告白予行練習 HoneyWorks・香坂茉里
『涼海ひよりの、目指せヒロイン!』
高校生人気アイドルユニット、
スタッフと打ち合わせをしている聖奈の姿を遠くから見つめて、ひよりは「うわぁ」と声をもらした。
「かわいいなぁ、成海聖奈さん!」
中学生の頃からモデルをしているだけあって、スタイル
「ひよりちゃん、これ、みんなに
スタッフの女性に声をかけられて、ひよりはあわてて「はいっ!」と返事をした。
渡されたのは、コーヒーや紅茶のカップがのったトレイだ。
それをまわりの人に配りながら、聖奈のそばに行く。
(今日は、失敗せんように!)
以前、ずっこけて大変なことをしてしまったことがある。
あの時のように、聖奈の服に紅茶やコーヒーをこぼしては一大事だ。
「あのっ」
緊張しながら声をかけると、
「飲み物、どうぞ!!」
そう言いながらトレイを差し出すと、「ありがとう」と聖奈がニッコリと笑ってカップに手を伸ばす。
(優しいなぁ~~~)
スタッフのひよりにも、ちゃんとお礼を言ってくれる。
ひよりはその場を離れることも忘れて、つい聖奈の顔をボーッと見つめていた。
見れば見るほど、かわいい。
(うちと、全然違うよ~)
カップを口に運ぼうとしていた聖奈が、視線に気づいてひよりを見る。
「あの! 成海さんは
「ああ、うん。そうだよ。もしかして……あなたも?」
「はいっ!」
ひよりはパッと
「じゃあ、あの二人と同じなんだ」
「はい……一応……」
離れたところにいる
二人がチラッとこちらを見たので、あわてて視線をそらす。
「そっか、君たちみんな私の後輩なんだね。
紅茶を飲みながらほほえんだ聖奈が、「学校、楽しい?」とひよりにきいた。
「はいっ、大変なこともあるけど……」
さりげなく視線を移すと、二人は『なにサボってんだ』というように顔をしかめている。
「そっか、頑張ってね」
ちょうど時間になったのか、スタッフの人から、「撮影、始めまーす」と声がかかった。
聖奈は「はーい!」と返事をしてから、「これ、ありがとう」と紅茶のカップをひよりに渡して立ち去る。
「
ひよりは真剣な顔になって、「うちも
「いや、無理だろ」
「なに言ってんの、寝言?」
そう言いながら横を通りすぎていったのは、愛蔵と勇次郎だ。
二人とも
(また、すぐ、イジワルなことを~~っ!!)
「そんなの、やってみんとわからんよ!」
振り向いたひよりは、ムーッと
***
ストレッチをしていた他の部員たちが、ポカンとした顔でそれを見ていた。
ひよりが入っているのは陸上部だ。
マネージャー見習いのアルバイトがある日は早く帰らせてもらったりもするが、それ以外はほとんど部活に顔を出していた。
本当は部活に集中したいところだが、一人暮らしのため生活費を
これも、生きるためだ。
クラスや部のみんなには、ひよりがアルバイトをしていることは秘密にしている。
アイドルのマネージャー見習いと言えば人にうらやましがられそうだが、実際にはこき使われるし、体力仕事ばかり。
その上、あの二人は世間で思われているイメージとは全然違う。
(すぐうちのこと笑いものにするし~~~!)
「涼海~~っ、ちょっと
「先生、うち、外周走ってきまーすっ!!」
そう言いながら、ひよりはグラウンドを飛び出して正門のほうに向かった。
(絶対、絶対……うちは成海さんみたいになるけんね!!)
「じゃあねー、愛蔵君、勇次郎君!」
正門を出たところで、愛蔵と勇次郎が声をかけてきた女子たちに手をふっていた。
事務所で見せるような
その横を走り抜けると、マネージャーの車に乗り込もうとしていた二人が振り返る。
ひよりは先を走っていた自転車を追い抜き、「やるぞー!」と気合いたっぷりに
***
部活の後も自主トレで走っていたひよりは、フラフラになりながら部室に戻る。
他の部員たちはもうすでに着替えて帰った後だろう。
「走りすぎた~~」
そう独り言をもらしながらドアを開くと、先輩の
「ひよりちゃん。遅いから心配したよー。どこまで行ってたの?」
「
ひよりはあわてて頭を下げると、頭の後ろに手をやってヘラッと笑った。
「グルグルまわってたから、帰り道がわかんなくなっちゃって」
雛が「もーしょうがないなー」と、苦笑する。
「どうしたの? 急にはりきっちゃって。まぁ、いいことなんだけど」
「それは……ス……」
「ス?」
「スタイルが、よくなりたいなーと思って」
赤くなりながら、人差し指と人差し指をツンツンと合わせる。
雛が「スタイル……」と、目を丸くする。
「聖奈ちゃん先輩みたいに!」
真剣な顔でそう答えると、雛はプッとふき出して笑った。
「それで、あんなに走ってたの~~!?」
「瀬戸口先輩、みんなには言わんで~~!」
赤くなって、オロオロする。
「言わないけど……でも、ひよりちゃんはべつにスタイル悪くないよ?」
「そう言ってくれるのは、瀬戸口先輩だけです……」
ひよりはうなだれて、「はぁ~」とため息を
「気にすることないのになぁ。でもまぁ……ひよりちゃんの気持ちもちょっとわかるけど。私ももう少し身長があればなーって思うし」
雛はあごに人差し指を添えながら、少し
(ええっ、瀬戸口先輩は今のままでも十分かわいいのになぁ……)
左右に分けた髪型もよく似合っているし、パチッとした瞳も理想的だ。
「ほら、早く着替えないと。
雛が部室の鍵を見せて、ニコーッと笑う。
「あーっ、待って~~!」
ひよりはあわててジャージを
***
アパートの部屋に戻ったひよりは、壁に貼った聖奈のポスターを見ながら、「九十七、九十八、九十九……」と
百までカウントすると、
目をつむると、まぶたの裏に浮かんでくるのは、分厚いステーキ肉や、クリームたっぷりのクレープだ。
グゥ~と鳴ったお
「ヒロインになるって……大変なんだなぁ」
きっと、聖奈も見えないところで毎日、努力を重ねているはずだ。
(あの二人だって、そうだもんなぁ……)
鼻で笑っていた二人のことを思い出し、ひよりは「うっ」と顔をしかめた。
(ああ見えて、
「うちも、負けてられん!!」
ガバッと起き上がると、「一、二、三、四!」と腕立て伏せを始める。
(うちは……うちは…………今日から、ヒロインになる!!)
***
スタートラインに立ったひよりが、軽くジャンプをしてからクラウチングスタートの姿勢をとる。
今日の部活は短距離走の測定だ。
先輩の鳴らした笛の合図でダッシュすると、一気にゴールまで走り抜ける。
ストップウォッチを手にしていた先輩が「おおっ、涼海さん
ひよりは足を止めず、「ファイト―――ッ!」と、声をあげながらサッカー部や野球部が練習しているグラウンドを
サッカー部二年の
練習中だった他の部員たちも、ボールを
「それでこそ、桜丘高校女子陸上部期待の新星!」
陸上部の顧問の先生が、腕を組みながら満足そうに
「ひよりちゃん、どこまで行くの~~~!!」
測定を終えて休憩していた雛が、あわてて声をかける。
ひよりはいきなりズデッと
「ひ、ひよりちゃん!」
雛が駆け寄って助け起こすと、すっかり目を回してしまっていた。
***
ひよりは「うーん」と小さくうなってから、勢いよく体を起こした。
「あれ、ここどこ!?」
キョロキョロとまわりを見れば、木々にかこまれた静かな森の中。
自分のかっこうに目をやると、
「あれ~~!」
びっくりして立ち上がり、クルッとまわってみる。
「うち……本当にヒロインになってる!!」
「とうとう、うちもヒロインになれた――っ!!」
(きっと、そのうち
そんな期待に
どこからか、「ラララララ~~」と歌声が聞こえてきた。
木の
「あれは……もしかして、うちの王子様……!!」
ひよりは両手を口もとにやって、ハッと息をのむ。
よく見ればマントを
しかも、金ぴかな『五割引!』のシールが貼られている。
「じゃなくて、特売のステーキ――――っ!!」
ひよりはつまずきそうになりながら、
マントを羽織ったステーキ肉はスルッとその手をかわし、歌いながらドンドン森の奥へと逃げていく。
「待って、うちの……うちの……ステーキ――っ!!」
***
「ステーキ…………
寝言をもらしていたひよりは、急に目が覚めてパチッと
「あれ~~、ここ……」
体を起こしてまわりを見ると、保健室のベッドの上だ。
もうすっかり夕暮れ時で、室内がオレンジ色に
「よかった~、目が覚めた?」
部活ジャージを着た雛が、ヒョイッと顔をのぞいてきた。
「瀬戸口先輩!」
ハッとして自分のかっこうを確かめると、部活をしていた時のかっこうのまま。
Tシャツとジャージのズボン姿だった。
(あれ~~~夢かぁ~~)
ひよりは、「なーんだ」とがっかりしてため息を吐いた。
「いつも無理しちゃダメだって言ってるでしょ~?」
「ごめんなさいっ!」
ひよりはパチンと両手を合わせる。
(瀬戸口先輩に、うちはまた
ギュッと目をつぶっていると、お腹がグゥ~と鳴る。
今日のお昼も、おにぎり一つだけで
(ひゃあぁ~、
ひよりは赤面して、自分のお腹を押さえた。
「そうだ。お兄ちゃんからもらったラーメン屋さんの割引券、あるんだけど……」
後ろに両手をまわしながら、雛が「行く?」ときく。
(瀬戸口先輩と、ラーメン!!)
ひよりの顔がパーッと輝いた。
「行きますっ!!」
「じゃ、早く着替えよう」
「はいっ!」
元気いっぱいに返事をしてベッドをおりると、雛と一緒に保健室を後にした。
(やっぱり、ヒロインになるのは……明日から!)
***
いつのものようにマネージャーの車を待っていた愛蔵と勇次郎は、正門から出てきたひよりに気づいてその姿をさりげなく目で追う。
今日はアルバイトが休みなのだろう。雛と一緒に歩きながら、楽しそうにラーメンの話をしていた。
「あいつ、なに目指してんだろうな?」
「さぁ、
そう話をしているうちに、マネージャーの車が
二人は、同時に笑いながら車に乗り込んだ。
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HoneyWorksプロデュース
アイドルユニットLIP×LIPがついに小説化!
角川ビーンズ文庫
『告白予行練習 ノンファンタジー』
原案:HoneyWorks
著者:
監修:バーチャルジャニーズプロジェクト
【あらすじ】
田舎から上京したばかりの高校1年生、涼海ひより。
たまたま同じクラスになった愛蔵と勇次郎が、実は大人気アイドルであることを知り……?
LIP×LIPの大人気楽曲「ノンファンタジー」がついに待望の小説化!
◆
角川ビーンズ文庫
『告白予行練習 ヒロイン育成計画』
原案:HoneyWorks
著者:
監修:バーチャルジャニーズプロジェクト
【あらすじ】
LIP×LIPのマネージャー見習いとして日々頑張っているひより。
慣れない仕事で失敗を重ねながらも、少しずつ2人との絆が深まっていた。
そんなある日、ある運命的な出会いがひよりに変化をもたらして……?
◆
『告白予行練習』シリーズ・大好評発売中!
※くわしくはコチラから!
https://promo.kadokawa.co.jp/kokuhakuyokorenshu/
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