第26話

「そうだわ! 貴方、眷属にしてあげる」

「眷属……?」

「そうよ? 純血種の王たる私が直々に眷属にしてあげるの。どう? ありがたいと思わない?」


 頭を巡らせる。

 ヴァンパイアが敵性の存在とされてきたのは、その部下の凶暴性によるところが大きい。

 またヴァンパイアの親玉である存在も、人間の倫理観が存在せず手に負えないケースが多かった。


 ただ、この国ではヴァンパイアというだけで罪に問われることはなかったはずだ。

 出来損ないのグール等、知性を失えばその限りではないが、基本的には亜人として認識されている。

 ただまあそれでも、敵視する人間は多いが……。


「眷属って、血をもらうってやつだっけか?」

「そうよ! ありがたく思いなさい?」

「それ、されるとどうなるんだっけ?」

「え? うーん……どうなるのかしら?」

「知らないのか……」


 少女を見ると顔を赤くして反論した。


「だってしょうがないじゃない! 初めてなんだから!」


 最初の威圧感はどこにいったのかと思うほどパタパタと動く可愛い生き物になっていた。


「で……どうするのよ……?」


 チラチラ上目遣いでこちらを伺う様子もとても可愛い。

 可愛いんだが気をつけないと目の前の相手は一瞬で俺たちを亡き者にする力を持っている。現に俺、今腕ないしな。


「名前は?」

「えっ? ミルムよ」

「ミルム。相談がある」

「何かしら? なんでも聞いていいわよ? 貴方は眷属候補だからね。あっ、これも返してあげるわ」


 そう言って俺の腕を投げると、空中で黒い霧に包まれ無数のコウモリとなって俺のなくなった右腕に飛んできた。


「なんだ……? え……?」


 見れば元通り、俺の腕はしっかりと治っていた。

 どんな魔法だ……。


「で、質問は何かしら? 私は今機嫌がいいから聞いてあげるわ」


 どうもよくわからない理由で気に入られたらしい。


「ミルムは俺を眷属にして何をしたいんだ?」

「え? うーん……難しい質問をするわね。眷属のくせに」


 ぶつぶつと悩む素振りを見せるミルム。

 あれだな。なんも考えてないやつだこれ。


「決めたわ! ここにヴァンパイアの国を作って──」

「却下だ」

「なんでよ! 眷属のくせに生意気ね!」

「国を作るほどのヴァンパイアをどっから集めてくる気だ。全部生む気か?!」


 こんな場所にすすんでやってくる冒険者もほとんどいないだろうし、ヴァンパイアの生き残りがそんなにたくさんいるとは思えない。


「生む?! そうね……眷属がどうしてもっていうならその……考えてあげてもいいけど」


 顔を赤らめてチラチラこちらを伺いながらそんなことを言い出す美少女。


「却下だ」

「なんでよ!」


 話してみてわかったがこの子は悪い子じゃないな。


『クゥン』

『グモォ』


 戻ってきたレイとエースが敵意も出さずに大人しくしているのが何よりの証拠だろう。


「提案だ」

「相談に提案に、忙しいわね」

「仲間にならないか?」

「仲間……?」


 ミルムは面食らったようにポカンと口を開けてこちらを見ていた。

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