第21話:吐き出して
俺は今、どう感じているんだ?
メルという迷惑な存在。
「急に親父から送られてきた世話のかかる迷惑なだけのお荷物」
メルという大切な存在。
「俺の過去を知らないくせに、俺の辛さを全部知っているかのように温かい想い人」
メルという守るべき存在。
「少しでもその存在を忘れてしまえば、永遠に自分を忘れてしまう儚い想い人」
メルという憎むべき存在。
「コイツに出会わなければ、俺はこんなにも悩まなくて済んだ」
メルという愛すべき存在。
「声も。顔も。性格も。身体も。ドールであることも。全てを認め、全てを愛せる運命の人」
考えればいくらでも出せる俺にとってのメルの存在とその理由。
考えれば考えるほどに解らなくなり、一層気持ち悪い俺自身の感情。
メルと会ったあの日から、俺の精神は切れ切れに壊れてしまいそうだった。
元から俺は、自分自身のことが嫌いだった。
自分の性格。
自分の容姿。
自分が生きていること。
それら全てが大嫌いだった。
変わりたかった。
自分の嫌いな自分を殺して、自分とは全く違う何かに生まれ変わりたかった。
だけど、俺には自殺をしようなんて勇気を出せなかった。
自分自身が生きていることを嫌悪したくせに、人並みに生への執着心があったのだ。
そんな自分が、本当に気持ちの悪い化け物に思えた。
そんな気持ちのまま、俺はずるずると大人になっていった。
俺の自分自身への嫌悪感は、大人になろうと続いた。
幼い頃からの嫌悪感は、大人に近づくほどに大きな感情になっていった。
自分が一秒生きた。
気持ち悪い。
自分が一分生きた。
気持ち悪い。気持ち悪い。
自分が一時間生きた。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
自分が一日生きた。
もう、死んでくれ。これ以上苦しいのは嫌だ。
死にたくないが、死んで欲しい。
そんな自分の矛盾がさらに気持ち悪い。
そんな感情が、メルと出会った日からより酷くなっていった。
いずれ爆発するであろう自分の中の自分の気持ち悪さに、もう耐えられない。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。けど――怖い。
「――おぅぇえぇぇ」
メルを抱いたまま、俺は俺の中身を全て吐き出した。
涙のしょっぱさと、自分の中身の苦くて酸っぱい味が、俺の苦しみの味そのものだった。
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