第18話

 驚いたことに次の日には試験官になるSランク冒険者が現れるということで、すぐにギルドの訓練施設へ呼ばれる羽目になった。

 着いたときにはもう人がいた。


「へえ。あんたがSランク候補ってわけね」


 待っていたのは赤髪の美女だった。

 すらっとした細身な身体に長剣を背負い、挑戦的で切れ長なツリ目、透き通るような色白の肌。

 少し長い耳はおそらく、ハーフエルフゆえの特徴だろう。


 これだけ特徴が揃えば俺でもわかる。


「剣聖……ルミナス=リーベスト」

「ぴんぽーん! えへへー。私も有名人になっちゃったもんだねえ!」


 千年に一度と言われる【剣聖】のスキルを授かり、最年少でSランクに単体認定された生きる伝説。

 暴風のルミナス。


「さてと、とっととやろっか? お互い忙しいでしょ?」

「ああ……Sランクとなれば忙しいか」


 俺はともかく相手はそうだろう。

 Sランク冒険者の時間は高い。


「うんうん。さてと」


 軽く準備運動を始めるルミナス。

 気楽にしていられるのはこの瞬間までだった。


「よし!」



──ブワッ


 ルミナスが準備運動を終え、その気になった途端、周囲に風が舞い上がった。

 全身が輝いたようにすら見える。目の前のSランク冒険者の放つオーラに圧倒されて思わず後ずさりをするほど、圧倒的な何かを肌でひしひしと感じていた。


「なんだこれ……」


 レイが支えてくれたおかげでなんとか対峙していられるが、まるでレベルが違うことを実感させられた。


「構えて?」


 ルミナスが姿勢を低くして剣に手をかけた。


「──っ!?」


 その瞬間、再度辺りの空気が一変した。あそこからまだギアを上げてきたわけだ。

 全身が身震いするほどのオーラ。

 俺より小さかったはずの存在が、何倍にも膨れ上がって見えるようだった。


「レイ! エース! 頼むぞ!」

『ワォオオオオン!』

『グモォオオオオ!』


 頼れる二匹の咆哮によってなんとかルミナスの放つオーラをかき消してくれる。

 良かった。あのままじゃ身動きすら取れなかった。


「へえ。面白いね。これがネクロマンスってやつか……じゃ、行くよ?」


 ルミナスの姿が一瞬にしてかき消えたように見えた。

 次の瞬間、レイが吹き飛ばされていた。


「はっ?」

『グモォオオオ!』


 レイが吹き飛ばされた方向にエースが飛び込み、勢いそのままに斧を振り下ろした。


「遅いよ?」

『グモォオオオオ!?』


 エースの斧は土煙だけになったルミナスの残像に吸い込まれる。

 もうそこにルミナスはいなかった。


『キュウオオオオオオオオオオオオン』


 だがルミナスも反撃に転じる余裕はないようだった。

 すぐにレイが攻撃に移る。


 ──カキン


「へえ……どっちもA級は余裕で超えてる……ただのミノタウロスより強い」

「だそうだぞ? 良かったなエース」

「もちろん君もね」

『キュウオオオオオオン』


 ──ガキン!


 驚いたことに会話しながらも二匹の攻撃をいなし続けるルミナス。

 その動きにはまだまだ余裕があるようだった。

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