第60話

「さてと……あーそうだ。ちょうど良いから今伝えとくか」


 飲みかけの酒を置いて改まった表情でギレンが言う。


「何をだ?」

「フェイドたち四人が姿を消した。これは俺のミスだ。すまねえ」


 ギレンが頭を下げる。

 おいおい仮にもギルドマスターがこんな目立つ場所で……。


「Sランクパーティーをコントロールするのは無理だろ……ましてこの地域にはあいつらより強い奴らはいなかっただろ?」

「だとしてもだ。油断と言われればそれまで。流石のあいつらも今謹慎を無視して動けばどうなるかくらいわかると期待した俺がバカだった……」


 珍しく怒りを露わにするギレン。

 まあそうだな……。ロイグ以外は何とかしてやろうと動いていたところにこれだ。

 裏切られた形になったギレンはショックだろう……。


 それにしてもそうか……。

 フェイドたちはギルドを振り切って……。


「で、どうするんだ?」

「捜索隊は一応出している。だが考えもなしに動くとは思えん」

「そりゃそうだろうな……」


 フェイドは勇者の認定を受けることをかなり喜んでいたはずだ。

 クエラも正式に聖女と認定されるし、ロイグも騎士団時代の汚名をそそぐことになる。

 メイルだけは何を考えているのかわからなかったが……。


「おそらくだが、手土産に何かの実績を持って戻ってくるだろうな……」

「それは謹慎を破るだけの価値はあるもんなのか?」


 ギレンがかぶりを振った。

 まあそうだろうな……。


「仮に今回、ドラゴンゾンビが街を襲い、甚大な被害をもたらしていたとして、そこに居合わせ民を助けたという話ならわからんでもなかった」

「なるほど……」


 待てよ?


「なんだ……?」


 固まってしまった俺の様子に気づいたギレンが報告を急かす。

 だがこれは今俺の頭によぎってしまっただけ。ここで報告するのは……。


「いや……これは変に繋げるとややこしくなると思うんだが……」

「良い。言ってみろ」


 ギレンに促される。

 まあどのみち報告義務はあるんだ。ギレンなら安直に可能性を絞ることはしないと判断し、答えることにした。


「竜の墓場に俺たちがついたときには、ミルムの見立てではまだドラゴンゾンビになるような状況じゃなかったんだよ」

「は……?」

「竜以外の依代さえなければ問題はないだろうってことで、普通に調査をして帰る予定で……」

「おい待て」


 言い終わる前にギレンに肩を掴まれた。


「そうだ。何者かが瘴気の流れを操った。今回のドラゴンゾンビは人為的に生まれたものだ」

「馬鹿な……まさか……」


 今これを告げれば嫌でもフェイドたちのことが頭をよぎるのをわかっていた。

 意図したわけではなくとも、どうしてもそうなるタイミングだ。


 頭を悩ませるギレンに一つ、先に手土産を渡すことにした。

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