第13話:変えられないこと
宿内にて
私は彼を怒らせてしまった。
「お前に何が解る!」
「せいぜい数日のつき合いで俺のことを語るな!」
それらの言葉は、私のあるはずのない心にグサリと突き刺さった。
申し訳ございません螺旋巻様……。
彼は以前、「お前は、俺と一緒にいた昨日を忘れたのか?」と言った。未だに私は、その彼の言葉がわからないでいる。
私は、メカニズムドールD-2981。
螺旋巻絡繰様という御方を主としている、失敗作……。
螺旋巻様は、「失敗作」その言葉を否定してくれた。
でもそれは、彼がまだ私をあまり知らないから。
……そうか、彼が私のことをあまり知らないように、私も彼のことをあまり知らない。
だから私は、
「お前に何が解る!」
「せいぜい数日のつき合いで俺のことを語るな!」
これらの言葉に傷つき、螺旋巻様は怒った。
そして同時に私は、彼のことをもっと知りたいと思った。
彼を支えてあげたい。
彼ともっと一緒にいたい。
彼に私のことを知って欲しい。
彼が私のことをどう思っているのかを知りたい。
でも一つ、やっぱり気になる彼の「俺と一緒にいた昨日を忘れたのか?」という言葉。
私は何かを忘れている。彼との思いでを。
私は、それが知りたい。
コンコン。
「螺旋巻様、お食事の時間が後一時間でございます。お食べになるのであれば下の食堂にてお食事できますので」
私がそっと窓際の椅子に座って考えていると、不意にノックの音と女性の明るい声がして私はビクッと瞬発的に背筋を伸ばした。
これは、螺旋巻様を起こした方がよいのでしょう。
「螺旋巻様、螺旋巻様。お食事ができる時間に限りがあるようです」
「……ぁぁ?あぁぁあぁ……」
彼は、寝起きが悪いようで、うめき声を上げながらベッドから起きあがる。
「……おはようございます。螺旋巻様」
「……ああ。おはよう、メル」
螺旋巻様は、寝起きが悪いながらも、精一杯の優しい笑みを浮かべて私の挨拶に返す。
私は、この人が好きだ。
だからこそ、彼を知りたい。私の知らない彼の全てを。
たとえそれが、どんなに絶望的であろうとも……。
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