僕のパーティは最強の人妻パートさんで成り立っている!

とんかつ

第1章:道具屋のパートさん

第1話:パート社員になってもいいよ。(※ヒロイン視点)

ここはローランド帝国の中心部。


ローランド城や冒険者組合、協会など、

帝国の中心となる施設が集合している。


そして中央の大広場には、ローランド帝国の象徴となる

女神像の噴水がある。


そこから広がるストリート。このストリートには、

武器屋、道具屋、飯屋など、様々な店が並んでいる。


この大広場は、冒険者組合の近場ということもあり、

待ち合わせの場所としてよく使われていた。


「今日もあの少年がいる。」


私がパートとして働く、ここ『サンダーさんの道具屋』からは、

冒険者たちが集まる噴水がよく見える。


その女神像の噴水の前。


一人の少年が、今日も首に看板をかけてたたずんでいる。


看板には、『パーティー仲間募集!』と書かれている。

私の視線に気づいたのか、道具屋の店長のサンダーさんが声をかけてくる。


「今日もいるわねー、あの子。よく続くわねー。」


筋肉ムキムキだが、心は乙女の店長に頷く。


「ユラちゃん、これ並べておいて。今朝入荷した解毒薬。」


「はーい!」


私は、ひ弱そうな少年を一瞥し、作業を始める。


見るからにひ弱で暗そうな少年に、誰も声をかけようとしない。


そしておそらく見た目もだろう。


以前、お昼休憩の時に、噴水の近くでランチを食べていた。


その時、彼が前を通り過ぎていき、少しだけ顔が見えた。


少年の顔の半分にやけどのような痣があった。


彼はきっとそれを気にして、前髪で隠している。


それがまた、余計暗そうに見えてしまう要因なのかもしれない。


解毒薬をひとしきり並べ終わる。


「ふー!」


座り仕事からやっと立ち上がった時、あの少年が視界にはいる。


大広場に集まる冒険者たちに、オドオドしながら声をかけているが相手にされない。


女性冒険者に関しては、逃げるように立ち去ってしまう。


屈強な冒険者にはうざがられて、突き飛ばされる始末だ。


少年は今日もあきらめない。


「そんなに冒険したいのかしら?」


独り言のように呟いた言葉に、サンダー店長が反応する。


「若いっていいわよねー。なんかこう真っ直ぐっていうか。私も昔はねー。」


昔話を始めるサンダーさんの背中に笑みを投げかける。


「ユラちゃん、お昼休憩どうぞ!」


「ありがとうございます!お先にいただきますね!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


大広場にあるベンチに座って、作ってきたハムと卵のサンドイッチを食べる。


ちょうど、道を隔てた前のベンチに、あの少年が座った。


そしてバッグから、パンを取り出して食べ始めた。


私はサンドイッチを食べながら、何気なく彼の行動を目で追っている。


すると、少年にやせ細った野良犬が近づき、物欲しそうに彼を見ている。


少年は野良犬に微笑み、自分のパンを半分あげてしまう。


残ったパンを一口で口に入れ、彼はまた歩いてどこかに行ってしまった。


「お昼、あれだけなのかしら・・・」


色々と考えているうちに、私もサンドイッチを食べ終わる。


「さあ、行きますか。」


冒険者の登録や、クエストの受注、報酬の受け取りなどができる冒険者組合。


その建物の中にある情報掲示板を見に行くのが私の日課である。


掲示板は、冒険者たちが収集した情報がまとめられているからだ。


「今日はあるかしら・・・。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あっという間に時間も経過し、夕日が眩しい時間帯になってきた。

サンダーさんは、腰を伸ばしながら夕日を見ている。


「さあ、今日の営業も終了!ユラちゃん、お疲れ様でした!」


「お疲れ様でした!閉店準備しますね。」


「よろしくね!私は市場によって帰るわ。ユラちゃんも適当にあがってね。」


「はーい!お疲れ様でした!」


「次は明後日かしら。またよろしく頼むわね!」


サンダーさんを見送ったあと、店の前に並べてある品物を片付け始める。


その時、女の子の鳴き声が聞こえて視線を送る。


見たところ、噴水の前で転んでしまったようだ。


そこにあの少年が近寄り、女の子を抱き起こしてあげる。


女の子の服の汚れを払い、ケガがないか確認しながらなだめているようだ。


そして、女の子の手を引き、こちらに向かって歩いてくる。


少年はオドオドしながら私に声をかけてきた。


「すっ、すいません・・・。あのっ、この子が食べれるもの、何かありますか?」


「ちょっと待ってくださいね。」


私は、冒険者たちの保存食として人気のハチミツアメを出してあげる。


「ハチミツ味のアメですけどどうですか?」


「あっ、ありがとうございます。おいくらですか?」


「50バーツになります」


少年はポケットから小銭を集めて、私に手渡す。


「ありがとうございます。」


少年にアメを手渡すと、少年はそのまま少女にアメを手渡す。


少女はヒクヒクと泣きながらもアメを舐め始めた。


その顔を、ニコニコしながらみる少年。


「メルちゃん!!!!!」


「マーマー!!!」


母親と思われる女性が女の子を抱きしめる。どうやらこの子の母親のようだ。

少女は少年を指差し、母親に話かける。


「このお兄ちゃんが助けてくれたの!」


「ありがとうございます!すいませんでした!」


深々と少年にお礼をする母親。


「さあ、行きましょう!」


「お兄ちゃん!ありがとー!」


母親は少女の手を握り、そそくさと立ち去って行った。


母親に手を握られて歩く少女が、振り向いて少年に手を振った。


手を振り返しながら、その少女を笑顔で見送る少年。


彼はその後もその場に立たずみ、この大陸の象徴とも言える大樹木を見つめている。


大樹木のそびえ立つ一帯には、大陸を南北に二分するほどの樹海が広がっている。


冒険者たちがこぞって攻略を目指す未開の地である。


"深淵の大樹海"・・・、冒険たちからはそう呼ばれていた。


私は彼の事が少し気になり、思い切って話しかけてみた。


「いつも仲間を探していますよね。そんなに冒険に行きたいんですか?」


「あっ、そのっ・・・あの・・・」


私から声をかけられ驚いたのか、少年は私の方をチラッとみて頬を赤くしている。


(この様子じゃ、仲間はしばらくできなそうだ・・・)


少しずつ言葉につまりながら、少年は話し始めた。


「ぼっ、僕は、あの樹海に捨てられていたそうです。なので、あの樹海にいけば、きっと何かがあるような気がして・・・」


少年は口をつぐみ、何かを考えている。


「いや、それは二の次です・・・。」


「仲間が・・・。ほんとに心から信頼できる仲間が欲しいんです。」


「みんなで冒険に出て、ワイワイ騒ぎながら毎日を過ごす・・・」


「そんな家族みたいな仲間と生きていきたいんです。」


私は少し驚いてしまった。


あの人・・・、私の夫もそうだった。

あの人の口癖を思い出す。


「俺は正直稼ぎなんか、どうでもいいんだよ。」


「信頼できるこいつらと一緒に稼げて、みんなが笑っていられたらな。」


あの人も困っている人をみると、ほっておけなかったっけ・・・。


この子、見た目は全く違うけど、なんかどこか似ているかも。


相変わらず、オドオドしている少年を見つめる。


私の口元が緩む。


「君の名前は?」


「シ、、シト・・・です。」


「私は、ユラ。ユラ・ハーン。この道具屋のパートがない日で、時給を払ってくれるなら、付き合ってあげてもいいわよ。」


「え・・・、いいって冒険にですか?僕と・・・?」


「うん。これでも昔は冒険者だったのよ。」


「ええええええええーーー!いいんですか?本当に!?」


「そ・の・か・わ・り、きっちり時給はもらうわよ!」


「はい!いいです!いいです!お支払いします!!」


「そう言えば、君は冒険者組合のクエストを受けたことがあるの?」


「はい!ないです!」


(・・・・、これは手間がかかりそうだ。)


でも、少しだけ心が弾んでいる自分がいる。


久しぶりのパーティーだからかな・・・


あの人に似てるから?


「さあ、早速お金の話をしましょう!大事な話よ。」


「はい!!!」


そこからシビアな労働条件の交渉が始まったのは言うまでもない。

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