第26話:胸のモチモチ!あるかもね!

(※ユラ視点)


暗闇の中を走っている・・・


どこまでも暗闇が続く中をひたすら走っている。


少し先に人影が見える。


ミナ!!シズク!!シト!!


「よかった・・・みんな生きていたのね!!!」


私はみんなの元に駆け寄る。


みんなの名前を叫ぶも、誰も気付いてくれない。


「シト!!!ミナ!!!シズク!!!」


いくら走ってもその距離は縮まらない。


みんなは私の方を振り向き、暗闇の方に歩いて行ってしまう・・・


「待って!!!みんな、行かないで!!!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


私は自分の叫び声で、バッと目を開いた。


「ハア、ハア、ハア、ハア」


・・・


・・・


夢・・・・


私は自分がどういう状況か理解できないでいる。


頭がボーとする。


だんだんと目の焦点が合ってくる。


視界には、古い木造の天井が見える。


「ここ・・・は・・・?」


その時、ドアの開く音がした。


重い頭を動かし、ドアの方を向く。


そこには真っ白の髪の毛と長いヒゲを蓄え、杖をついた老人が立っていた。


「ほっ、ほっ、ほっ、目を覚ましたようじゃな。」


「ここ・・・は・・・?」


老人は私の近くの椅子に座り、ふーと長いため息をつく。


「お前さんたち、全員死んでもおかしくない状態じゃったぞ。ワシが近くを通らなければ、今頃死んどったじゃろうな。」


老人は長いヒゲを摩りながら、私の様子を伺う。


「んで、身体の調子はどうじゃ?」


私は身体を起こそうとするが、激痛で断念する。


「くっ・・・・」


「ほい。ほい。無理はいかんぞい。まだ大人しく寝とりんさい。今、薬湯を入れてやるぞい。」


私は少しだけ起こした身体をぐったりとベッドに委ねた。


目を瞑り、ゆっくりと呼吸を整える・・・。


そうだ。シトの外見が変化して、ガジュラが消し飛んだ後、暴走するシトを抱きしめて・・・


私の記憶が段々と蘇ってくる。


シト・・・、生きてた・・・


ミナ・・・、シズクは・・・。


「そうだ!みんなは!!!」


私は勢いよく起きようとするが、身体中に激痛が走り、悶える。


「ぐっ!!!!」


「ほっ。ほっ。みんな無事じゃよ。今は大人しく寝とる。心配せんでもいいぞい。」


私と老人の目が合う。


この老人がみんなを介抱してくれたのだろうか・・・


「貴方がみんなの介護を・・・?」


老人が穏やかな表情で頷く。


・・・


・・・


「よかった・・・、本当によかった。」


自然と涙が頬を伝った。


老人がドアを閉める音がする。


「みんな・・・、よかった・・・」


私は声を出して泣きじゃくった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ミナ!!!シズク!!」


私はミナとシズクが寝ている部屋にいる。


私より1日遅れで意識を取り戻した2人は、上体を起こせるほど回復していた。


「ユラーーーーー!エグッ!エグッ!生きてて・・・生きててよかった!!!」


大粒の涙を流すミナと抱きしめ合う。


「ありがとう・・・ミナ。私が生きているのは2人のおかげよ。」


「シズクもよく生きて・・・」


「危なかった・・・昔死んでしまった狼のポチの顔が見えた・・・」


ミナと抱き合いながら、シズクと拳をぶつけ合う。


私たち3人は、薬湯を持ってきてくれた老人の話に耳を傾ける。


「儂は、この辺でのんびり暮らしておる、先の短い老人じゃよ。昔は結界魔法を少々かじっておっての・・・。この家は、まあ、この辺のモンスターたちに、気づかれることはあるまいて。」


老人は心落ち着く香りのするお茶をすすりながら話し続ける。


「砦の方で強大な魔力を感じての・・・。向かってみれば、どでかい戦争が起こった後のような荒れ果てた地と、瀕死のお主たちを見つけたんじゃ。」


「なんとかこの家に運び出して看病したわけじゃが、古い知り合いからの貰いもの"エルフの秘薬"がなければ、全員死んどったじゃろうて。」


「まあ、儂の事は、ムアじいとでも呼ぶがよい。」


ムア爺と名乗った老人は、長いひげを摩りながら、外の風景を眺める。


「シトは? ねえ、シトはどうしたの?」


ミナは、答えを急かすように私に話かける。


「大丈夫よ。まだ目を覚ましてないけど。」


ミナもシズクも胸をなで下ろしている。


「あの少年だけは、不思議と外傷が少なくての。お主たちよりはだいぶマシだったぞい。ただし、まだ目を覚まさないとなると・・・、何があったのやら・・・。」


老人は私をチラリと見た。


私は、あの戦いで見た出来事をミナ、シズク、ムア爺に話した。


ムア爺の表情が険しくなる。


「ガジュラと言ったか・・・、そうかガジュラか・・・、また騒がしい日々になりそうじゃ・・・」


老人は窓の外を見つめて呟いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ミナとシズクの部屋を出た私は、その足でシトの部屋に向かった。


シトの意識はまだ回復していない。


私はベッドの傍の椅子に座り、シトの顔を覗きこむ。


シトの寝息が聞こえる。


「少年・・・君のおかげで生き残れたぞ・・・」


「早くお礼を言わせてよ・・・」


シトの顔にかかっている前髪をそっと搔き上げてあげる。


「あの時、このアザがシトの右半身を覆って・・・」


シトの右顔のアザは、以前よりも広がっており、首筋を通り、右肩付近まで達している。


あの時のシトは一体????


「ベリエル・・・」


ガジュラの死に際に発した言葉が、私の頭をぎる。


私は首を大きく振る。


今はシトが目覚めてくれればそれでいい。


「ねえ・・・シト・・・、モチモチ待ってるかもしれないぞ・・・」


年甲斐もなくドキドキしながら、彼の額に優しくキスをする。


そして、私はゆっくりと部屋を出た。

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