第56話
「英雄様が来たぞー!」
「おお……あれが」
「ありがたい……ありがたい……」
村についた途端、人だかりができて祈る人間まで出る始末にミルムが戸惑いを隠せずにいた。
「これは……」
「驚いたか?」
「そりゃそうよ! 怖がられて怯えられるかと思ってたんだから!」
この村がこうも俺たちを好意的に受け入れてくれたのには理由がある。
「この村はな、代々竜の墓場を見守る役目を持った村だ」
「見守る……?」
前にフェイドたちと来たのを覚えている。
当時はこの村に状況を伝えることは国やギルドに伝えることよりも優先するほどだったからな。
今はもうギルドがしっかりその役目を買って出ているようだったが、この村は村で常に竜の墓場の行く末を気にし続けていた。そりゃそうだろう。そう前の話でもないしな。
「ミルムは街が破壊されるって言ったけど、人の多い街や王国を狙うにしても必ずこの村は通るんだ」
「なるほど……だからこんな辺境の村なのに見張りが充実していたわけね」
「そういうことだ」
ドラゴンゾンビが目覚めれば村はその気まぐれで滅ぶ。
それを避けるためには常に竜の墓場の動向を観察し、もしもの時に備える必要があったわけだ。
「貴方様方のおかげで我ら、村を捨てずに済んだのです」
手を差し伸べてきた村長は人に好かれそうな朗らかな顔をした小さな老人だった。
「私は村長のジグでございます。貴方たちがこの村をドラゴンゾンビより守ってくださるのは、この目で見ておりました」
守ろうとしてやったかと言われれば微妙だが結果的にそうなったのなら良かったというわけだ。
「ささ、こちらへ。大したことはできませんが祭りの準備もしております。もてなしくらいさせていただきたい」
「ありがたい」
話が進む中ミルムだけが置いてけぼりになっていた。
「うそ……私の戦いを見てこんなすんなり受け入れてくれるなんて……」
「言ったろ?」
「ええ……ええ!」
目の前の脅威であったドラゴンゾンビを倒した英雄をないがしろにするはずはない。
ミルムがそれを体感できてよかったな。
多分ギルドでも同じことが起きるんだが……まあいいか。
「美味しいわ!」
「お気に召していただけて何よりでございます」
とりあえず、ミルムが楽しそうに笑ってくれたのが収穫だった。
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