第36話

「おい! あのランドの連れ、新人らしいぞ!?」

「ランドのやつパーティー抜けた途端あんな可愛い子を……」

「だがランドもSランクパーティーにいたくらいだし、育て直す気か?」

「そりゃまあ、いきなりついていけるような子は連れてこれねえだろ?」

「じゃあこれでお手並み拝見ってわけか」


 ギルドの訓練場にはなぜかギャラリーができていた。


「モテモテね」

「どっかで聞いたなその台詞」


 ミルムが気にする素振りを見せていないのでまあいいとしよう。


「で、なにをすればいいのかしら?」

「登録試験では単純な出力を問うので、ご自身の好きな攻撃手段を持ってあのターゲットを攻撃してください」


 訓練場の奥に浮かぶ球体を指してニィナさんが説明してくれた。

 そのまま向かうかと思ったが、ミルムは振り返って小声で俺にこういった。


「ねえ」

「なんだ?」

「何となくだけど、あれを壊しちゃいけないことはわかるのよ」

「ミルムって意外なことに人間社会に理解があるよな」

「うるさいわね。で、どの程度でやればいいの?」

「そうだな……」


 フルパワーなら壊れる。

 本人が確認するくらいだ。やろうとおもえば壊せるんだろう。


 魔法はヴァンパイア特有異質なものが多いことを想像すると無難なのは物理攻撃なんだが……デコピンでミノタウロスが吹き飛ぶからな……。


「なんか武器とか持ってるか?」

「一応一族に伝わるナイフがあるわね」

「じゃあそれでいこう。壊れたら武器のせいってことで」

「なるほど。賢いじゃない」


 観客には見えないように【宵闇の棺】からナイフを取り出すミルム。


「準備はできましたか?」

「ええ」

「それでは、好きなタイミングでどうぞ」


 周囲の冒険者たちが見守る中、ミルムがナイフを構えた。


「やっぱりどっかから使い手を連れてきたってわけじゃなかったな」

「ナイフだもんな……魔法やら遠距離攻撃ができりゃ使いものになったかもだが……」

「だがあれ、ナイフはやたら業物だな」

「どっかの国の令嬢の面倒でも頼まれたかねえ。ランドのやつ」


 ギャラリーの評価はこんな感じだった。

 武器のせいにするとはいえこのあと度肝を抜かれるだろうな……。ミルムがどの程度手加減するか分からないが。


 そうこうしているうちにミルムはゆっくりとターゲットの前までやってきていた。


「いくわね」


 構えた次の瞬間にはもう、ターゲットは細切れにされていた。


「は……?」

「え……?」

「あれ?」


 ミルムの顔に冷や汗が浮かんでいた。

 思ったより脆かったんだな……それ……いや普通そんなことにはならないんだけど……。


「ニィナさん、あれちょっと古かったんじゃないですか?」

「えっ? ああ……! そうでした。おそらく以前までのダメージもあったかと……ですがひとまず暫定としては、ランドさんと同じく最高Bランクまでとして評価します」


 ニィナさんが話を合わせてくれてよかった。

 ただ新人がいきなりBランク向けの依頼を受けられる異例の措置にギャラリーは湧いた。


「すげえな!? おめえあれ見てたか!?」

「あれが古かったって話だろ? たまたまじゃねえのか?」

「じゃあお前、古いターゲット持ってこさせてぶっこわせんのか?!」

「なんにせよ大型新人だぞこりゃ!」

「ランドのやつやりやがったな! あんな美人でつええ仲間見つけてくるなんてよ!」


 焦った顔をしていたミルムだったが、なんとかなったことを悟ってからは得意げに笑っていた。

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