔様、ようこそお越しくださいました」


 執事服姿の美青年が腰を30度に曲げる完璧な敬礼で迎える。


 朔は、少し考える。この青年は本職の【執事】か【執事】のコスプレイヤーか。そして、ただのコスプレ趣味だと結論づける。それは、この青年が【後六天空】の【變生へんじょう】した【人型モード】だからである。


 朔「はじめまして………だよな【人型】の姿で俺と対面するのは」


【後六天空】は【六合りくごう】【玄亀翁げんきおう(玄武の亀)】と同様、【代替わり】をしていないので、【霊獣体】が【竜】であることも相まって老人の姿を想定していた。


 桂「ジジイの姿を想像してただろ」


 桂は、【代替わり】していない【竜】という【長命種族】から当然の予想だな、と言っている。


【後六天空】が、応接室にお茶の御用意をしております、と案内する。非の打ち所がない完璧な執事ぶりだ。


 応接室には欧州貴族のアフタヌーンティーのような本格的なティーセットが用意されていた。座席は朔が奥で桂が入口に近いほうへ着席する。


 座った途端にものすごい体が沈んだふかふかのソファーに、ダイブして座り直したい感触と朔は感想を浮かべる。そして、テーブルのケーキスタンドに視線をやる。


 朔(スッゲーガチなスィーツだが、これ【幻術】か?)


 現状、襲撃に備えて別の場所では、間引きの戦闘をしているのでインテリアに出しているだけのものと朔は思っている。


 後六天空「朔様、【幻術】ではございません。お茶を御用意するのにお茶受けがないのは味気ないので、御用意いたしました」


 勿論、ご賞味いただいても結構ですがお土産にお持ち帰り頂いても構いません、と【後六天空】はお菓子は【ホンモノ】だと告げた。ティーポットからカップに紅茶を注いで朔と桂の前へ置く。


 朔「ホンモノの執事みたいに見えるな」


 思ったことを口にしただけだが、【後六天空】は【竜王家】の【宦官】をしていたので【現代風】に言うと、【執事】で間違いないと告げた。


 朔「サラッと言葉の爆弾落とした!」


 桂「今、飲み物を盛大に吹く場面だった………」


 朔も桂も紅茶に口をつけていなかったので、『お約束シーン』にならなかった。


 朔「何をがっかりしてんだ!」


 吹きたかったのか後片付けする奴のこと考えろよ、と朔はリアルなツッコミをした。


 桂「シンが去勢してるのはわかっていた。実はな、蜃とは【太乙真人たいいつしんじん】の頃からの旧知の仲なのだよ」


 まあそうだよな、と朔は納得した。


朔「【古代中国】の【仙人】だったわけだから、【十二天将】の【代替わり】してないヤツらは『知り合い』だろ?」


 國光だったら絶対に、リアクションを返してくれるのにお前は物わかりが良過ぎてツマラン反応だ、と桂はがっかりする。


 朔「いや、しただろ!さっき【宦官】の所で!」


 言ってて朔は、『下の話』に食いついたと強調している気がしてきた。


 桂「何か『下ネタ』以外で朔が食いつきそうなネタはないだろうか………」


 後六天空「僭越ながら、私めの【真名】の読みが紛らわしいとおっしゃられていたことなど、いかがでしょうか?」


 これは、【宦官ネタ】を強制終了しにかかっていると判断するべきだな、と朔は察した。【宦官】になったいきさつは超気になるが、朔は聞きたいことがあって人目を避けられる場所を用意させたので強制終了に乗っかっておく。


 桂「そうだった………朔、こいつの【真名】、【シン】って言うんだけと………【現神うつしよしん】に【悪神・シン】っているだろ。漢字の音読おんよみとで発音は少し違うが紛らわしいから改名を考えている所だ」


 何かいい名前はないだろうか、と桂は朔に意見を求める。


 朔「お前、ゲームの『ユーザー名』変えたいみたいなノリで言ってるが、【真名】なんだよな?そんな軽い感じで改名していいのかよ」


【真名】には【霊力】が宿ると言われているので、【真名】の改名は深刻な理由がない限りしないはずだ。


 桂「因みに、【蜃】は【ハマグリ】を意味する」


ハマグリ】は【竜種】の【眷属】になる。【後六天空】の【霊獣モード】は【虹蛇こうだ】と呼ばれる【天竜】である。【ハマグリ】は【虹蛇】の【眷属】だ。


 朔「【後六天空】の名前を考える前に、お前【悪神・シン】と言ったな。あと、【シン】の発音が英語とも」


【悪神・シン】の名は、『とある影の組織』の関係者しか知らない。更に桂はその名が【英語】で【罪】を意味することもわかっている。


 桂「【ゼロ機関】【大アルカナ・マジシャン(魔術師)】だ。【アルケミー・アーティスト】と呼ばれることのほうが多い」


 あっさりと白状した桂に朔は、【通り名】があることを言及した。


 朔「通り名!お前、【異名持ち】か!」


 桂「ツッコむ所、そこかよ。結構、普通過ぎてイマイチだろ」


 どうやら桂は【異名】が気にいらないらしい。


 朔「贅沢!俺は【異名】ねえぞ!やってることが【刑事】と変わりねえから付けようがねえんだよ」


 桂「【チャリオット(戦車)】だろ………お前【焔使い】だし、【】でいいだろ」


 名案だとドヤる桂に【後六天空】は良うございます、と賛同している。


 朔「お前ら、それはワザとか?何か狙ってる?」


 違う意味に取られる名だぞ、と朔は呆れる。そして、意趣返しに【後六天空】の名を適当につけたものを提示してやる。


 朔「【後六天空】は【古代中国人】なんだから、いっそ【中国語】読みでよくね?」


 後六天空「おお!読み方を変えるのですね!」


 朔の予想に反して喜ばれてしまった。


 桂「【シン】の中国語発音は………【シェイン】か!悪くない響きだ」


 桂に至っては響きが気に入ったようだ。  


 あれ気に入られた嫌がらせ失敗、と朔はがっくりする。


 桂「朔が聞きたかったのは、俺が【0機関】に所属しているか否かの確認か?意外だ………もっと別のことを想定して少し長くなりそうだから、紅茶の用意をさせたのだが」


 無駄になってしまったな、と桂は冷めてぬるくなった紅茶を3口に分けて飲み干す。


 朔「おい、気づいていたのにのらりくらりと話を脱線させていたのか!」


 朔はティーカップのカップを乱暴に掴んで、盃の酒をあおるようにして飲み干す。カップを置く時は流石に割れないようにゆっくりと戻した。


 桂「別に脱線させてはいない。【シェイン】の自己紹介にあった【宦官】のくだりは、無関係な話ではないからな」 


【蜃】の新しい呼び方はかなりお気に召したようで、早速使っているのでもう確定らしい。【後六天空】は、朔に礼を述べて【真名】で呼んでほしいと言うが朔はそれはダメだろうと否を唱えた。


 朔「【十二天将】の【真名】は、【使役主しえきぬし】以外は呼んではいけない決まりだろう」


【真名】を利用して、縛り条件が付与されたりするので【使役主】にすら明かさない【十二天将】もいる。


 後六天空「朔様は、【名付け主】様なので当然の権利でございます」


【十二天将】の常識では、【名付け主】が呼ばないのに『名付けをしなかった【使役主】』が呼ぶことは相手を侮辱する行為になるらしい。


 朔「まあ、【後六天空】って名前長げえし………わかったよ【シェイン】」


 朔と桂は従兄弟同士だが、【風魔】内部では【陵家(本家)】【篁家(分家)】と比較対象に取り沙汰される。従兄弟同士の仲は良好──────────むしろ【陵家】は長男・はがねと次男・朔が不仲だ──────────で何の問題もないので放っておいてほしい所だ。


 桂「それで、何が聞きたい?【起源の大戦】が【天界】の【竜王家】の壮絶な【後継者】争いにからか?」


 朔「いや………そんな生まれる前の昔話じゃない………ってそうなのか!」


【竜王家】は名前のとおり【竜種の王の一族】のことだ。【竜種】の争いと聞いただけで、世界の7割は消滅するだろう、と想像できるが壮絶なともなれば世界が消滅しかねないのではないだろうか。


 桂「【正統後継者】と【謀反者】との争い自体は5000年以上前のことだ」


 その時は、桂は【太乙真人たいいつしんじん】だった。【太乙真人】は【崑崙コンロン十二仙】と呼ばれる【崑崙山】トップクラスの【仙人】のひとりだ。


 桂「【天界】(天上界と人間界の境界に近い場所)と【人間界】は【表裏一体】だというのは知っているだろう」


 朔「ああ………だが、【竜種】が争ったら【世界】が消滅する規模にならないのか?」


 多くの犠牲者を出した【起源の大戦】の殉職者や遺族に対して──────────曾祖母が殉職者なので朔も桂も遺族になるが──────────不謹慎な言い方だが、【天界】の【竜種】の被害が連動したにしては【起源の大戦】は【甲賀の里壊滅】だけに留まったと言える。


 桂「【崑崙十二仙】が超頑張って【地上界】への被害を抑えたんだよ」


 その頑張った【崑崙十二仙】の中には桂(太乙真人)も含まれている。この時代には【楊戩ヤンジン】(遙の前世)は存在しているが、彼は【崑崙十二仙】に含まれていない。実力は【崑崙十二仙】と肩を並べるものだったが、放蕩三昧の性格から【称号】はなかった。


 桂は、別に自慢話をしているわけではないぞと釘を刺すが朔はドヤ顔してるぞ、とツッコむ。


 桂「この時に使用したのが【十二方陣結界】だ」


 朔のツッコミを無視して桂は続ける。


 朔「【十二方陣】か………さすがは【崑崙十二仙】だな………現代の【陰陽師】どもには【神話】レベルの【結界】だぞ」


 現代の【陰陽道】は【土御門家】が唯一無二となっているが、深刻な人材不足に陥っている。【結界師】のレベルは【五芒星結界】(5点を結ぶ星型の結界)が最高限界のようだと調査結果を得ている。


 桂「【十二方陣結界】の【媒体】になったのが当時の【十二天将】だ。【十二方陣結界】が別名【十二支結界】と称される由縁はこれに起因している」 


 朔は聞きながら【結界師】が聞いたら歓喜しそうな【結界講座】だ、と思った。ここまでは先が予想できるので退屈な話だという感じだ。


【十二天将】は【方角】を【守護】する【将】で、【方角】とは【十二支】で表される。【十二支結界】の【十二支】とは【十二天将】のことを示しているのだ。


 桂「お前、退屈そうだな………これも違ったか」


 朔が食いついたので桂は話したが、朔の様子から別の事のようなので中断しようとすると朔が講義した。


 朔「お前、話題変えるなよ。そこまで話したら、終わりまで話しきれよ」


 お前がやっていることは、ミステリー小説を読んでいる人に先に読破した人が犯人をネタバラしするのと同じ行為だ、と朔が言うと、桂は【竜王家】の争いの大惨事を【崑崙十二仙】が【結界】で【人間界】へ及ぶ被害を限りなく小さくなるように抑えたという結論は話しているではないか、と言い返した。つまりミステリー小説で言う『事件編』『解答編』は話し済みなのだ。桂が中断したのは『交錯編』とか『混迷編』とか言われる、ミスリードや二転三転する醍醐味の部分である。


 桂「とりあえず、お前が聞きたいことは何なのか言え」


 言い当てようとしていたが、桂はどんどん朔の用件から遠ざかって行きそうなので朔の口から言ってもらうことにした。


 朔は、最初から用件を聞いてほしかったとここまで経過した時間を考える。


 後六天空「僭越ながら申し上げます。朔様、ここでの時間は『現実時間』と大きく異なります」


 ここの1時間経過が現実時間では1分というアレか、と朔は思ったが次の瞬間には認識の甘さを思い知らされる。


 後六天空「現在、朔様と桂様は文字どおり【現実逃避】していらっしゃる状態です。ここをお出になられたら『ご希望の時間と場所』へ


 朔は最初に、コイツ何言ってるの、と思ったが桂が【後六天空】は【竜王家】の【祝融しゅくゆう】という【神官職の一族】だと聞いて『希望時間と希望場所』の意味が解った。


【祝融】というのは、【春秋戦国時代】などで【神官職】の【官職名】になっている。それは【人間界】の話で【天界】での【祝融】は【神官職】だが、【特殊能力】を使う【神官職】だけがそう呼ばれている。【天界】における【祝融】は【タイムトラベラー】だ。【時代】【世界線】あらゆる【軸】を超越する【超能力サイキック】、【超時空超越能力サイコダイブ】と呼ばれる【特殊能力】だ。


 朔「じゃあ………ここで1日酒盛りしても、ここを出た時に迎撃準備の所戻るのを希望すれば、そこへ戻してもらえるってことか」


【後六天空】は、肯定する。桂は、お前そんなこと考えてたのかとジト目を向けている。朔は、あくまで例えだと前言を否定した。


 朔「なるほど………確かに【現実逃避】だな。『異世界ファンタジーモノ』みたいなチート、キタコレ」


 とりあえず、長話になっても時間を気にする必要はない、ということはわかった。


 後六天空「ですが、1つだけ注意点がございます」


 人差し指を立てて1のポーズをして、【後六天空】は話している間に現実時間で戦闘終了していた場合に迎撃準備の時に戻った場合、事象がなかったことにされるので、もしも終結していた場合は洸に文句を言われる覚悟をしてほしいとのことだ。


 後六天空「【竜王家】の【公子】様には【時間遡行】が解ってしまいますので………」


【後六天空】は、元々【竜王家】の【四海竜王】の教育係をしていて、そこで【超時空超越能力】の講義をしたことがあり、使用はできないが【ことわり】を理解しているので【能力】が使われたことがわかるのだと言った。


 後六天空「【公子】様、【公女】様共に大変ご聡明で………誠に教え甲斐がありました」


 その時のことを思い出しているのか、懐かしむ目をしていてどこか誇らしげな微笑みを浮かべている。


 桂が、それ【紅竜王】が【崑崙山】で試したせいで一部の区画だけ、気候が昼は猛暑、夜は極寒という人ならぬ【仙人】でも住めない地域になってしまったとこぼしている。


 桂「あの………思い出しても腹立たしい」


 朔「昼は猛暑で夜は極寒………最悪だな!【人間】だったら【ヒートショック】続出だぞ………つうか、【紅竜王】って女だったのか!」


 朔は【紅竜王】が【公女】だったと初めて知った。


 桂「【今世】も女だぞ………環様だからな」


 全く【前世】からを引き継いで困ったものだ、と桂がぼやいているが非常に重大な発言をスルッと済ませてくれた。


 朔「おい!そういうことを世間話みたいなノリで言うなよ!」


 桂「ちょうど【紅竜王】の話題になったから、つい………」


 桂は【古代中国】の【仙人】の【転生戦士】なので、昔馴染みと再会しただけのことでも、朔は環は【戦国時代】に【初代風魔小太郎】として【北条家】の【始祖・伊勢真九郎】と【関東統一】の夢を遂行した【ご先祖様】の【転生戦士】だと思っていたのが根底から崩れた瞬間だ。


 朔「まあ【竜種】だから、あまり大っぴらに言えないか………」


 下手をすれば、【研究材料】だ。


 桂「環様は【人間】だ。【竜化】はできないぞ。もっとも、【紅竜王】の【記憶】を『具現化させた』【二重存在ドッペルゲンガー】を創り出す方法はあるが、『【陵家】の【血族】の男』ならば【因子能力】(遺伝による能力)で可能だが、女性にはその【能力】は遺伝しない」


 ちょうど今話したことを洸が実行したようだ、と桂は窓の外を見て言った。


 窓に黒曜石のような美しい漆黒の輝きを反射させる【鱗】が映った。


 後六天空「【季卿きけい公】ですね………ご立派な【成竜】(オトナの竜)におなりあそばされました」


【後六天空】は感極まって鼻を含めて口元を片手で覆う。感涙していないが、気分としてはそんな感じなのだろう。


太乙真人たいいつしんじん】の記憶がある桂が言うには、【後六天空】が【汎梨ファンリー公女】に付いて【宦官】になって【天宮】へ入った時は【白竜王】と【黒竜王】は、まだ【小竜】(子どもの竜)だったそうだ。


 朔は、縦長の大きめな窓でも全長を臨むことができない【黒竜王】の【鱗】を見て宙広そらたが腰を抜かして怯えていたのを思い出した。


 朔(これがリアルに見えてたんだな………宙広は俺と会話したのを自慢しようと思っていたようだが………【竜】を見て意識を保っていたことを自慢するほうが一目置かれて気分良いと思うがな………)


 最弱を自称する【猫叉族】には、手が届く近距離にいるだけで失禁モノだ、と朔は宙広が『おもらししなかったこと』は後で褒めておこうと考えていた。


 朔「桂、俺が聞きたいことな………洸は今、【青龍せいりゅう】が使だろ」


『チーム分け別行動』の前に【ブート・キャンプ】をした時には、既に使だったなと朔は言った。


 桂「【青竜王】は現在、【天帝】に【監禁】されている」


 もっとも、【青竜王】と【天帝】は『快楽を貪って閉じ籠もっている』非常に仲睦まじくしているのを【監禁】と言えるかどうかは人それぞれだと、桂は皮肉たっぷりで言った。




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