第261話 不運ではない
結果として、パメラは選択を誤った。
既に相手は死に体だ。後は急がず焦らず確実に潰せば良い。しぶとく生き残っているアキラを見ながらそう思う。立ち上がった仲間には重傷で済んでいる者もいた。勝ちが決まっているのなら、無駄な損害は避けなければならない。そう判断して重傷者を治療の
同時にアキラの様子に疑問を覚える。
アキラはこの状況でも戦意を
ならば何がその戦意を支えているのかと考えて、何らかの時間稼ぎを疑う。だが相手の戦い方から誰かの援護を期待するような気配は感じられない。それどころか、狂気を
自分が到着した時に味方が倒されていた時点で予想外の事態だった。そこから生まれる強い警戒が、パメラにアキラにはまだ何か起死回生の策があるのではないかと疑わせた。勝負を急ぎ、手っ取り早く勝とうとした瞬間、その何かを
結果として、パメラは時間を掛けてアキラを殺そうとした。それは十分な時間、ほんの数分の猶予さえあれば確実な勝利をパメラに与えていた。
死体達がアキラに襲いかかる。頭部を含めて多々欠損した身体で銃を構えて発砲し、両脚と片腕と脊椎ぐらいしかない体で刀を振り回す。
生前も自身の死を許容する動きを見せていたとはいえ、あくまでも部隊の勝利前提での捨て駒であり、死なずに済むならそちらの方が良いという感覚は残していた。生還を完全に捨てた動きではなかった。
しかし今はパメラの操作により完全に後先考えない消耗前提の動きをしている。その動きの差は大きく、身体の欠損による戦闘能力の低下をかなり補っていた。
アキラはそれらの死体達を相手に健闘していた。LEO複合銃を振り回して周囲の敵を銃撃し、敵の四肢を吹き飛ばしながら相手の猛攻を
戦意は
乱戦の中、パメラが攻防の隙間を縫うようにアキラを狙撃する。それを
エネルギーの低下の
着弾の衝撃でアキラが吹き飛ばされる。勢い良く投げ飛ばされた人形のように水平に飛んでいた。そして地面に何度か激突して跳ねた後、戦闘の余波で木っ端
アキラはそれでも生きていた。銃弾を避けきれないと悟った時に、次の行動と強化服の残りのエネルギーを防御に振り切ったのが
パメラが
「
パメラの仲間達も銃口をアキラに向ける。後は一斉射撃で終わる。撃てば、アキラの姿は原形も残らない。
「では、おやすみなさい」
そう言ったパメラが引き金を引こうとした瞬間、照準器越しの視界が
その光にアキラもパメラ達も飲み込まれた。だがパメラ達は反射的に
そしてアキラは近くの
バイクがAF対物砲を撃ちながらアキラに向けて全速力で走る。パメラが先程の攻撃は自分達への
その瞬間、アキラは最後の力を振り絞ってバイクにしがみついた。同時にその場からバイクがそのまま全速力で離脱しようとする。
パメラ達も即座にアキラへの攻撃を再開しながらその後を追おうとする。パメラ達の強化服の性能ならば、アキラを乗せる
だがバイクはその性能を
光線で
だがパメラ達は無事だ。死亡している者達を素早く前衛に配置し、彼らに
それでもパメラの表情が非常に強く険しく
「……逃げられた! なんてこと!」
失態への激情に駆られそうになっている自分を、パメラは自身の忠義で何とか抑えきる。そして状況をクロエ達に伝える
パメラは相手を過度に警戒した
アキラは絶望的な戦力差にも
決意や覚悟だけでは戦況は覆せない。だがそこから生まれたものは、本来覆るはずのない結果を覆した。
空中を疾走するバイクにアキラは何とかしがみついていた。いまにも消えかけそうな意識の中で、バイクから出るアルファの声を聞く。
「アキラ! 絶対に落ちないで! 拾いに戻る余裕は無いわ!」
『……アルファ? ……なんで、そっちで話すんだ?』
「死にかけているのでしょうけれど、死ぬ気で
『……アルファ? 分かったけど……、いや、待ってくれ、そういえばさっきから姿が……』
「まずはとにかく離れるわ! 絶対に落ちては駄目よ!」
会話が成立していない。そのことに気付いたアキラが
(念話が届いていない? いや、これは……)
戦闘から脱したことと、アルファの声を聞いたことで激情がある程度収まったアキラが、アルファとの接続が切れていることに
「……分かった。でも強化服のエネルギーが切れてるんだ」
「バイクに乗っていればバイクのエネルギータンクからワイヤレスで供給されるように改造しているでしょう! 最低限の動力にはなるわ! 今はアキラとの接続が切れているから強化服を操作できないの! だから絶対気絶しては駄目よ!」
「……了解……だ」
アキラは気を抜けばそのまま気を失ってしまいそうな意識を何とか保って体勢を立て直した。既に強化服には日常生活補助モードであれば動く程度のエネルギーが補給されており、自力では指一本動かせない体でも何とか動かせた。
バイクがそのまま宙を疾走する。そして遺跡から少し離れた辺りでアキラの視界にアルファの姿が戻ってきた。
『よし。
「……頼んだ」
アキラは僅かな
その直後、アキラの体が気を失ったまま動き出す。
バイクから回復薬を取り出して大量に服用し、
そしてある程度治った辺りで今度は強化服のエネルギーパックをバイクから取り出して交換する。銃の弾倉もしっかり取り替えた。
緊急時に限ってではあるが、アルファはアキラの体を動かせるようになっている。死にかけの状態は、十分に緊急時だった。
荒野の半分崩れた廃屋でアキラが目を覚ます。既に治療の済んだ体で素早く警戒態勢を取りながら反射的に周囲を確認すると、かなり不機嫌そうな様子のアルファと目が合った。
『アキラ。おはよう』
『……ア、アルファ。おはよう』
アキラはアルファの様子にたじろぎながら、気を失う前のことを思い出した。取り
『体調は問題ないようね。それなら、まずはお互いに状況の整理をしましょうか』
『わ、分かった』
アキラは気絶であっても一度しっかり休んだことで意識の切り替えを済ませていた。それにより既に激情は治まっており、アルファに少し
まずはアルファが説明する。
アキラとの接続が切れたのは、クロエが交渉中に笑いだした直後だった。当然すぐに再接続を試みた。だが失敗した。何らかの通信障害により旧領域経由での接続は完全に不可能となっていた。
すぐさまありとあらゆる
バイクも銃弾を浴びていたが、自動起動した
それらの説明を聞いたアキラが納得したように軽く
『そうだったのか。助かった。でも何でアルファとの接続が切れたんだ?』
『分からないわ。いろいろ推測は出来るけれどね』
推測でも一応聞きたいというアキラに、アルファがあくまでも推測と前置きして話していく。
まずはクロエ達の仕業という推測。交渉内容を他者に知らせない
死人に口無し。アキラを殺して情報収集機器も破壊すれば、交渉内容の詳細も、カードの権利を強奪しようとした記録も消える。後は生き残った者達に、突然アキラが攻撃してきたので仕方無く応戦したとでも言わせれば良い。企業を相手に調子に乗って武力を振り回したハンターのありふれた末路が出来上がる。その
『そういうことか。でも旧領域経由の通信って、そういう通信妨害機器じゃ妨害できないんじゃなかったっけ?』
『通常の通信に比べて影響を受けにくいだけであって、対応する機器を使用すれば妨害は可能よ。高ランクハンター向けの通信機器には旧領域対応の製品もあるから、それを見越して強力な通信妨害機器を用意したのかもしれないわ。
その後、アキラが戦闘中に大分離れた場所まで移動しても通信障害が続いていたのは、アキラ達の戦闘を感知した遺跡が敵の行動を阻害する
『何で前に人型兵器が飛び交った時には通信を遮断しなかったのに、今回は処置を実施したのか。単に前回の被害を踏まえて警戒を上げていた
アキラもアルファの説明だけで完全に納得した訳ではなかった。だがアルファにも分からないことが自分に分かる訳がないと考え直すと、その辺の疑問は棚上げした。
『……まあ、正確な理由が分かったところで俺に対処できるものじゃなさそうだし、そこは運が悪かったってことにしておくか』
『そんなことはないわ』
『えっ?』
不思議そうな顔を浮かべたアキラに、アルファの鋭い視線が再び突き刺さる。
『不運で片付けられると困るの。私の状況の説明は終わったわ。次はアキラの状況を教えて。私との接続が切れた後、何があったの? 話して』
『いや、えっと……』
逆上して交渉をぶち壊しました、とは素直に言えず、アキラは説明に困ってしまった。するとアルファが少しきつい口調で続ける。
『言っておくけれど、アキラの情報収集機器のデータを確認したから変にごまかそうとしても無駄だからね』
『それなら説明は無しで良いじゃないか……』
『駄目。データから分かるのはアキラが何をしたかであって、なぜそうしたのかは分からないわ。ちゃんと説明して』
厳しい視線で追及してくるアルファを見て、アキラは仕方無くその時の心情を交えて話し始めた。
話を聞き終わったアルファが大きく
『アキラ。何が一番の失態だったかちゃんと分かっている?』
意地を張らずにカードを渡すと答えていれば戦闘を回避できた。それはアキラも分かっている。だが意地を張ったのが誤りだとは、たとえその
ただそれでも、もう少しでアルファの依頼を達成できそうな状況なのにも
それらの葛藤がアキラを黙らせていた。するとアルファが再び大きく
『分かっていないようだから言っておくわね』
聞きたくない。意地を張ったのは誤りだ、とは言われたくない。その思いがアキラの顔を険しく変えていく。かつての自分が胸中で叫ぶままに、暗く黒いものが顔と雰囲気に
アルファが真面目な顔で続ける。
『アキラは私との接続を回復させることに全力を尽くすべきだったわ。激情に駆られて私との接続が切れていたことにすら気付かなかったなんて、それは
交渉を蹴ったことを
『クズスハラ街遺跡の時はすぐに気付いて、私との接続を回復させようと必死に動いたのでしょう? 今回もそうしてくれると思っていたけれど、まさか接続が切れたことにも気付かずに一人で戦うなんてね。冷静さを欠いていたとはいえ、
アキラが慌てて首を横に振る。
『えっ? いやいやいや、そんなことは思ってないって』
そのアキラの様子を見て、アルファは少し機嫌を戻した。
『そうでしょう? だから、アキラは私との接続を真っ先に回復させるべきだったの。分かった?』
『わ、分かった』
アキラはしっかりと
『アキラがあのクロエって子を殺したいのなら、それはそれで構わないし、私もサポートするけれど、一人で何とかしようとする
『あ、ああ』
『
アルファは再び満足げに笑った。すると少し困惑気味だったアキラが、事態を把握するような沈黙を僅かに挟んでから、どこかおずおずと尋ねる。
『……アルファ。その、良いのか?』
クズスハラ街遺跡でエレナ達を助けた時も、巡回のトラックから降りて一人でバイクで救援に向かった時も、アルナを殺しにエゾントファミリーの拠点に乗り込んだ時も、アルファはそれを止めていた。
だから今回も止めるだろう。余計な騒ぎを引き起こした自分を非難するだろう。しかももう少しでアルファの依頼を進められそうな状況なのだ。より強く
戸惑いを見せているアキラに、アルファが苦笑を返す。
『良いのか駄目なのかと聞かれたら駄目って言いたいところだけど、アキラはその辺の融通が全く利かない人だってことは今までの付き合いで十分に分かっているからね。だから、良いってことにしておくわ。それに私のサポートは依頼の報酬の前渡しでもあるからね。あんなに弱かったアキラがここまで強くなったご褒美ってことで、ここは協力してあげるわ』
アキラはアルファのそのどこか軽い態度に驚いたような様子を見せていた。だがその後に余裕を取り戻したように軽く笑う。
『……そうか。じゃあ、悪いけどサポートを頼む』
『任せなさい。私のサポートの有り難さをたっぷり見せ付けてあげるわ』
アルファはいつものように自信たっぷりに笑っていた。
休息を終えたアキラは戦闘中に手放した銃を取りに一度ミハゾノ街遺跡へ戻った。既に通信妨害は解除されており、アルファのサポートもあって銃そのものはすぐに見付かった。
アキラが戦闘前に身に付けていたLEO複合銃は4
2
無事だったのは敵の攻撃を避けた時に手放した銃の片方で、もう片方は流れ弾を食らって破損していた。こちらの方は修理が可能なのでバイクに
破壊された銃の残骸を見て、アキラが大きな
『……高かったのに』
『ちゃんと私との接続回復を優先させていればこんなことにはならなかったのよ? 高く付いたわね』
『分かってるよ』
アルファの
『それで次はどうするつもり? 逃げたクロエを探すにしても、荒野を闇雲に探すなんて
『それも分かってるよ。どうしようか……』
クロエを見付け出して殺す
手段を模索して
『よし。取り
アキラはバイクに飛び乗ってその人物の下に早速向かうことにした。周囲を索敵し続けている情報収集機器は、ハンターオフィスの出張所から出てきたキャロル達の姿を捉えていた。
キャロル達が辺りの光景を見て顔を
外での戦闘が収まった後、出張所内にいたハンター達は緊急依頼の一環として安全確認の
キャロルが表情を心配そうに険しくする。外で待っていたはずのアキラとは通信が回復した後も連絡が取れない。外の騒ぎに巻き込まれたのか、
「ヴィオラ。仕事を頼むわ。アキラの状況を探って」
「了解よ。……まあ、生きてはいるようね」
調べもせずにどうして分かると、キャロルが
そのまま
「アキラ。無事だったのね」
「ああ。何とかな」
自分の無事を笑顔で喜んでくれるキャロルを見て、アキラが少し言い
「キャロル。悪いけど護衛は終わりだ。ちょっといろいろあって、別の用事が出来たんだ」
「ちょっと? 何があったの?」
「悪い。その話も後にしてくれ。俺も事情をちゃんと分かってる訳じゃないんだ」
アキラはそれだけ言って視線をヴィオラに向けた。そして何をどうやって聞こうか少し迷った様子を見せた後に、ヴィオラに真剣で不機嫌な顔と一緒に銃口を向ける。
「端的に聞く。お前の仕業か?」
ヴィオラがいつもの笑顔を装って答えようとする。
「急にそんなことを言われても、言ってる意味が……」
だがアキラは銃口を相手の眼前に突き付けて余計な話を黙らせた。
「言っておく。今、俺は、物
次に明確な回答を返さなければ殺される。肯定の返事でも殺される。このまま黙っていても殺される。そこに
アキラも視線をババロドに向ける。二人の視線を受けたババロドは、両者に対して黙って首を横に振った。
アキラが視線をヴィオラに戻す。その視線で時間切れを悟ったヴィオラは、頭の中で回答を綿密な根拠を交えて一瞬で論理立てると、それを一言で
「違うわ」
アキラが銃をヴィオラに向けたままアルファに真偽を尋ねる。
『アルファ』
『事実かどうかは別にして、
『事実なのに
『事象に対して誰にどの程度の責任があるのか。その辺りの判断は個人の思想や解釈で大きく異なるわ。だから正解は無いのよ。少なくとも、自分の
『ああ、成る程。そういうことか』
アキラは少し迷ったが、銃を下ろした。ヴィオラが大きく息を吐く。
「お前の
ヴィオラが普段の調子を何とか表向きだけでも取り戻すように
「仕事の依頼ってことね。探すのは構わないけど、それが何かの交渉事なら、交渉人も一緒に請け負っても良いわよ? 彼女を探してどうするの?」
「殺す」
その端的な短い言葉には、アキラの内心が強く
「それで、頼めば見付かるのか?」
ヴィオラが意識的に気を取り直して普段の調子を取り戻そうとする。
「彼女のことなら私も知ってるわ。東部でも有数の大企業であるリオンズテイル社の創立者一族の人間よ。それを分かって言ってるの?」
「それは、クロエを探すのは嫌だ、という意味か?」
アキラのヴィオラを見る視線が変わっていく。敵か、敵ではないか、でしか人を見られない目が、ヴィオラを敵と
「そういう地位の人を殺す
単純に金の問題だと説明されたアキラは、それで納得してヴィオラに向けていた視線を普段のものに戻した。そして軽く頭を抱える。
「た、高いな……。でもまあ、確かに、それぐらい掛かっても不思議はないか……」
パメラ達のような強力な護衛が付いている者を襲う
一方ヴィオラは内心で危なかったと
だからこそ慌てて金の問題にすり替えたのだ。料金の妥当性と支払いへの態度であればアキラも敵意は示さないだろう。その推察の正しさがヴィオラを救っていた。
しかし完全に救われたかどうかは決まっていなかった。アキラが良いことを思い付いたというように提案する。
「それならこうしよう。クロエの情報を渡してくれたら、その分だけ、お前を生かしておいて良かったと思うことにする。そしてこれにどの程度の価値があるか分からないから、その価値の分だけ情報を渡してくれれば良い。これでどうだ?」
ちょっとした取引のような感覚で話したアキラの様子とは対照的に、ヴィオラは表情をかなり引き
ヴィオラはクガマヤマ都市のスラム街の抗争騒ぎの時に、アキラに不利益を与えたことで殺されかけた。そして交渉により、シェリルへの協力と引き換えに生かされることになった。
その取引通りに、ヴィオラはシェリルの徒党をその手腕で飛躍的に成長させた。加えて徒党内での地位を固めることで、自身を徒党の運営に欠かせない人物にした。それらの事実に加えて、あれから時間も
しかしアキラはそれをあっさり持ち出してきた。シェリルの徒党をあれだけ発展させても足りないのかと、ヴィオラは内心で冷や汗をかきながら一応確認を取る。
「……それ、駄目って言ったら、殺すってこと?」
「いや、そんなことはない。金の代わりになるかなって思って提案しただけだ。嫌なら良いよ。無理強いはしない」
「そ、そう」
平然と答えたアキラの様子に、ヴィオラはそこまでは予想通りだったと半分
「その件を取引に持ち出すってことは、アキラは何かあればまだ私を殺す気だったってことよね? それ、どの程度の感覚で、なの?」
「どの程度って言われてもな。まあ、何かあればだよ。具体的にどの程度って決めてた訳じゃない。殺したくなるぐらいの何かだ。あとは、具体的にってことなら、シェリルに頼まれたら殺そうとは思ってたな」
「そ、そう。一応言っておくと、私はシェリルの徒党の運営にも強く関わっているから、私が死ぬとあの徒党は瓦解すると思うんだけど」
「だから?」
ヴィオラの笑顔が緊張で
だがアキラは単純な疑問として尋ねていた。それは、その話がヴィオラを殺さないことと何の関係があるのか全く分からないということであり、自身を殺せない理由には
そしてアキラは断っても殺さないとは言ったが、それは断ったことを理由に殺さないだけだ。自分が本当に断った時点で、アキラは生かしておく価値は無かったと判断し、この場でそのまま殺すだろう。ヴィオラはそう推測していた。恐らくアキラ本人にその自覚は無いことも含めて、自身の推測は正しいと判断していた。
ヴィオラは仕方無く、アキラの無自覚な脅しに妥協した。
「……クロエの居場所を突き止めれば良いのね? それで前の件は相殺ってことで良いのね?」
「その辺は情報次第だ。役に立った分だけ相殺するよ。情報の価値ってのはそういうものなんだろう?」
アキラとしては、金も払わずに手に入れた情報の精度など高が知れているだろうから相殺もその程度の分しかしない、という程度の意味だった。
だがヴィオラにとっては、役に立たない情報を渡せば殺すという脅しも同然だった。
「ヒガラカ住宅街遺跡だった場所にリオンズテイル社の施設があるわ。そこにいる可能性が最も高いはずよ」
「分かった。じゃあ、俺は急ぐからこれで」
バイクに股がったアキラに、ヴィオラが不満げな顔で尋ねる。
「一応聞くけど、今の情報の相殺分はどの程度?」
「そこにクロエがいることを期待してくれ」
現時点では
そこでキャロルが慌てて口を挟む。
「ちょっとアキラ待って! もう行くの!? 何も説明しないで護衛も終わりなんて、
「クロエってやつに襲われたから今から殺しにいく。護衛を止めるのはそっちを優先したいのと、護衛を続けるとキャロルも巻き込まれるからだ。俺の事情で巻き込まれたら護衛の意味が無いだろう?」
「だから何で急にそんなことになってるのよ!?」
「悪い。俺も詳しい事情は知らないんだ。気になるならヴィオラにその調査でも依頼してくれ。俺はどうでも良い。その辺のことはクロエを殺してから、気が向いたら調べるよ。じゃあな」
アキラはそれだけ言い残してバイクで駆けていった。
キャロルが非常に険しい顔をヴィオラに向ける。
「ヴィオラ。アキラの状況を探る依頼だけど、至急でお願い」
ヴィオラは何とか普段の調子を取り戻そうと、
「特急料金、
そのヴィオラの様子を見て、キャロルも普段の余裕を
「その辺を負けてくれたら、私もヴィオラに死なれたら困るってアキラに言ってあげるわ」
「仕方無いわね。了解よ」
ババロドは楽しげに悪女の笑みを向け合うキャロル達を見ながら、恐らくその騒ぎに巻き込まれるであろう自身の境遇を嘆いた。
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