ソラシドを書く
書体は、前回に書いた「喰らう箱と死なない少女」で採用したものを踏襲してみました。自分らしい書き方のようなものが生まれたので挑戦してみようと。
あとは手癖で書きながら修正の繰り返しだったので、あまりこれといった備忘録もないのですが、せっかくなので作中に登場したキャラクターや「紙飛行機」というアイテムのお話をしようかと。
ソラシドについて
実は彼女は明確なイメージが固まっていたわけではなくて、書いている内にこういうキャラクターが出来た感じです。
ついつい好きな要素を盛ってしまう。瞳の色が蒼いことや、橙色の髪色など……
作中に登場する「
ただ、彼女が不器用な性格をしていることには必然性があったように思います。そうでなければ、「なんでも願いが叶う」というチートスキルを持て余すはずもありません。
彼女には彼女なりの、願いに対する線引きがあって、それゆえに人間らしく悩むという彼女のキャラクターが無いと、このお話はどこまでも個人的で、他者と関わりようがないから物語にはならなかったと思います。そういう意味では、「ぼく」は彼女のストッパーであり、彼女を人間たらしめていた最後の砦のように思います。とても極端な言い方をすればですが。
ぼくについて
観測者です。彼自身はこれまでソラシドの傍にいただけで、彼女の傍にいたいと深層的に思っていただけで、実際になにか行動してきたわけではありません。だから彼はソラシドの肝心なところを理解できていなかったし、観測者という立場から一歩も動く必要はなかった。そういう意味では臆病なキャラクターです。
それでもソラシドにとって「ぼく」は、ずっと一緒にいれくれた幼馴染だったし、主人公にとっても友人らしい友人はソラシドだけでした。本人も「ソラシド」が笑ってくれたらそれでよくて、それが一番大事なことだった。
ソラシドが自由に願っていられる間はそれでよかったのですが、彼女が「願い」というものの本質について考え始めると、観測者ではいられなくなりました。彼女が「願い」について向き合うということは、彼女が一番最初に捧げた「お願い」についても無関係ではいられないからです。
「いつまでも、願っているだけじゃいけないから
願うのは、もう、やめにしようと思うんだ」
というのは、そういう心境から出た言葉なのでした。
作中では書かなかった登場人物の心情について
ソラシドが願いについて考えはじめた時、真っ先に思い浮かべたのも「ぼく」のことでした。これまで自分が蹴散らしてきた才能のように、「ぼく」というたった一人の幼馴染も、自分勝手な願いを押し付けて、自分という存在で縛り上げているだけの、被害者だったのではないか。
「私が願いを叶えることで、願いを叶えられない誰かが生まれる――なんて、そんな当たり前のことに、どうしてもっと早く気が付けなかったんだろうなぁ」
「けれどもう、終わりにするよ。私の一番自分勝手な、一番はじめの「お願い」のせいで、君はずぅっと私の面倒を見てくれたね」
「私がなにかを願うせいで、これ以上、誰かのなにかを壊してはいけないと思うんだ」
要するに「ぼく」の望んでいることは違うのに、自分が「願って」いるというそれだけのことで、「ぼく」という存在を殺しているのではないか、という不安がソラシドの中に生まれてきました。
そして高校二年生になったある日、「進路希望調査票」という未来を暗示するアイテムが彼女の元を訪れた時点で、ソラシドは紙飛行機を飛ばさなくてはいけませんでした。
「信じられない話だけれど、私たちはもうすぐ、大人になる。この屋上を出たら、時間が動き出して、私たちは長い時間をかけてなにかになっていく。もう、そんなところまで来ちゃったんだよ」
彼女にそう思わせたきっかけこそが、「進路希望調査票」であり、それに対する彼女の答えが「紙飛行機」でした。
「自分が将来、なにになりたいか分からない」
分からないなら、どこまでもどこまでも飛んで行ってしまえばいい――ソラシドは、本気でそう考えていました。だからソラシドが時間を必要としたのは、そういうことでした。
そして、作中では一切語りませんでしたが、彼女が「お願い」に対して引いているボーダーラインは、ここにありました。
「自分で正体の分からないものを天使に願わない」
ソラシドは、「こうなりたい」「ああなりたい」という明確なイメージを持たなければ、天使にお願いしてはいけないというルールを課していました。だから天使に対して「私の将来なりたいものを決めて」もらったり、将来そのものについて決定権を委ねるようなことはできないのでした。
こういう風に「使いようによっては万能の力」と向き合うことで、彼女とは天使と上手く付き合っているつもりでいましたが、全然そんなことはなかったんですね。本当に願いや天使と上手く付き合えていたら、小学生の時に何人もの同級生を転校させたり、中学時代に他人の才能をなんの考えもなしに蹴落とすといった真似はしなかったはずなので。
それも全部、主人公に褒めてもらいたかった、認めてもらいたかった、という気持ちがあったからなのですが。ソラシドはそんなことを決して口にも態度にも出せるような性格ではなかったので。
願おうと思えば、「私の性格を明るく、素直なものにしてほしい」というお願いだってできたはずなのに、それもしなかった。だってそんな自分、彼女はまったくイメージできないんですから……ソラシド=不器用という主人公の感想は、あながち間違っていないということですね。伊達に十年以上幼馴染してません。そしてそれを言語化できなかったり正しく認識できていないところが、二人の関係性でもありました。
文字の都合によって没になりましたが、実はソラシドの飛ばした紙飛行機のうち、一つは戻ってくる予定でした。(18話あたりで)
どこまでも飛んでいけという願いを込めて飛ばした紙飛行機が、本当にどこまでも飛んで地球を一周してきたんですね。
その紙飛行機を開いた主人公は、そこに書かれていた彼女の「たったひとつの望み」を知ることになるんですが、そこになんて書いてあったかは内緒です。
ただ、主人公は「バカだなぁ」といって、「つまりそういうことなんだろうなぁ」と気が付きます。
「ぼくのなりたいものとか、やりたいことなんて
もうずっと前から決まっていて
もうずっと前から、なにも変わっていないのだ」
彼女と自分を照らし合わせて、こんなに簡単で単純なことをはっきり意識するのに、随分遠回りしてしまったことに気が付くという……ということを考えてました。文字数が足りなくて端折りましたが……。
最後に、紙飛行機の発想自体は「平面説」という曲のフレーズからインスピレーションがきています。
エピローグについて
そういえばソラシドは苗字を失っていたので、二人の関係としての変化としても分かりやすいかなと思ってああいうオチになりました。
そもそもソラシドが「苗字を消してほしい」と願ったのも、「ぼく」に可愛い名前だけ見て欲しいという幼い願いがありました。
本当にこの二人はお互いに依存しきっているくせに、お互いの肝心なことを理解してなくて、だからお互いに不器用だったなぁと思います。
時間や将来と決定的な断絶が二人を別つ前に、そのことに気が付けたのでよかったと思います。
「ソラシドが笑ってくれて、本当によかったと思った」
という「ぼく」の心情に、どうしても自分自身の感情も乗せてしまったのは、もう、しょうがないと思って割り切っています。
きっと私はソラシドに笑ってほしくてこの物語を最後まで書こうと思っていた気がするので。まぁ、そういうこともあるだろうという感じで、ひとつ。
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