第71話
「ありがとうございます。貴方方は命の恩人だ……!」
馬車があったところまで戻ると、身なりの良い商人が出迎えてくれた。
「怪我がないなら何よりだ」
「ええ、ありがとうございます。高名なランド様とミルム様にこんな形で出会えるとは本当に幸運でした」
「俺たちを知ってるのか?」
「もちろんですとも。商人は情報が命……とはいえお二方ほど有名になれば私でなくても耳には入ります。災厄級、ドラゴンゾンビの討伐にたった二人で成功された英雄ですからな」
意外と噂の回りが早いらしい。
いやまあ、この商隊は見る限り俺たちと同じようなところから出発していたようだし、話は入りやすかったかもしれない。
「仲間のおかげだけどな」
「ご謙遜を……とにかく、お礼は改めて正式にさせていただきたい。本来であればこのまま商隊に加わっていただきたいところですが、お二方はどうやら別の移動手段がおありのご様子。2〜3日しましたら是非一度本社にお越しください。改めてお礼をさせていただきます」
商人の男が告げる。
本社……? そんな規模でやってるのか。
「ああ、失礼。申し遅れました。私はミッドガルド商会の会長をしております、マロンと申します」
「ミッドガルド!?」
「すごいの? それ」
ミルムが聞いてくる。
「ミッドガルド商会っていったら、この国の6割はその傘下といわれるほどの大商会だ」
「ふーん。大商人ってわけね」
「大商人の言葉で片付けて良いのかすらって感じだな……」
思ったより大物で驚く。
会長の顔と名前を知らずとも、ミッドガルド商会のことは知っている。
ミッドガルドと契約が結べればそれは冒険者たちにとって最高の名誉の一つとされるほどだ。
マロンと名乗った男はニコニコしながら懐に手を入れて何かを取り出す。
「私の名前とこちらを出していただければ我が商会で特別なサービスを受けられます」
「これは……」
宝石のような琥珀色の石を渡してもらう。
「我が商会における会員証のようなものです。本社の人間であれば誰に見せても通用するでしょう」
「そうなのか……」
よくわからないがとりあえずもらっておくことにした。
「それでは、必ず、いつになってもお越しくださいませ」
「ああ……」
もともと行く予定だったアレイドに本社もある。というより、フェイドたちが使っていた店も全てその傘下だ。
「ねえ。だったらどうせ街についても暇なんじゃないの?」
「暇ってわけじゃないけど……確かにマロンを待ってたらある程度時間潰しは必要だな」
馬車を使う商隊と竜による移動ではまるでスピードが変わる。
荷物だけなら【宵闇の棺】でなんとかできるが、人はミルムと俺以外を運ぶ余裕はない。
「なら、一緒に行ったらどうかしら?」
「あー……」
「おお! 本当ですか?! それは大変心強い。お礼は弾みますので是非!」
マロンは乗り気だ。
どの道急いで行ったとしてもマロンを待った方が確実にいいものが買える……か。
「そうするか」
「ありがとうございます! 席をご用意いたしますので……」
「それはいいわ。この子は乗り心地がいいから私たちは空から追いかけるから」
「おお……それはそれは……かしこまりました。食事と寝泊りの際だけはしっかりとした環境を整えさせていただきましょう」
こうして俺たちは商隊に加わることになった。
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