スペシャルSSでおうち時間を楽しもう!
DRAGON NOVELS
「異世界転生して生産スキルのカンスト目指します! 渡琉兎」
『カズチとの小物作り』
今日は久しぶりに一日中、暇になってしまった。
ソニンさんは錬成部屋で錬成師見習いを教えており、ホームズさんは大量の書類を事務員の二人と処理している。
ゾラさんは、なんと珍しく仕事の依頼があると役所に行ってしまったのだ。
……まあ、珍しいって言ったら失礼なんだけど、ちゃんと働いている姿ってあんまり見ないんだもんなぁ。
ということで、今日はガーレッドとベッドで戯れていようかと考えていたのだが──
──コンコン。
ドアがノックされたのでガーレッドを抱き上げて開けてみると、そこにはカズチが立っていた。
「おはよう、カズチ。どうしたの?」
「おはよう。いや、副棟梁からジンが暇しているだろうからって聞いてさ、たまには俺と錬成の練習でもどうかと思ってさ」
「えっ! ……い、いいの?」
「そんなソワソワしながら言うなって。ちゃんと副棟梁には許可を貰ってるから安心しろよ」
おぉ、ソニンさんグッジョブ! そしてカズチもありがとう!
「でも、僕は錬成布を持ってないんだけど……」
「それも預かってきてる」
「ありがとうございます!」
「丁寧に扱えよ。明日の副棟梁との授業でも使うんだからな」
「分かってるよ! 僕が生産に関わる道具を雑に扱うわけないだろう!」
「……それもそうだな。それじゃあ、どこでやる? 俺の部屋に行くか?」
「ううん、時間がもったいないしここでやろう!」
そう言って僕は机を壁際からベッドに寄せると、椅子にカズチを座らせて、僕はベッドの端に腰掛けた。
「カズチは納品の為にケルン石の錬成をするの?」
「あぁ。ジンはどうするんだ?」
「そうだなぁ……ソニンさんもいないし、たまには奇抜な作品でも作ってみようかな」
ソニンさんの目があるところで変なものを作ると何を言われるか分からない。だって、一番怖いんだもんなぁ。
だから無難に丸だったり四角で錬成を終わらせていたんだけど、今回だけは色々と試してみたい。
「だったら、この部屋に飾る置物でも作ってみたらどうだ?」
「置物かぁ……それ、いいかもしれないね」
「だろ? 俺の部屋以上に殺風景な部屋なんて見たことないしな」
「むっ! カズチの部屋もそんなに変わらないんじゃないの?」
「そうか? 俺の部屋には練習用の素材があるけど」
「あっ! それなら僕も持ってるよ! まあ、ホームズさんとユウキから貰ったやつだけど」
以前に二人からお礼として大量の素材を貰っている。
一度錬成をしたことのある銅やキルト鉱石、ケルン石もあったけど、全く見たことのない素材も山ほど入っていた。
中には魔獣素材もあるとか言っていたし、正直どうしたらいいのか困っているのだ。
ちなみに、その素材の山は僕の部屋に入りきらない量なので魔法鞄に全て入れている。だから部屋には飾られていなかった。
「……使えそうにない小さな素材だったら、練習でやってみてもいいかな」
「ジン、まさか初めて錬成する素材を副棟梁がいないところでやるつもりか?」
「ふふふー、いないからこそできるんじゃないかー」
「……バレて怒られても知らないからな」
溜息をつきながらそう言ったカズチだが、止めるつもりはないらしい。
そんなカズチを珍しいなと思いながら僕が素材を魔法鞄から探していると、チラチラと視線を感じたので止めなかった理由に察しがついた。
「……カズチも見てみる?」
「……いいのか?」
「そんなに見られてたら気になるしね」
「……すまん」
「でも、ソニンさんに怒られたら同罪ね?」
「……分かったよ!」
「にひひー。それじゃあ、綺麗なやつから机に出していくね。量があるから少しだけど」
そう言いながら机の上に小さくて綺麗な素材をいくつか並べていく。
赤や青や緑や黄など、様々な色の鉱石が出てくるのでカズチが呆れ顔になっている。
「言っておくけど、これを採ってきたのはホームズさんとユウキだから、僕は関係ないからね」
「分かってるって。それにしても、こんな小さな物まで採ってきてたんだな」
カズチは指で摘めるくらいに小さな赤い鉱石を手に取って眺めている。
形が
「……そうだ、ちょっとやってみたいことがあるんだけど、その鉱石を貸してもらってもいいかな?」
「ジンのだしいいけど、何をするんだ?」
「いいから見てて」
「ピキャー?」
「ガーレッドはちょっとだけカズチのところねー」
僕はガーレッドをカズチの膝の上に乗せると、一度机の上を片付けて錬成布を敷き、先ほどの赤い鉱石を置く。
僕は頭の中にとある果物をイメージしながら錬成を開始した。
錬成は分解、排除、浄化、構築と四つの工程に分かれている。
全てが大事な工程なのだが、その中でも一番重要なのが魔素を取り除く浄化の工程なのだが、今回はそれ以上に大事な工程がある。それは──構築だ。
イメージした形の通りに構築されなければ、それは鑑賞用にもならない失敗作。
これを鍛冶に回すことも可能だが、質量が少な過ぎて使い物にならない。
だからこそ、今回の錬成で最も大事になるのは構築なのだ。
三つの工程を順調に消化し、最後の構築へ移るとより強固なイメージを作り出す。
下の部分は丸みを帯びているが、中央部分には窪みを作る。
やや楕円状にして上へと伸ばしていき、上の部分にも同様に丸みと窪みを作るのだが、そこには茎と一枚だけ葉っぱをモチーフにした形を作り出した。
「……ど、どうだ!」
「ピキャー! ピッキャキャー!」
「……マジかよ、これ、めっちゃ綺麗じゃないか! 凄く透明で、これは果物か?」
僕は赤い果物ということでリンゴをイメージして構築を行った。
茎や葉っぱも赤いのは仕方ないとして、歪な形のクズ鉱石がこうして見てて飽きない置物に変わったなら、それはもうクズ鉱石ではなく立派な商品ではないだろうか。
そして、カズチが言ったように僕は構築にもう一工夫を入れている。
「これ、構築する時に中を空洞にしているんだよ」
「……空洞? まさか、そんなことができるのか?」
「できてるから、見た目の大きさと完成した大きさに差が出てるんだよ」
「あれ? そういえば、さっきは指で摘める程度の大きさだったのに、今は掌に乗っかるくらいに大きくなってるな」
ジーっと見つめているカズチに苦笑しながら、僕はリンゴの置物を手に取って軽く爪で叩いてみる。
──カンカン。
「ほら、空洞になってるでしょ? 中が詰まっていたら、もっと低く重い音になるもん」
「……確かにそうだな。っていうか、なんでこれは透明なんだ? さっきは素材が透けてなんていなかっただろう」
「構築をする時に、できるだけ薄くなるようにイメージしていたからね。その分、見た目を大きくすることができたし、透明度も上がったんだよ」
「マ、マジかよ」
「だけどその分、強度は低くなっているから扱いには注意が必要だけどね」
落としたりしたらすぐに割れてしまうだろう。どこかに運んだりする時には要注意だ。
「……お前、まーた凄いことをやってくれたな」
「そうなの? 置物として錬成するなら、きっと誰かがやってそうなんだけどな」
「うーん……まあ、俺も見習いだし全てを知ってるわけじゃないもんな。でも、これは副棟梁に一度見せた方がいいと思うぞ」
見せるにしても、これは初めての作品だし部屋に飾りたいからなぁ。
「それじゃあ、別のものを作って持っていこうかな。どうせだし、カズチもやってみる?」
「おう、やるやる」
「……やる気満々じゃん」
「だって、めっちゃ綺麗だし」
「ピーキャキャー」
ガーレッドも気に入ったのか、カズチの膝に立って身を乗り出しながらリンゴの置物を見つめている。
そこからは二人して色々なクズ鉱石を錬成することになった。
元々が小さいので錬成をしてもそれほど疲れを感じず、調子に乗って三回連続でやろうとした時にはカズチに怒られてしまったが。
途中で休憩を挟みながら黙々と錬成を行い、他の色の鉱石でミカンやバナナやモモなども作ってみた。
一つだけ特別な形のものを作ったんだけど、それはカズチも錬成に集中していたので見ていない。ガーレッドも僕が作った果物の置物が気に入ったのか途中からはベッドの上でそれらを眺めている。
一方のカズチだが、最初は上手くいかずに何をイメージしたのか分からない仕上がりになっていたのだが、途中からコツを掴んだのか思い通りの形になっていた。
「……で、できた!」
「お疲れ様、カズチ」
「おう。それって、
「あ、あぁ。黄色の鉱石だからそれっぽくないかもしれないけどな」
カズチはそう言っているけど、槌に色なんて関係ないと思う。ちゃんと持ち手もあるし、叩く部分も綺麗な平面に錬成されている。
しかし、錬成師であるカズチが何故に槌の形で置物を作ったんだ?
「……これ、よかったら貰ってくれないか?」
「えっ! ……その、いいの?」
「あぁ。最初にも言ったけど、ジンの部屋って殺風景だろ? 本物の槌は鍛冶部屋にあるし、槌の形をした置物があってもいいと思ったんだ」
……な、なんて友達想いなんだよ、カズチは!
「あ、ありがとう! そ、それじゃあ、カズチもこの中から好きなものを貰ってね! 残りをソニンさんに見せるから!」
「そ、そうか? ……へへ、ありがとな」
そう言ってカズチはミカンの置物を選んでいた。
ソニンさんへ見せるのはカズチに任せて、僕は部屋でガーレッドと一緒にリンゴの置物を眺めている。
ただ、先ほどまでは他の置物もあったので少しだけ寂しそうだ。
「……ガーレッド、これも見てみる?」
「……ピキャー?」
微笑みながら僕が取り出したのは、赤い鉱石で作り出した特別な形――ガーレッドの置物だった。
額の角から、背中の出っ張り、そして愛らしい表情まで、できる限りの再現を施した僕の最高傑作。
「ピ……ピピ……ピーキャー!」
「ふふ、内緒で作ってみたんだけど、どうかな?」
「ピキャキャ! ピッキャーン!」
ガーレッドは両腕だけではなく、ベッドの上で跳び跳ねて全身で喜びをアピールしてくれている。
これなら作ったかいもあったというものだ。
僕とガーレッドはしばらく置物を眺めていたのだが、お腹が空いてきたので机の端に並べて部屋を出た。
──後日談だが、翌日にはカズチが同様の物をたくさん錬成しており、しばらくして雑貨屋に並んで人気商品になるのだった。
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