2

目を覚ます。

窓から差し込む太陽がぼくを焼き焦がすかの如く襲う。


ここは教室。

そして今日は春休みを明けて初めての登校日。そう新学期である。


2年生となった僕はクラスの誰よりも先に教室へ来た。するとやることは一つ。もちろん新学年心を踊らせ友達を待つなんてことはしない。僕は自慢ではないがあまり友達がいない。

といっても日がな一日中無言というわけではなくある程度の他愛ない会話はこなすさ。ただいつも一緒に遊ぶような所謂、心友なんてものはいないという話だ。

そんな野郎はとりあえずホームルームが始まるまで寝るという結論に至る。


まだ僕は眠気から解放されきっていなかったが突如として訪れた嵐に叩き起こされた。


ひゃっはーーーー!!


と教室のドアが悲鳴を上げそうなほど勢いよく開き例の嵐が舞い込んできた。


そして

「あーあ、一番乗りは取られちゃったかー残念。おはよー。八重ちゃん。」


と元気なさそうな顔に見える僕とは正反対の元気に満ち溢れた顔で声をかけたのはクラスメイトの八月一日ほずみ愛華あいかであった。


彼女とは高校入学時に知り合った。天真爛漫、ド天然、そしておばかという三銃士の揃った娘だ。


「おやおや、まだ眠たそうな顔しておりますね。他のみんなもまだ来なさそうだから一眠りしては?」


「今その一眠りから目覚めたところだよ。何処かの誰かさんがもう少し静かに入ってきてたら僕の顔も少しはましになっただろうさ。」


「あら、起こしてしまったの?それはごめんごめん。でも顔はちょっと…」


八月一日は残念そうな顔で言葉に詰まる。

なんだ、僕の顔はそんなに生気がないのだろうか。朝から喧嘩を売られた気分だ。


「おい、なんだその詰まりは。さすがの僕でも傷つくぞ。この深い心の傷をどうするつもりだ。その豊満な山岳地帯で治すことを所望する。」


「あーセクハラだよー。今のご時世、そういうのは許されないんだよ。私以外にそんなこと言っちゃだめだぞッ。なんつって。」


八月一日はそう言った矢先、件の物2つを揺らした。

くっなんてこったい少し可愛いと思ってしまった。これは明確なる僕の負けではないか。エデンはやはりあの丘にあったのだ。


「まあ、私の自慢のばでぃは無理にしても八重ちゃんの心の傷を癒やすために一つ良い情報を教えてあげましょう。」


エッヘンといった感じで偉ぶる。


「情報?はてさて何かは知らんが癒せるものなら癒やしてもらおうではないか。」


「えーとねぇ、さっき職員室の前を通ったときにねぇ。先生達が言ってたのを聞いたんだけどねぇ。来るんだってーうちのクラスに。」


「?誰が?」


「転校生だよ。て·ん·こ·う·せ·い!!」


僕には心当たりがあった。その転校生のことを恐らく僕は知っている。彼女の言っていたこととはこのことだったのだ。

彼女は言った。


『これから貴方の監視、監督、アドバイザーを務めます。いついかなる時であろうと私の"目"は貴方を捕捉する。』


ストーカーじみた言葉だが今の僕にはとても信用のできる力強い目をしていた。


この予想を確信へと変えるため


「それはいつもクールぶっているがわりとポンコツそうで僕にはベリーグッドを押すぐらいのちょうどよい胸を持つ女か!!」


「いやいやいや、そんな事細かに言われても知らないよ。特に八重ちゃんの好みのサイズなんてさぁ。」


「でもね、女子というのは正しいらしいわ。どうかしら少しは新たな女子の訪れに心ときめかせその深いらしい傷は癒えたかしら。」


女子なのは間違いないと言われれば心が癒えるというよりは頭を抱える内容だ。


「あ ああ嬉しいよ。嬉しくて小躍りしそうだ。」


僕は気が気ではない。(いろいろと)

もしかしたら僕のゆるゆりとした学校生活はここでおしまいかもしれない。

例の仕事がついにきてしまったのだ。


「それは良かった。さあ、もう少ししたら他のみんなも来るだろうし来そうも無い新たな春に胸を踊らせながら待つことにしましょうよ。」


「なんでお前が僕の青き春の訪れを全否定する!まだ確証はないぞ!」


などと特に他愛ないことをホームルームが始まるまで話した。


ホームルームが始まり担任が新学期の挨拶を手短に行ったあと、すぐに例の転校生の紹介に入った。


教室のドアが開かれ、歩いてきたのは。

まごうことなき僕の予想通り、彼女であった。


長く綺麗に整えられた髪、常に何かを睨んでいるかのように鋭い目、全身から漂う冷静さ。

まさにクールビューティーを体現したかのような人だった。

その姿は誰から見ても八月一日のあふれる可愛さとは相容れないかっこいいを含んだ美しさが見て取れたであろう。

氷の魔女そんな印象をうける。


そんな彼女が一言だけ言葉を放った。 


京極司きょうごくつかさです。これからよろしくお願いします。」


見た目通りあっさりとした自己紹介であった。


そしてこの瞬間、僕の学校生活はゆったりとしたものからひどく騒がしく、面倒臭く、しかし燦然としたものへとなっていくのだった。

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