第11話:首都ヘンメリッツ〜アルセウヌ・フランチェイス鍛冶屋〜


 電車って妙に寝やすいんだよな〜。

 一定のリズムでガタンゴトンと音を立てながら心地よく揺れる。


「……巻様。螺旋巻ねじまき様、起きてください」


 メルが俺の体を揺らしながら声を掛ける。

「ぁぁ……。着いたのか……」

 軽く背伸びをして荷物を持って下車する。

 着いた。首都ヘンメリッツだ。

 さすが首都、駅がでかい。この駅が最初に遠くに見えていた時計台である。


「さすが首都、街の盛り上がりが凄いな」


 駅を出ると、多くの人が闊歩し景色が目まぐるしく変わる街が目映く広がる。


「さて、今日は宿取ってちょっと観光でもしに行くか」

「はい」

 鉄心からすすめられた鍛冶屋にも行ってみないとだからな。

 確かフランチェイス鍛冶屋。

 鉄心曰く、奇妙な奴だが腕は確か。らしい。


「まずは、フランチェイス鍛冶屋ってとこに行くか」


 鉄心からもらった地図を見ながら、狭い路地裏を「本当にこんなとこにあるんだろうな?」と疑いつつ進んでいくと、あった。

「うん。危ない空気だ」

「螺旋巻様?」

「ん?いや、入るぞ?うん……」

 路地をずっと進んでいくと、いきなりぱっと開けた場所に出、そこにはぽつんと一軒のごく普通の小さな家がある。

 そこには、アルセウヌ・フランチェイスというひょろい男が住んでいる。実は彼は、とても腕の立つ鍛冶で、鉄心と並んで国が認める鍛冶の一人である。

「すごい人なんだな」

「僕はただ自分の好きなことに自分をフル活用しているだけだよ。国が認めたからと言って僕がすごいなんてことはない」

 家の中に入ると、仕切のない狭い家の中に棚と国の日刊雑誌が散らばっていた。

 そして俺が、その雑誌を拾い特集されていたアルセウヌ・フランチェイスの記事を見ていると、雑誌で覆われていて解らなかったが地下室への入り口があったようでそこから男が顔を出す。


「鉄心からの紹介で来たのか……」

「ああ。腕のいい鍛冶だから顔見知りぐらいになっとくのもいいだろうってさ」

「ふふっ、鉄心らしいね。世話焼きだ」

「鉄心には世話になってばっかだよ」


「へぇ、今日こっちに来たんだね。それにしては随分と軽装じゃないか?」

「最初に宿取ってきたからな。荷物はそっちに置いてきたんだ」

「して、どこをとったんだい?」

「金には余裕をきかせてる暇はないからな。安いとこだよ」

「鉄心のコネを使えばそれなりに良いとこに泊まれるのに」

「そうなのか?まあ、そんな良いところに泊まっても落ち着かないだけだと思うから」

「そう……」


 それから、俺たちはアルセウヌと二時間ほど雑談をした。

 彼の作った歯車式の道具やドールの改良案などなど。知識のない俺でも面白いと思えた。

「メカニズムハート?ああ、知っているとも。鍛冶の連盟でもよく話題になるよ」

「これって、ほんとうにあるのか?」

「それはわからないよ。と言いたいところだけど、開発はされた。その情報は回ってきてる」

「まじか……」

「ただし、手にはいるかは解らない。どんなものに使われているか……」

「ん?使われている?そういうのって厳重に保管されてたりするんじゃないのか?」

「どこかに人目も着かずに保管されているのと、どこかにいる人混みに紛れている何かに使われているのとではどちらが見つかり難く奪われにくいと思う?まあ、要するに解りやすい保管のされ方は多分されてないから、手に入れるのには苦労すると思うよ」

 うん……。

「だからといって、俺が諦める理由にはならない。情報サンキューなそろそろ観光もしたいから」

「うん。僕らの界隈で困ったことがあったら存分に頼るといいよ」

「ああ。そうさせてもらうよ、世話になるぜ」

「どんとこいだよ」


 そして俺たちは、アルセウヌに再度礼を言ってその場を後にした。

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