第102話
あのあとすぐ準備を終えて合流したアイルの案内で、俺たちに与えられた屋敷の上空までたどり着いていた。
「へえ……思っていたより大きいわね」
「はい。セシルム家の分家にあたるアルバル家の旧家。当時は男爵家でした」
説明するアイルは淡々としていて感情が読み取れないが、近づくにつれてなにか沈んだ表情になっていた。
「大丈夫か?」
「ええ……慣れない空の旅で少し……お見苦しい姿をお見せしました」
「そうか……」
近づこうとする俺を手で制してすぐに離れるアイル。
なんというか、あくまでこちらに心を許さない姿勢を崩さないという感じだ。
「それにしても、この移動手段には驚きましたね」
話題を逸らすようにアイルが話しかけてきた。
「あー、俺も三人はどうやって乗るんだろうって思ってたんだよな」
今俺たちはアールに運んでもらっている状態だ。
それは今までと変わらないんだが、アールには鞍ではなく、籠がぶら下げられるように取り付けられ、そこに俺たちが乗ると言う形になっていた。
ミルムが取り付けたものだ。
「アールが大きくなっててくれてよかったな」
『きゅるるー!』
重さも問題なさそうでむしろご機嫌だった。
あとで撫でてやろう。
「じゃあそろそろ降りましょうか」
「アール、ゆっくりな」
『きゅー!』
これまでと違って下に籠をぶら下げているわけだから、アールがいつも通りの着地をすると俺たちは死ぬ。
まあ、心配するまでもなくアールはきっちり俺たちが降りるまでちょうどいい高さに留まってくれているんだけどな。
「ありがとな」
『きゅるー!』
籠を外して解放してやる。
この辺りは広いし、しばらく自由にしててもらおう。
ひと撫でしてそれを伝えると嬉しそうに飛び立っていった。
「では、中に……」
「待ちなさい」
アイルが屋敷の扉を開けようとしたところでミルムが声を上げた。
「どうかしましたか?」
「貴方の役目は私たちの護衛、ここまでのはずよ。ここから先は必要ないわ」
「なっ!?」
あまりにもな物言いに驚く。
だがアイルの反応は怒りでも驚きでもなく……。
「ふぅ……ありがとうございます」
「なんで……」
何故か礼を言ってミルムに鍵を受け渡すアイル。
その表情は先ほど上空で見せたものよりさらに強張ったものになっていた。
「貴方には二つの選択肢がある」
「はい」
「一つはこのまま帰ること。帰り道に困らないくらいのフォローはするわ。ねえ?」
ミルムがこちらに向けてねえ、と問いかけてきたのでとりあえず答えておく。
「ああ。アールか、空が嫌ならレイもいる」
何も言わずうつむくだけのアイル。
こんな話をしている時だというのに、ミルムが一瞬、優しい目をした気がした。
「二つ目は、私たちに事情を話して協力を求めること、ね」
ばっと、アイルが初めて顔を上げた。
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