十三歳の誕生日、皇后になりました。/石田リンネ
※こちらはビーズログ文庫「十三歳の誕生日、皇后になりました。」の書き下ろしショートストーリーです。
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タイトル『未来予想図』
妻の皇后『
しかし、莉杏は素直でとてもいい子だったので、暁月に相応しい立派な皇后になるという目標に向かって、日々努力を積み重ねていた。
「わたくし、
先日、
莉杏の興奮気味の宣言を聞かされることになった暁月は、莉杏の宣言の意味をすぐに理解できなかった。それぐらい意外な宣言だったのだ。
――よりにもよって、仕事ができても地味に性格の悪そうなあの女を手本だと!?
暁月は、「絶対にやめろ」と力強く反対した。そんな風に育ってほしくない。
(莉杏はもっとこう、……駄目だ。普段があまりにも子どもっぽくて、想像ができない。こいつってどんな大人になるんだ? ……おれは、どう育ってほしいんだ?)
暁月は、悩んだ末に、身近な人間の意見を聞いてみることにした。
【一、
「皇后陛下が大きくなられたら?」
まず、暁月にとって年上の幼なじみである武官の翠進勇に尋ねてみる。
進勇は「そうですね……」と頭の中で莉杏の未来予想図を描き始めた。
「きっととても素晴らしい皇后になっていらっしゃると思います。とても勉強熱心な方なので、いずれは『皇后としての手本』と語り継がれるのではないでしょうか」
進勇は、これでもかというぐらい莉杏を褒め称える。
暁月も莉杏のことをいい皇后になるだろうと思っているけれど、進勇のように素直に言えない性格なので、「過大評価しすぎじゃない?」というそっけない返事をしてしまった。
【二、
次に訊いたのは、禁軍時代からの付き合いである武官の功双秋だ。
双秋は進勇と違い、悩まずにさらっと答えた。
「あの方は、絶対美人になります。それも『傾国の』がつくほどの」
着眼点も進勇と違う。進勇は莉杏の能力の話をしたが、双秋は莉杏の顔を見ていた。
「身体の方の成長具合はまだわからないですけれど、顔は絶対にいいです。後宮で一、二を争います。だから、顔だけ見ていれば身体なんて気になりません。安心してください」
暁月は、まだ話を続けようとしている双秋を制し、冷たい視線を送る。
「なにを安心しろって? あんたさぁ、前から言っているけれど、そのくちを閉じないと絶対に出世できないからねぇ」
本当に余計なことまで平気でべらべら喋る男だな、と暁月は呆れた声を出した。
【三、
三人目は、暁月の乳兄弟の沙泉永だ。
泉永は少し考えたあと、難しいですねと呟いた。
「でも、皇后陛下は大きくなられても、あの愛らしさはやはりそのままだと思います。陛下のことはいつまでも一途に思い続けているはずですよ、絶対に」
泉永もまた、進勇とも双秋とも違う着眼点をもっていた。莉杏について、能力でも外見でもなく、中身について語ったのだ。
「子どもの恋心なんてものを信じるなんて、阿呆のやることだろ」
暁月が肩をすくめれば、泉永はなぜか笑った。
「またまた、結構自信があるでしょう?」
泉永は暁月と生まれたときからの付き合いなので、どこで撤退すべきかをきちんと判断できる。
暁月がなにか反応する前に、泉永は理不尽な怒りや照れ隠しを買わないよう、急いで立ち去ることに成功した。
暁月は、大人になった莉杏の姿を三人の男に想像させた。
三つの意見をまとめると、大人の莉杏は、『立派な皇后になっていて、とんでもない美人に育っていて、性格は愛らしくて一途なままでいる』らしい。
「はぁ〜? 男の理想をそのまま絵に描いたような女なんて、いるわけないだろうが」
ありえねぇ、と暁月は大人の莉杏という妄想をすぐに消してしまう。
くだらないことに時間を使ってしまったことにため息をついていると、うしろから小さな足音が近づいてきた。
「陛下! こんなところにいらっしゃったのですか!?」
きゃあ、と嬉しそうに飛びついてきたのは莉杏だ。
身体が小さい今なら飛びつかれても平気だが、もう少し育ったあとでもしっかり受け止められるのか不安になってしまう。
(もうちょっと鍛えておくか? おれの顔を見たら『陛下〜』って飛びつくこいつの癖、大人になっても治らないって)
暁月はそこまで考えてから、うわっと声を出してしまう。
「陛下? どうなさったのですか?」
莉杏が小首をかしげて見てきたので、暁月は「なんでもない」と言いながら、莉杏を引きはがした。
(……やっぱり、結構自信があるのかもな)
姿形や能力に磨きがかかったとしても、中身は変わらない。
泉永が言ったことだけには、どうやら同意する必要がありそうだった。
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