KADOKAWAラノベ横断企画 スペシャルSSでおうち時間を楽しもう!
ビーズログ文庫
ヒロイン不在の悪役令嬢は婚約破棄してワンコ系従者と逃亡する/柊 一葉
※こちらはビーズログ文庫「ヒロイン不在の悪役令嬢は婚約破棄してワンコ系従者と逃亡する」の書き下ろしショートストーリーです。
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【エピソード0 悪役令嬢、従者に出会う】
『この子はシド。おまえの
ヴィアラが五
『ちょっと人見知りだけれど、まぁそのうちなんとかなるよ』
苦笑いをする父は、何かを必死に取り
『お父様、何かおかしいわ』
『え? そんなことはないよ!?』
ここで彼女は、シドの容姿に着目した。
そう、子犬みたいに
『お父様、まさか……』
一週間ほど前、ヴィアラは父に可愛い犬が
でもその後、「ヴィアラが犬に
そこでこの少年の登場となれば、ヴィアラにもその理由がわかる。
『子犬みたいに可愛いからって、
すると、これまで黙っていたシドがびくりと
『やだ……、戻りたくない』
シドはふるふると首を振る。
『あなた、家に帰りたくないの? ここにいる方がいいってこと?』
そう尋ねると、彼はこくんと小さく
『あのね、ヴィアラ。誘拐してきたわけじゃないんだよ? 彼は今八歳なんだけれど、勉強も
しんと静まり返る部屋。シドは、変わらず目を合わせようとしない。
幼心に「この子は行く当てがないんだわ」と思ったヴィアラは、とても尊大な態度で彼に手を差し伸べた。
『いいわ。そういうことなら、私があなたと
ここでシドは初めてヴィアラを真正面から見て、自分を
ヴィアラはにっこりと笑うと、彼の手を強引に
『邸(やしき)の中を案内してあげるね!』
まずは
出会いから約十一年。ヴィアラは十六歳になり、シドは立派な従者
あと一カ月もすれば、ローゼリア学園の入学式が行われ、彼女は悪役
「何を見ているんですか? お嬢」
温かい部屋で、魔法で作った写真を
「うわぁ、
それは、シドが魔法学院に入学したときの写真だった。シドは十一歳、ヴィアラは八歳で、二人ともまだ子どもっぽくて可愛らしい。
「ふふっ、シドったら本当に可愛いかったわ~。
ヴィアラが
「そんなこともありましたね~。寮は飯がまずいって聞いてたんで嫌でした」
「そんな理由!?」
「飯は大事ですよ? あぁ、それにお嬢を野放しにできないっていうのもありました」
「失礼ね!」
結局、シドは最初の一年だけ寮生活をして、後の三年はマーカス公爵家から通っていた。
シドが従者をしながら
「本当に、大きくなったわね」
彼の成長を思えば、胸がじんとなる。ヴィアラはまるで保護者のような気分だった。
(人見知りで、弱々しい子犬みたいだったシドがこんなに立派になって……。これからも、シドと一緒にいたい。ずっとそばにいてほしい)
彼が
「ねぇ、もしもよ? もしも
王太子
けれど、逃げ道が欲しかったヴィアラはついシドに尋ねてしまう。
彼は
「いっそ、うんと遠くまで逃げましょうか? どんなところがいいですか?」
「そうね、海が
パァッと表情を
イーサンの護衛として訪れた場所を中心に、シドはヴィアラが気に入りそうな場所について話した。
「お嬢、ほかにも希望はありますか?」
何気ない日常のやりとり。このときからシドの頭の中には、逃亡先として幾つもの場所がリストアップされていたことをヴィアラは知らない。
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