第150話 セラの遺産?
「ほう……これは、元々セラが使っていた場所よりも良いかもしれませんな」
ロバートの案内でやってきた鍛冶場は非常に綺麗に整えられており、それでいていつでも動き出せるようにメンテナンスまで施されたいたれりつくせりの環境だった。
もっとも俺は鍛冶の知識がないのでこれでどの程度のものなのか、これから何が足りないのかはわからないが……。
『十分』
セラがそう言ったということは大丈夫なんだろう。
こちらのことなど気にかける様子もなく、早速周囲の素材を集めながら作業に入るセラ。
「マロンさん、作業するに当たって足りないものはありそうですか?」
「そうですな……セラは普段から素材さえ置いておけば常になにか作れるものを作り続けるので……」
「ならとりあえずはそれで……マロンさんと俺が話している間はここにいてもらおうか」
『素材はダンジョンから産出したものが各種ございますのでこちらへ運ばせましょう。ついでに雑務を担当するものたちも呼び出しておきます』
ロバートがテキパキと準備をすすめる。
「これではこちらの居心地が良すぎて戻ってこなくなりそうですな」
マロンさんは笑って……いや若干表情を引きつらせてその様子を眺めていた。
多分だが戻ってこなくなることはそんなに気にしていない。
それよりもロバートの段取りの良さに目を奪われているようだった。
◇
「さて……」
改めてマロンさんとの話に戻った。
要件は装備と渡した金額についての話になるのだが、その前に決めておきたいことができたしな。
「まずはセラのことを」
「そうですな……まずは、もしご迷惑でなければセラはあのままこの領地で、というのは」
「実は俺もその方が良いんじゃないかって思ってた」
俺にとってはもう慣れたものとはいえ、アンデッドとなったセラはおそらくこの領地の方が何かと都合がいいだろう。
元いた場所を知らないがここよりアンデッドにとって良い場所はないと断言できる。
「元々セラは多くを望むことがありませんでしたので、施設の内容は特に問題なく……いくつかの道具を運べばこれまでと同じように動けるかと思います」
「そうみたいだな」
さっきの様子を見ているだけでなんとなくわかる。
むしろ運ぶのが遅れれば本当に自分で全部作り出しそうだった。
「それでですな。ここからは商売の話になりますが……」
マロンさんの表情が変わる。
「まずセラについて、彼女は必要ない金額を受け取ろうとしなかったため、そもそもセラの財産だけでもかなりのものになります」
「前にも言ってたな」
「ええ。まずこのセラの財産について、その全額をランド様のこの領地へ」
「え?」
「金額はこのくらい……これを用いてぜひ、セラのためにもこの領地や設備への投資をお願いできればと」
「いやいや、流石にこれはマロンさんが管理したほうがいいだろ?!」
金額が大きすぎる。
そりゃあの大商会の人気シリーズを産み出した職人の貯蓄なのだからそれなりだとは思っていたが、これはちょっとこちらで扱い切れる範囲ではない。
「これから領地の管理も行われるとのこと、このくらいの金額は必要になるはずです」
マロンの言葉に対する判断基準を持たない俺はとりあえずロバートを頼ることにした。
『このままこの地をアンデッドタウンにし続けるのであれば正直、全く費用はかからないどころか今もダンジョンから資金源はどんどん手に入ってはおりますが……それらを流通させ、人の流れを作り、正常な都市として動かしていくことを考えれば、あって困ることはないかと』
もちろん軌道に乗ればともかく、それまでは持ち出す金額の桁はこれまでの感覚とは異なると付け加えられた。
「まあこの金はどのみちセラのものだ。セラに決めてもらおう」
絶対にどうでもいいと言われることはわかっているんだがとりあえず問題を先延ばしにした。
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