第7話 予期せぬ苦戦【パーティー視点】

「くそっ! 何でこんなに帰りの道で魔物が出て来やがるんだ!?」

「ロイグと俺で前衛を張ろう! メイル! クエラ! 援護を!」

「ダメです! フェイドさんは後ろにいてください!」

「なぜだ!? 前さえ守っていれば……くっ?!」


 ランドを犠牲にして四層まで逃げ込んだフェイドたちパーティーは、帰路の道で思わぬ苦戦を強いられていた。


「このダンジョンは前からだけじゃないです! 四方から魔物が現れます!」

「だが前の方が圧倒的に多いぞ!?」

「ですが! 後ろに守りがいない状況では立て直せなくなります!」

「くっ……」


 クエラは叫びながら感じていた。

 逃げ遅れたと聞かされたランドが道中、どれだけ障害となる罠や魔物を倒していたかということを。

 まさかフロアボス以外の階層でこんなに苦戦するなんて思いもしていなかった。


「ランドさん……」


 今更気づいたところで後の祭りだ。

 これはメイルもひしひしと感じているところだった。


「ロイグ……ヘイトコントロール、下手」

「だぁああ! うるせえ! 数が数なんだ! しょうがねえだろ!?」


 確かにロイグの言う通り数の問題はある。

 だがロイグの雑なヘイト管理をいかにランドがうまくコントロールしていたかもまた、後ろにいるメイルにはよく伝わっていた。


「くっ……まさかこんなところで苦戦するとは……」

「くそがっ! あの雑魚が俺らの荷物ごと死にやがったからこうなってんだろうが! 剣が錆びてちゃ切れねえってんだ!」


 ロイグの言い訳は他の3人、特にリーダーのフェイドに別の方向から突き刺さっていた。

 ランドがいなければあれだけ潤沢な物資をダンジョンに運び込むこともできなかっただろうからだ。


「くそっ!」


 ランドなどただのお荷物だと思っていた。

 本当に何の役にも立たない、ただ迷惑をかけ、進行を遅らせ、食い扶持を奪う、それだけの存在のように扱っていた。


 フェイドにとってランドはただの幼馴染ではない。街の誇りとまで言われた天才神童ランド。勝手にライバル視して、相手にすらされなかったフェイド。

 意図して意識の外に外していたが、戦闘に参加しづらい荷物持ちをさせて経験値が入らないようにしたことも、雑用を押し付けて極力パーティーメンバーがランドの優秀さに気が付かないようにしていたのもフェイドだった。

 いつの間にかそんな話を忘れるくらい、すっかりランドはその立ち位置に順応していた。

 狙い通りではあった。

 だが今フェイドがこうして次期勇者とまでもてはやされるに至ったのは、幼少期のランドを追いかけ、時に教えを乞うたからこそである事実もある。


 Sランク冒険者、次期勇者とまで言われるに至ってなお、こうして追いつくことのできない差を、また何も言わず見せつけられる。

 その事実はフェイドの心を掻き毟るように逆撫した。


「くそぉおおおおおおおおお!」


 感情をあまり表に出さないフェイドの変化にパーティーメンバーは一瞬あっけにとられるが、状況を見て気合を入れたのだろうと頭を切り替える。


「ちっ……とにかくこの三階層さえ抜けりゃあ出てくる魔物も少しはましだろう! クエラ! 回復切らすんじゃねえぞ!」

「わかっています!」


 ロイグが自分が傷を背負うことを覚悟し、前に出る。

 予期せぬ苦戦を強いられたSランクパーティー。

 なんとか迫りくる魔物たちを躱しながらギルドへの帰還を目指した。

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