第貳章 魔人たちの饗宴
窓一つない閉め切った部屋は、燭台の蝋燭の灯火だけが唯一の明かりだった。
灯火が照らし出すのは、不気味な老人の姿であった。
「むうっ!しくじったようじゃ」
老人は、しくじったという割にはそれほど残念そうな様子はない。
そして、傍らで固唾を呑んで見守る憔悴した男はビクッと反応した。
「では、【柳生】へ押し入ったのは【平氏一門】の者だと知られたのか!」
男は、雰囲気は憔悴した感じだが声には覇気がある。
「いざとなったら、仕込んだ【蟲】を爆破させて始末すれば良い。証人がおらねば、何とでも言い訳はできようぞ」
老人──────────────【魔人】
男は一瞬、不快感を顕にするが【異形の者】と呼ばれる人外の生物──────────────生命体と表現するほうが正しいかもしれない──────────────に【人間】の情やしがらみを理解しろというのは無理だろう。
「ところで、頼んでいる件は進んでいるのだろうな」
男は、気を取り直して別の質問をする。こちらのほうが【柳生】より重要だ。
「かの者は怨念が強すぎる故、【術】を行使した後にゆりかごごと壊れてしまうのじゃ」
森宗意軒の言い分が真実か虚構か判断しづらい。
男は、八方塞がりの現状に握りしめた
「おのれ………【
男は、日本国王の側妃の父親だった。そして、夭折した王子2人の祖父である。憔悴して見えるのは、孫を失った精神的ストレスのせいだ。
無言で男の恨み節を聞いているのか、聞き流して知らないフリをしているのか、森宗意軒の虚ろな目が妖しい光を帯びた。
男は恨みを吐き出すと気が済んだのか、自室へ戻ると言って立ち去った。
立ち去った男と入れ違いに若者と青年が姿を見せた。
若者のほうは美少女かと見紛う程に端麗な容姿をしている。
青年のほうは端正だが、やや神経質な軍師然とした雰囲気である。年齢は三十路に届いていないがアラサー世代だろう。
「森
若者が言う【負】の感情とは、恨みや怒りなど
「森
青年──────────────【魔人】由比正雪は、森宗意軒が【蟲憑き】にして使い捨てずに別口で利用しようとしていることを看破していた。
森宗意軒は満足気に頷いた。
「あの者の持つ【負】の感情………憤怒、憎悪、悲哀、怨恨、あと一つが欠けておる」
「やはりそうでしたか。【魔界転生】に望みを掛けている所へそれが不可能となれば………失意あるいは絶望………いずれかの【負】の感情が加わります」
由比正雪は納得した。森宗意軒と由比正雪の会話から推測できるのは、側妃の父親に現在抱えている4つの【負】の感情にあと1つ【負】の感情をプラスして利用しようと画策している。
ただ利用するだけなら森宗意軒の【蟲】を体内へ入れて【傀儡】にすれば事足りるが、【蟲】は比較的簡単に洗脳できるのに対してデメリットが使い捨てになる点だ。個人差はあるが使用期限が存在する。期限が切れたら発狂死という残酷な最期を迎える────────────最も【
天草四郎が、【蟲】の話で思い出したとばかりに訊く。
「
「そちらは失敗じゃ。仕込んだ【蟲】の気配が感じられん」
森宗意軒は、凍結して砕いたか焼却して塵になったか、いずれにしても完全に消滅してしまっていると失敗した割にはあまり悔しそうではない。
「ほう、ここの飼い犬が土産を持って帰って来たようじゃ」
「先生のご指示をしくじった者ですね。始末して来ます」
天草四郎は【蟲】を使った作戦失敗の責任を取らせる意味合いで物騒なことを言う。
「正確には阻止された、だ。用途のない死体は必要ない」
由比正雪は
「飼い犬殿が持ち帰ったモノ…見せてもらいましょうか」
由比正雪は、現在地から離れた場所を視る【千里眼の術】で様子を
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