第8話 パーティの役割と適職
「ああ、そういえばマサオミさん。さっきカードに保存したお湯を出してみていただけますか」
「そういえばそんなのもカード化してたな。出でよっと」
〔お湯が満たされたコップ〕をカードから出現させた。トワルデは手を近づけて、温度を調べているようだ。
「ふむ、熱いままですね。カード化されているときは時間が経過しないようです。これも便利な性質ですね。収納だけでなく保管もできるようです。マサオミさんは冒険を生活面でサポートできそうですね」
冒険での役割……か。改めて自分のステータスを確認してみよう。
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名前:マサオミ=カザハリ
種族・性別・年齢:人間・男性・16歳
レベル:108
ジョブ:なし
スキル:【カード使い】、【言語知識:初級】、【鑑定:初級】、【風魔法:初級】、【水魔法:初級】、【生活魔法:初級】
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【カード使い】のスキルは収納と攻撃に使えることが判明した。【言語知識】は意思疎通用、【鑑定】は辞書代わり。となると、あとは【魔法】スキルについてだが……。
「俺は魔法を使えるってことなのか」
「ええ、一定レベルに到達していて、所定のスキルがある状態で、必要な知識を得れば、魔法を唱えることができます。チユキさんは今日はちょうど魔法の教本を読んでいたところでしたね」
「チユキにも【魔法】のスキルがあるのか?」
「うん、あるよ。じゃあ、あたしを『鑑定』してみる?」
そうか。俺のレベルが魔物料理で上がったから、今ならチユキを『鑑定』できるのか。『鑑定』の許可も得たことだし、ステータスを参照することとしよう。
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名前:チユキ=モリヤ
種族・性別・年齢:人間・女性・17歳
レベル:110
ジョブ:なし
スキル:【ミックス】、【言語知識:初級】、【鑑定:初級】、【土魔法:初級】、【回復魔法:初級】、【支援魔法:初級】、【従魔:初級】
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「このスキルは……。俺と違って【回復魔法】とか【支援魔法】が並んでいるのか。やっぱり、後衛で補助するのが向いているってことか。【従魔】っていうのも面白そうなスキルだな」
「ええ、概ねその解釈で合っています。チユキさんはサポート向きのスキルなのです。ですから、パーティを組める相手が見つかってから冒険を、と思っていました。
【従魔】はモンスターを
「なるほどな。ちなみに俺の【生活魔法】って、あまりイメージが湧かないが、どういうものなんだ?」
「日常生活の助けになるように効力を調整された魔法のことです。【水魔法】であれば、水砲を撃ち出すのが【攻撃魔法】なのですが、これを綺麗な水を出すように系統立てられたのが【生活魔法】です。日常生活で便利なものが揃っているんですよ」
「……となると、俺は遠距離攻撃兼キャンプ要員ってことか。【カード使い】で岩を飛ばして攻撃もしたり、便利に持ち運んだり、【生活魔法】で野営の準備をしたり素材の手入れを手伝ったりってところか」
「ええ、大変的確に役割を把握していると思います。冒険者の仕事にとってモンスターを狩った後の素材の収集・運搬も欠かせないものですから、ちゃんと需要のある役割なんですよ」
猛々しく剣でズバーン、華々しく魔法でドーンが剣と魔法のファンタジーのイメージだったが、実際はその後処理も必要になってくるようだ。地味ではあるが、パーティに貢献できる役割があるのなら良しとしよう。
「となると、俺とチユキが組んだのなら、後はモンスターの攻撃を食い止める前衛をパーティに加えれば大体戦えるってわけか」
「そうなりますね。ギルドにて<ファイター>か<ディフェンダー>のジョブの方とパーティを組めれば、やっとモンスターと戦えるようになります」
「ジョブ……っていうのは、職業ってことか。さっき言った<ファイター>とか<ディフェンダー>が前衛に当たるのか?」
「はい。ギルドに隣接する職業診断所にて各ジョブの所定条件を満たせば就くことができます。ジョブに就けばステータスから自分の役割を明示できますし、ジョブに応じた能力の上方補正も受けられるので、冒険者になるならば真っ先に就くべきですね」
「俺はもうジョブの条件を満たしているのか?」
「ええ、マサオミさんはレベル100を超えて【生活魔法】を有しているので、<ハウスキーパー>になれます」
「は、ハウスキーパー……」
ここまでパーティにおける自分の役割は復唱してきた。良く言えば
しかし、ジョブの肩書きは残酷すぎる。お前は家で掃除役に甘んじているのがお似合いだと言わんばかりのレッテル貼り。ファンタジー世界に転生しても俺には地道な役回りがお似合いだとでも嘲笑っているのか。別に主役でないと嫌というわけでもないが、しかし表舞台に出る可能性を否定されるのはさすがに
表情が引きつってしまうのを隠せなかった。
「ほ、本来はマサオミさんは宿屋や飲食店では引っ張りだこのジョブとスキルなんですよ。商売人ではレベル100に達することはなかなか難しいですし、水と風の複属性は身の回りの家事には最適の組み合わせなのです。
一定の信用さえ得られれば、職場の中心的な存在になれる本当に素晴らしい素質なのです」
すかさずマザー・トワルデの慈悲深きフォローが入る。日陰者の俺には眩し過ぎる輝かしき心遣いだ。
「励ましをありがとう。言葉尻に反応してしまっただけで、俺はうまく食い扶持さえ確保できればそれでいいんだ。生きていくために必要な手段が自分に備わっているだけ、本当に恵まれたものだと思っているんだ」
心を洗われて、欲の無い本心をつい口走ってしまう。酒の席で男相手にこう言ったら女々しいとでも馬鹿にされそうだが、実際に俺は地道に暮らせさえすれば満足な小市民の性分ではあるのだ。決して嘘偽りを言ってはいない。
「とても謙虚で慎ましい心持ちかと思います。願わくばマサオミさんの日々に幸多からんことを」
本職の方の祝福を受けてしまう。さすがにこの話題には悲壮感がつきまとってきた。話題を変えるとしよう。
「チユキの適職はどうなんだ?」
「あたしは<プリースト>か<モンスターブリーダー>になれるんだって。まだどっちに就くか迷ってるんだよねー」
サポート役と魔物行使のどちらを取るか。どちらも有力であるからこそ、確かに悩ましいことかもしれない。
「さて、そろそろ夜も更けてきましたので、就寝としましょうか。
明日は魔法の特訓をして、目途が着いたのなら冒険者として駆け出すことといたしましょう」
確かに随分と話し込んでしまった。魔法の特訓となるとチユキがしていたように座学から始まるのか。
手早く習得して冒険者になりたいところだ。異世界に来て右も左も分からないから仕方ない部分があるにせよ、あまりにもトワルデさんに世話になりすぎている。
明日の英気を養うべく、別れ別れに寝床の客間へと向かった。
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