異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する 美紅

【家でゴロゴロ】


「今日は久しぶりに家でゆっくり休むかー」

「わふ?」

「ふご?」

 そう言いながらゴロンと家の中で寝転がる俺に、ナイトとアカツキが揃って首を傾げた。

「いやさ、今日はウサギ師匠の修行もないし、最近はずっと修行しっぱなしだったからさ。今日だけでもゆっくりしようかなって」

 すると、俺より先に家の中でゴロゴロしていたオーマさんが、口を開く。

『フン。確かに修行はよいが、休息というのもまた、体の力を抜くために必要なことだ。ユウヤは特に修行に熱心だからな。今日一日だけと言わず、もう少し休んでもよいのではないか?』

「いやあ……正直、修行しなくても本当にいいのか? って考えちゃうんだけど、疲れてるのも事実でさ。だから、今日だけ休んで、明日から頑張るよ」

『……そういう部分を見ているからこそ、我はもっと休むべきだと言ってるのだがな……』

 オーマさんは呆れた様子でそう言った。オーマさんはそう言うけど、元々ただの一般人である俺は、いくら修行しても足りないくらいなのだ。

『まあいい。それで? 何をするつもりだ?』

「うーん……いざ休むってなると……家でゴロゴロするくらいしか思い浮かばないなぁ」

『ほう? ならば、いい加減、我に地球とやらを案内――――』

「それは無理」

『何故だ!?』

「いや、オーマさん、竜だし」

『種族から否定されただとぉ!? 差別だ、差別! ナイトは良くて、何故我はダメなのだああああ!』

 小さい姿のオーマさんは、まるで駄々っ子のようにその場でジタバタする。

 ……これが伝説の竜っていうんだもんなぁ。こうしてみるとただ可愛い存在にしか見えない。

「あのですね、地球には竜が存在してないんですよ。だから、オーマさんを連れていけば、地球ではとんでもなく騒がれちゃうわけです」

『ええい、何とか我に似た生き物はおらんのか!』

「ええ? 翼が生えてる時点でどうしようもないですが……トカゲとか?」

『我をトカゲ風情と一緒にするだとぉ!?』

「貴方が似てる生き物って訊いたんですけど!?」

 面倒くさいな、この竜!

「わふぅ……」

「ぶひ」

 再び駄々をこねるオーマに対し、ナイトは困った表情を浮かべているが、アカツキはどこか小馬鹿にしたように笑っていた。あ、アカツキさん?

『なあ!? あ、アカツキ、貴様、我を笑ったな!?』

「フゴ」

『なあああ!?』

 アカツキはさらに鼻で笑うと、オーマさんは憤慨した後、何かに気づいたように笑う。

『ハッ! アカツキよ、貴様も我と同じで地球を案内してもらえぬのだろう? であれば、貴様に我を笑うことはできんぞ!』

「フゴォ? ブヒ」

 すると、そんなオーマさんの言葉に、アカツキは「コイツ、何を言ってるんだ?」と言わんばかりの反応を示した。

 そして、アカツキは俺に何かを訴えかけてきた。

「ぶひ。ぶひぶひ」

「ええ?」

 アカツキは、オーマに自分自身が地球を出歩けるかどうか教えてやれと、俺に伝えてくる。それに対し、オーマさんはその俺の返答を怖い顔で待っていた。

「えっと……残念ですけど、アカツキは見た目はただの豚なので、地球でもやろうと思えば出歩けるかと……」

『なんだとおおおおおお!?』

「フゴ」

 俺の返答に叫ぶオーマさん。そんなオーマさんに対し、アカツキは鼻で笑うと、オーマさんはアカツキに突撃を仕掛けた!

『ええい、貴様など、こうしてくれるわ!』

「ブヒ!? ブヒブヒ!」

 お互いにもみくちゃになりながら家中を転がる二人。

 本当のオーマさんなら巨大化すればアカツキどころか俺たちも一瞬で潰されるが、それをしないところを見ると本当に怒っているわけではなく、純粋にじゃれ合っているだけなのだろう。

 豚と竜がじゃれ合うってのもよく分からないが、オーマさんは今までその強大すぎる力のせいで親しい仲間も……それこそ賢者さんくらいしかいなかったはずだ。

 そんな中、臆することなく接してくれるアカツキの存在は何気に嬉しいのかもしれない。まあアカツキは深く考えてないと思うけど。

『おい貴様ら、伝説の存在である我をそのような生温かい目で見るな! いいから貴様らもこの豚の躾をしっかりせんか!』

「ええ? そんなこと言われても、アカツキにとってはそれが普通だし……いつもマイペースでお調子者だから、俺らにはどうすることもできないよなあ?」

「わふ」

「しかも、調子に乗りすぎて失敗することの方が多いけど」

「ワン」

「ぶひぃ!?」

 ナイトも俺の言葉に同意するように頷くと、そんな俺たちの反応にアカツキはショックを受けていた。

 いや、ショック受けてるけど、自分の行動を振り返ってほしい。可愛いからいいけど。

『だはははは! アカツキよ、貴様、ユウヤからもどうしようもない認定されておるのか! これは傑作――――ぶほ!?』

「ぶひっ! ぶひぶひ!」

『なっ!? き、貴様、我を叩いたな!?』

 すると、アカツキはその小さくて可愛い蹄で、ポカッとオーマを叩いた。

 そこからさらにヒートアップしていくアカツキとオーマさんのじゃれ合いを見ていたナイトは、やれやれと言わんばかりに止めに入った。

「ワン。わふ、わふ」

 だが……。

『ええい、貴様も巻き添えだ! 高みの見物は許さんぞ!』

「フゴ! ブヒィ!」

「わ、ワン!?」

 なんと、ナイトまで巻き込み、三人は面白そうに家中を転がり、じゃれ合った。ナイトとアカツキはともかく、伝説の竜はそれでいいのか。

 ただ、三人がとても楽しそうなのに、俺だけ参加できないのは寂しい。

 すると、そんな俺の様子に気づいたオーマさんが、俺を見て挑戦的に笑う。

『おお、残念ながらユウヤはこの楽しいじゃれ合いに混ざれぬなあ。なんせ、人間だからな!』

「わふぅ……」

「フゴ」

「むっ」

 残念そうな声を上げるナイトとは別に、アカツキは当然といった様子で頷く。

 オーマさん、俺が、種族が竜だから地球を案内できないって言ったの、根に持ってるな?

 でも……。

「いいや、俺も参加させてもらうよ!」

『な、何!?』

「わふ!」

「ふごぉ」

 俺は三人の間に割って入ると、そのまま抱きしめてたくさんじゃれ合った。

 しばらくの間、時間も気にせずじゃれ合っていると、ついに疲れ果てて全員動きを止める。

「はぁ……はぁ……あ、あれ? 今日って、休むつもりだったんじゃ……」

 それが、いつの間にかここまで体力を消費して……。

 何なら修行より疲れたんじゃないか?

 せっかくの休日に、体力を使い果たすという間抜けな結果になったが、精神的にはとても癒され、有意義な時間を過ごすことができたのだった。

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