第59話
「でだ、ランド」
さっきまでの改まった態度は何処へやらといういつものノリのギレンが肩を組んで来る。
「ドラゴンゾンビの討伐用にこんだけ集めちまったわけだ。こいつらをただで帰すのは忍びねえと思わねえか?」
周りを見渡す。
ざっと数えて数十では済まないほどの冒険者たちが、目が合うたびに何か期待するような眼差しをこちらに向けていた。
「なるほど……」
「どういうことかしら?」
ミルムだけわからなかったようだ。
ギレンからは追い討ちのように一言、こう付け加えられた。
「辺境伯家から予算はたっぷりもらった」
不思議そうな顔をするミルムに補足する。
「今回のドラゴンゾンビ討伐の報酬だけどな、本来は二人で討伐した俺たちだけ取り分にしていいところを、ギレンはこう言ってるわけだ。宴会代をおいて行けと」
「なるほどね。良いじゃない! 盛大に祝えば良いわ!」
「決まりだな」
ニッと笑ってギレンがそう言った途端、ギルドは歓声に包まれた。
◇
ミルムが頬袋に食糧を溜め込んでいる。
時折声をかけられてあわあわしながら対応しているが楽しそうなので良いだろう。
最初は話しかけられるたびに俺の方を見つめてきていたがやっと慣れたようだ。
「良いのかい? 英雄がこんなおっさんの相手で」
「何言ってんだ」
ミルムが大丈夫そうだったので俺はギレンの元にやってきていた。
「お前が自分からパーティーを見つけて組んでくれたのは僥倖だった。ありがてえ限りだ」
「成り行きだったけどな」
「それでも、だ」
ガハハと笑いながら肉にかぶりつき酒をあおる。
見た目通りの食いっぷりだ。
「ありがとな」
これを伝えに来ていた。
「何がだ。感謝することはあってもされることは……」
「これ、黙ってギルドからの大盤振る舞いにしたって良かっただろうに」
本来一冒険者に対して、辺境伯がいくら予算を用意していたかなんて話は入ってこない。
それに何より、この金の使い方は別に間違っちゃいないわけだからな。勝手にやろうが俺を含めて誰も咎められなかったはずの使い方だった。
「ったく……変に気が回るというか……お前はこれでもうちょい人を疑うことを覚えりゃなぁ」
「あんたに言われたくはない」
ギレンが受けた顔の傷は、当時の仲間に裏切られてできたものだ。
それでもなお、冒険者を、そしてパーティーを見限らずに面倒を見てきた。それがギレンだ。
「まあこれは何もお前らのためだけってわけでもねえからな」
ギレンはそういうが、これは明らかに俺たちの株を上げるためのパフォーマンスだ。
照れ隠しをするようにギレンは早口で捲し立てた。
「吸血鬼のネガティブなイメージってのはな。お前が思うより根深い。それこそその頃から生きてる冒険者がまだ現役ってこともある。人間じゃない種族なら特にな」
それは確かにそうだろう。
現に影響力の強い組織のトップに元ヴァンパイアハンターがいるなんてこともあるくらいだからな。
だが、この男ギレンがトップの組織においては、その心配は全くないだろう。
「このギルドでそんなことを気にする奴は少なくとも、あんたのおかげでいなそうだけどな」
ミルムを囲み、英雄と称えて話をする冒険者たちを見てそう言った。
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