第163話 騎士団長の裏側 騎士団視点
「いやーしかし、わざわざ相手の方から戦力を見せてくれたのは良かったではないか」
「はい。その通りでございます。リットル卿」
王都の貴族街にある屋敷で、二人の男が密談を交わす。
「して、敵戦力のほどは?」
「はっきり言ってあの二人は化け物です。もはや並のSランク冒険者の域など超えております」
「ほう。歴戦の兵士たるガルム副団長がそこまで……」
「はい。ですので……」
「わかっておるわ。その二人には同じく化け物を当てれば良いだけ。ミレオロには念を押す」
リットル卿と呼ばれた男は下卑た笑みを浮かべてそう言った。
侯爵位を授かる貴族であり、いまは軍務卿として王都騎士団をはじめとした全国の兵士を取りまとめ、冒険者ギルドにも関係の深い人間だった。
鋭い眼光はまだまだ現役の冒険者や兵士と互角以上の覇気を放つ。
「かの不死殺しアンデッドキラーであれば万一も起こり得ないと思います。あと一人連れてきていた女は本当に大したこともありません」
「そうであろう。あれは所詮田舎貴族の私兵団のエースというだけだ」
「領地に戦力と呼べる者がいるかは未知数ですが、冒険者上がりでは領地に優秀な人材を召抱えるには時間が必要かと……三人目があれでは、化け物二人さえ押さえればこちらのもの。所詮は個人でしか戦えぬ小物でしょう」
ガルムの願いはシンプルに、あの化け物──ランドとミルムとの戦闘を避けることだった。
そのために念を押し続ける。
実際のところガルムはそれでも懸念の方が強いのだ。あれだけの力を持つテイマーなど見たことはない。それがネクロマンサーという得体の知れない職業となれば、領地に何がいてもおかしくはないのだ。少なくともアンデッドを操ることは分かっているし、神獣クラスを三体も手懐けているのもわかっている。
だがリットル軍務卿の機嫌を損ねないためにも今は相手を軽んじて語る必要があった。
「うむ……数こそ力だ。そしてその数をコントロールすることが最も難しいのだ……冒険者風情は一人で何でもできると思い上がる。その点はまあ、魔術協会も同じかもしれんがな」
思うところがあるのかリットルの声が怒気をはらむ。
「だがまあ、そちらが勝手に潰し合うというのであれば好都合。あの元騎士団長の馬鹿のせいでこちらはとんでもない被害を被っているのだ。ここで力を見せつけてやらねばならん」
ロイグの失態は王都騎士団や冒険者ギルドはもちろん、その上にいるリットルの元にまで響く大きな出来事だった。
すでに責任問題を追求する財務卿あたりからの突き上げは凄まじいものになっており、リットルの頭を悩ませている。
だがここに来て起死回生の一手につながる情報が舞い込んだのだ。
「本当に……わざわざこちらが叩きやすい土壌を作ってくれたことにだけは感謝しても良い」
リットルが笑う。
「ネクロマンサーだかなんだか知らんが、アンデッドで街を作るなど正気の沙汰ではない。内部調査として騎士団を遣わせる。内部に問題があろうがなかろうが、叩き潰してしまえば何も問題はないからな」
「かしこまりました。あの二人さえいなければ所詮小娘とアンデッドだけの土地です」
「ああ。それにあの地は過去王都騎士団が踏み込んだ場所だろう?」
「ええ。地の利も関係ないとなれば単純な力比べですから」
「全く問題ないというわけだな」
二人の男が笑い合う。
ガルムは内心リットルの余裕に焦りを感じてはいた。
だがそれを止める術はもはやない。
冒険者から騎士団へ上がり安定を手にしたはずのガルムの精神は、当時以上にかき乱されていた。
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