第48話

「楽勝ムードだな……」


 多少余裕を感じたところで、ドラゴンゾンビの動きに変化が起きる。

 分が悪いと感じたのかドラゴンゾンビが反転したのだ。


「やりすぎちゃったわね」

「言ってる場合か! 【雷光】!」


 すぐさま手をうった。

 もちろんミルムのほうも何かしら考えてはいただろうができることはやる。


「──!?」


 ドラゴンゾンビの分かりにくい表情がそれでも多少の驚きを見せる。

 雷光を発動すると上空を黒い雲が包み込んだ。行く手を阻むように現れた雲に戸惑うドラゴンゾンビは、その戸惑いの分だけ反応が遅れた。


「グギャァアアアアアアアアアア」


 雷がその巨体を襲う。

 流石に多少はダメージがあったようだ。


「流石賢者の魔法だな……」

「やるじゃない」


 一瞬でもこうして時間を稼げばミルムが引き継いでくれる。


 だが、それまでの楽勝モードはもう維持できないようだった。


「へぇ……ようやくちょっと本気を出してくれるそうよ」


 再び反転したドラゴンゾンビは、それまでのものと雰囲気が異なっていた。


「今までのって手加減されてたのか……」


 目から怪しげに紫の光をほとばしらせ、その余波のように体中からモヤのような黒紫のオーラを漂わせている。


「手加減というより、魔力を失いたくなかったんでしょうね」

「なるほどな……」


 魔力を失えば活動時間が減る。

 それを嫌がって今までは物理攻撃だけで済ませてくれていたというわけだ。


「ここからが本番ね」


 楽しそうに笑うミルム。


「ちなみにこいつ、何のために動くんだ……?」


 アンデッドの行動原則は基本的に未練と言われている。

 だがもうこのアンデッドとなったドラゴンが相対した帝国はないはずだ。


「刷り込まれてるのは人への憎しみってとこかしら?」

「なるほどな……」


 ミルムより俺の方が囮に向いてるってわけか。

 道理で俺の攻撃でもこちらへ向き直ってくれたというわけだ。


「来るわ」


 ミルムの声の直後、ドラゴンゾンビの目が怪しく光を見せる。

 次の瞬間──


「なっ……!?」

「グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

「くっ……!? 【宵闇の棺】! レイ! エース! お前ら治まるまで入ってろ!」


 二匹が心配そうな顔をしながらもすぐに言うことを聞いて姿を隠す。良かった。少しでもタイムラグがあればお互いに危なかったはずだ。優秀な使い魔で助かる。

 二匹が消えた次の瞬間、ドラゴンゾンビの身体から無数の紫の光の筋が飛び出してきていた。

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