第20話:変化〜矛盾〜

 月波つくばから、月波シリーズのことを聞かされた後、リリーというドールがやってきた。


「あなたが一号機ちゃんのマスターぁ?」


 リリーは、目をきらきらと輝かせて質問してきた。

「ああ。お前の言う一号機ってのがメルのことなら、そうだ」

「へぇ〜。メルって名前にしたんだぁ〜」

「何でメルって名前にしたのぉ?」

「メカニズムドールを略してメルって名前にしたんだ」

「えぇ……テキトー……」

「ほっとけっ」

 などとリリーから質問責めを受けていると、


「こらこら、リリー。私の方が立場が上としても、お客様なんだからあまり迷惑を掛けてはいけませんよ」


 と、月波が帰ってきた。

「ここに強制的に連れこられた方が迷惑だがな。質問責めなんて可愛い方だ」

「そうか、ならば聞きたいこと全て答えてもらえるということかい?!」

「わぁ〜い!」

 俺の発言に、月波とリリーが歓声を上げる。

「ちっげぇよ!ここに連れてこられたことに比べたらって言ってんだろ!」

「えぇ〜、ケチだなぁ〜」

「だなぁ〜」

 俺の注意に、月波とリリーがブーイングを送る。


 いや、仲いいなお前ら!


「んで?メルは?」

「ああ。ムネくん、ここに」

「はい。メル、こちらに」

 

「――メル!」

「――螺旋巻ねじまき様!」


 俺は、メルを目視した瞬間、スーッと頬に涙を流し抱きしめていた。

 ――何で俺は、こんなにもメルが恋しいのだろう。

 ――何で今、咄嗟に俺はメルを涙を流し抱きしめたのだろう。

 ――何でメルは、こんなにも優しく温かいのだろう。

 好きだ。好きだ。好きだ。

 俺は、メルが大好きだ。

 いくら言葉にしても足りないほどに、メルの顔が。メルの身体が。メルの暖かさが。メルの性格が。メルの全てが好きだ。

 無愛想でいい。

 考えが読めなくていい。

 メタくたっていい。

 そのままのメルでいい。

 変わらなくていいんだ。

 そう思えるほどに、俺は、メルを愛している。


 ……そう。愛しているのだ。愛している。

 

「――様?――螺旋巻様」

 メルが俺の顔を心配そうな顔で覗いている。

「ん?ああ、すまん。メル、無事か?」

「はい。どこにも異常はないと思います」

「そうか。よかった……」

 メルの声を聞き、俺はとても安堵した。

 ただ、一つだけ違和感を覚えた。

 それは、メルから出た曖昧な返事。

 これまでのメルならば、「はい。どこにも異常は見られません」の様に、淡と報告をするような返事をしていたはずだ。

 だが、先のメルの返事は、どこか感情が見えたような気がした。

 メルは、何かが変わった。

 あんなにも変わらなくても良いと望んだことが、こうもあっさりと変わってしまった。


 悲しいのか?

 嫌なのか?

 変わらずとも愛していると思った矢先に変わってしまったことに苛立っているのか? 

 歓喜しているのか?

 

 気持ち悪い。本当に気持ち悪い。 


 一つの答えを出しても多分、それでも気持ち悪いだろう。そんな自分自身に問うた質問全てを肯定してしまう様な、気持ちの悪い考えが頭の中にあってしまう。


 もう自分で自分が本当に

 



 ――解らない。



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