第32話

「ランドだ……」

「なんだ隣の子!? めちゃくちゃ可愛いぞ!?」

「それより一緒にいた犬、でかくなってないか……?」

「こないだはミノタウロスまでいっしょにいたらしいぞ!」


 ギルドに足を踏み入れた途端注目が集まった。


「人気者じゃない」

「いや、悪目立ちだな……」


 とりあえず受付まで行こう。

 たどり着くまでの間もずっと、声は収まることがなかった。


「にしても、本当に可愛いな隣の子」

「メイルやクエラに誘われて断ったのってあれが原因か」

「ランドのこと見捨てて逃げてきたって話だったけど、その上断られてんだからざまぁねえなぁ」

「馬鹿なことしたなぁあいつらも。俺は前からランドが一番つええと思ってたぜ!」

「はいはい……こないだまでフェイドだフェイドだって騒いでたくせによ」


 いろんな声を背中に受けながらようやくカウンターにたどり着いた。


「あ! ランドさん! と……綺麗な方ですね?」

「ふふん。見所があるわね。眷属にしてあげようかしら?」

「え……まさかとは思いますが……」


 ニィナさんがこちらを見た。

 俺の行った場所、今のミルムの言動から導けば自ずと答えは出るだろう。


「悪いやつじゃなかったから連れてきた」

「ちょちょちょちょっと待ってくださいね!?」


 ニィナさんはパタパタと奥に駆け込んでいった。


「やっぱ俺が思ってるよりミルムってとんでもないんだな」

「むしろあなたの反応がおかしかったのね。まあでも、分かっても敵視はしてこなかったわね」

「そうだな」


 ギルドにとってどういう存在かはわからなかったが、少なくとも問答無用でというわけではないようだった。


「あ! お二人ともすみません。こちらにお越しください」


 結局カウンターの奥の応接室に招かれることになった。

 ある意味これも冒険者たちにとってはステータスだ。この部屋に呼ばれるのはギルドから特別任務を与えられるような信頼のおける存在や、国家戦力級、AランクやSランクの特権だからだ。


 なのでまた背中に羨望の視線を受けることになったが、応接室まで二人で向かった。


「こちらへ」

「ああ……って、ギレン?!」

「久しいな。ランド」


 応接室で待っていたのはギルドマスター、ギレンだった。

 大柄の体躯。傷だらけの顔。鍛え抜かれた身体。

 誰が見てもひと目に只者ではないことがうかがい知れる強者の風格を持った男が──


「さて、まずは詫びよう。俺がしっかりしていりゃお前は死にかけることもなかった。すまんな」


 会って早々頭を下げていた。

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