第51話:恋占いと大砲

ガルガン山にあるドワーフの秘密基地に着いてから三日目。


その時はついにやってきた。


僕たちはあれから、フレアドラゴンの襲撃に備えた準備をしていた。


そして、今まさにフレアドラゴンの咆哮ほうこうが、ガルガン山に大きく鳴り響いた。


「さあ、今日こそはあの火竜を食らってやろうぞ!!!!」


「ウオオオオオオッ!!!」


ドルさんの叫び声と共に、湧き上がるマッチョドワーフたちの野太い声。


マッチョたちが慌ただしく動き始める。


僕たちがこの三日間、寝る前も惜しんで立てた作戦と準備。


これから、まさにフレアドラゴン退治が始まろうとしていた。


そして僕は・・・


「シズクさん、もう一度言います!僕らはなぜドワーフ砲の中にいるのでしょうか!」


「シトよ。人生にはよくわからないことも多いものだ。私たちはこれで火竜の元までひとっ飛びだ。」


「なるほど!しかしドワーフ砲は無事に僕たちを飛ばせるのでしょうか?」


「うむ。アマゾネスの占いによると、今日の私は恋愛運が最高らしい。」


「そうですか・・・恋愛運が・・・。いい出会いがありそうですね、って関係ないじゃないですか!!!」


僕とシズクさんは、とある準備ができるまでの囮役おとりやく・・・言わばエサ役らしい。このドワーフ砲で、フレアドラゴンのところまで飛び、できる限り空中での動きを止めるという役割だ。


「まさか・・・大砲に入る時が来るとは・・・」


大砲の中で火薬の抜いた黒い玉の上に立つ。


正直、うまくいくとは思えない!!!!


「シト、シズク、健闘を祈る・・・”フロート”!」


ユラさんの風魔法の一つ。浮遊効果のある魔法が僕らの身体を包む。


「生きて帰ってきてね!"ダークシールド"」


ミナさんの防御力をアップする魔法が僕らを包む。


ミナさんは涙をぬぐう素ぶりを見せた。


僕の泣きそうな視線に気が付いたユラさんとミナさんは、二人揃ってキレイな敬礼をした。


「そうですか・・・・、行ってこいってことですよね・・・」


「来たぞーーー!!!!!」


野太い声と共に、僕とシズクさんが入っている大砲が動き出す!!


「うわっ!!!うわっ!!!」


隣の大砲ではシズクさんがキレイな敬礼を僕に向かってしている。


この人は・・・、本当に度胸があるのか?ただの天然なのかっ!?


ユラさん、ミナさんも準備に入っているようで、その姿はもういなくなっていた。


代わりに僕の視界に入ったのは、ドルさんを筆頭としたマッチョなドワーフ隊が、それぞれ大きな盾をもち、陣形を組んで大きな防御壁を形成していた。


「ドワーフ砲、準備完了!オールグリーン!!」


嫌な声が聞こえる!!!


「照準合わせーーー!!!!!」


「おうよっ!!!」


「フレアドラゴン捉えましたーーー!!!」


ついに行くのか・・・


「3・・・・2・・・・」


「やっぱりイヤーーーーー!!!!!」


「ドワーフ砲、発射!!!!!」


すごい衝撃が身体を襲った後、僕は空を舞っていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



目を開けると、見えたのは青い空。


二人して空中を舞いながら、シズクさんが空中をバタバタと泳いで僕の近くまでたどり着いた。


「さあ、私に抱きつくのだ、シト。」


「はいっ!!」


僕はシズクさんの身体をきつく抱きしめる。


「あんっ・・・、そんなに強くしたら・・・」


「すいません!!!って、そんな状況じゃないですって!」


「ゴホン!火竜、発見!」


見ると近くにフレアドラゴンの姿が見える。


シズクさんは、背中から1本のダガーを抜いた。


これは水属性の魔剣"雨音あまおと・改"。


ガジュラ戦でボロボロになった刀を、ドルさんが修復したのだ。


だいぶ長さが短くなってしまったが、その能力はだいぶ強化してあるらしい。


シズクさんは雨音を片手に持ち、大きく振りかぶる。


したたれ!雨音!!」


振りかぶった雨音から水でできた長い1本のムチが伸びる。


そのムチは、火属性のフレアドラゴンの翼に見事に巻きついた。


「ギャアアアアアアア!!!」


フレアドラゴンが泣き叫ぶ。


水のムチが巻きついた箇所から煙が上がる。フレアドラゴンは明らかに水のムチを嫌がっている。


「縮め!雨音!」


シズクさんの声と共に水のムチが短くなり、僕とシズクさんはフレアドラゴンの背中に無事にしがみつくことに成功した!


フレアドラゴンの背中に立ったシズクさんは、水のムチでフレアドラゴンをひたすら叩く!


「ほー!ほっ!ほっ!嬢王様とお呼び!!」


シズクさんは、フレアドラゴンの背中を水のムチでビシビシと叩く。


この人は、どんだけ天然なのか・・・


なんという緊張感のなさ・・・


フレアドラゴンは、僕たちを嫌がり空中で止まり、その場で暴れ始めた。


「シトもぶっ叩け!!!」


「はいっ!」


シズクさんの叫び声に答え、背中に背負った1本の大きなハンマーを構える。


火属性の魔剣、火凛かりんは刀身のダメージがひどく、かつ火属性のため、フレアドラゴンとの相性を考えて今回は装備していない。


その代わり、ドルさんが僕に与えてくれた武器・・・


うなれ!金剛こんごう!!!」


金剛と名のついたハンマーを両手に持ち、大きく振りかぶってフレアドラゴンの背中に叩きつける。


ズーーーーン!!!!


フレアドラゴンの身体が大きく振動する。


「ギャアアアアアアア!!」


金剛は、地属性で地震と同様、大きな振動を対象物に引き起こす。


僕とシズクさんを背中に乗せながら、空中で暴れるフレアドラゴン。


その時、準備が完了した事を知らせる合図の大砲が上がった。

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