第220話 ビル内の攻防

 ビル内に逃げ込んだアキラは、取りえず装備の状態を整え始めた。小型のリュックサックから弾薬やエネルギーパックを取り出して、銃、強化服、防護コートに装填し直していく。


 続けて弾倉の装填を始めると、ザルモの機体を至近距離で銃撃するのに使ったSSB複合銃は銃撃時の負荷で駄目になっていた。壊れた銃身を見ながら思わずめ息を吐く。捨てようかとも思ったが、身に付けているだけでも脅しにはなるだろうと考え直して一応装着する。


 小型のリュックサックの中身を見る。予備の弾薬などは残り僅かだった。大型車両に山ほど積み込み、大分積み過ぎたと思っていたのがうそのようで、軽く苦笑いをにじませる。


「いよいよ追い詰められてきたな。どうするか……」


 視線をビルの外に向け、先ほどまで戦っていたザルモの様子を推察する。


(……砲撃音はしない。大きな振動もない。取りえず、今のところはこのビルを倒壊させるつもりはないってことか。撤退したか? 倒せはしなかったが、結構危ないところまで追い込んだはず。一度退いても不思議はない。あるいは俺が出てくるのを外でじっと待っているのか? もう俺の移動手段は徒歩しかないんだ。見付けさえすれば、後は遠距離から砲撃するだけで俺を殺せる。今はビルの周囲を飛んで、人型兵器の強力な索敵機器で俺を探しているのか?)


 アキラは悩んだ末に籠城に近い選択を選んだ。自力で仮設基地まで戻るのはもう無理だ。仮設基地に到着したエレナ達が現状を伝えていれば、都市側が増援を出すかもしれない。ならばそれまで持ちこたえれば良い。時間経過でアルファとの接続も回復するかもしれない。アキラはそれらがかなりの希望的観測だと分かった上で、生き残るために自力での帰還を一度捨てた。


 そして上手うまく隠れられそうな狭い部屋を探し出すと、そこで仮眠を取ろうとする。自殺手前の暴挙だと理解した上で目を閉じる。絶対に熟睡しないように、疲労軽減のための浅い眠りだと言い聞かせて、回復薬の量を調整した上で意識を緩めていく。脳も体も酷使し過ぎた。少しでも寝て休まなければもう持たない。気絶ではそのまま目覚めない。目覚めを意識して眠りに就かなければならない。


(スラム街の路地裏での睡眠はいつも命賭けだった。でも死ななかった。運だけじゃない。何かあれば目を覚ましていたからだ。だから生き残った。あの頃を思い出せ……。俺なら……出来る……)


 ちゃんと目が覚めますように、とは祈らずに、アキラは自身の過去に賭けて眠りに就いた。




 真っ白な世界でアルファが顔をしかめている。


「駄目ね。つながらない。そっちは?」


 別のアルファも首を横に振る。


「駄目だ。可能な限りの迂回うかい路を試してみたが無理だった。こちらはそちらと異なりローカルネットワークが構築されている。その一部でも該当区域の外に出ていれば、そこから短距離通信で通信遮断域を迂回うかいして介入できるかとも思ったのだが、流石さすがにクガマヤマ都市から該当区域へは遠いのだろう。あるいはそちらも塞がれているのかもしれないな」


「やってくれるわね」


 アルファが更に苛立いらだちを高めた。別のアルファは不満げではあるが、そこまでではない。


「そちらの生還の見込みは?」


「低いわ。該当区域の情報を大して得られないから精度の荒い推測でしかないけれど、私のサポート無しで生還する確率は、現実的な数値ではないわ。そっちは?」


「こちらは部隊として行動している。即時に撤退を選択し、撤退戦で下位要素の消耗を惜しまなければ、十分な確率が見込める。しかし戦力の大幅な低下は避けられない。この後に司令室に向かわせるのは無理だ。個体自体の損傷具合も考慮すると計画を大幅に見直す必要が出る」


「私のように一からり直すよりはましでしょう。こっちは次の個体の発見からり直しよ? 全く、通信領域の専有も順調だったのに、台無しだわ」


 別のアルファが少し意外そうな顔を浮かべる。


「それは個体への執着か?」


「順調に進みそうだった試行を、取るに足らないことで台無しにされた反応として、そんなに不自然だった?」


 アルファは直接的な返事を返さなかった。別のアルファもそれに気付いたが、それ以上の関心は示さなかった。


「あの程度の区画の管理人格が、規約の隙間をくぐる技術にあそこまでけていたのは予想外だった。無人の街を眺めていれば満足する程度の人格だと判断して、軽んじていたのは誤りだった。次の試行では、この懸念事項を考慮に入れて進めるとしよう」


「……そうね。今は、別ルートでの通信回復手段の模索を続けましょうか」


「そうだな」


 アルファ達は試行と個体への扱いの微妙な差異を見せながら、その後もそれぞれの個体への通信回復を試みていた。




 アキラは飛び起きるように目を覚ますと、反射的に周囲に銃を向けた。そして敵影が無いことに安堵あんどする。


「……よし、生きてるな」


 心身の休息のために緊張を切る。しかし不意打ちを受けないための最低限の緊張は残す。スラム街でアキラを生き残らせたその緊張の絶妙な配分は、過酷な生活で瀕死ひんしの状態が続いていたような体を維持するのにも役立っていた。そのおかげで、高価な回復薬の効用も含めて、短い睡眠時間でも驚くほど回復していた。脳の負担も大分楽になっていた。少なくともザルモの機体に取り付いた分の無茶むちゃは取り戻せた。


 アキラも流石さすがに二度寝する度胸はない。加えて目覚めた理由があるはずだとも考える。感度を最大まで上げた情報収集機器の反応を、強化服を介して全身で感じて意識を集中する。そしてその膨大なノイズのような感覚から何らかの気配を捉えると、険しい表情で視線を下に向けた。


「戦ってる? 結構多いな。別のハンター達もここに逃げ込んできて、中にいたモンスターと戦ってるのか?」


 アキラが更に顔をゆがめる。


「こっちに来てる! クソッ!」


 敵ではないのかもしれない。だが味方とは思えない。アキラは迷わずそう判断すると、警戒を高めて反応と距離を取ろうと、出来るだけ逃げやすく戦いやすい場所を探しながら移動し続ける。だがその間もアキラの顔はますます険しくなっていく。


(偶然じゃない! 間違いなく俺を目指してる!)


 このまま逃げ続けても上階に追い詰められるだけ。屋上に出たとしてもザルモに襲われるかもしれない。それならばと、アキラは足を止めて迎撃の態勢を取った。


 近くの部屋の出入口付近に陣取り、通路の奥に銃を向け、そのまま一番近い反応の接近に備える。一応相手が敵ではなく、多数のモンスターから逃げてきたハンターが仲間を求めている可能性を考慮して、射程に入った瞬間に弾幕をぶつけるのは止めておく。その分だけ慎重に、反射的に回避行動を取れる体勢を維持する。


 ある意味でいつも通り、敵ではないのかもしれないというアキラの期待は裏切られ、その備えが役立った。敵の攻撃の気配を察したアキラが反射的に部屋内に飛び込む。一瞬遅れて通路の奥から砲弾が撃ち出され、着弾と同時に室内など全く考慮に入れない爆発を起こした。周囲の壁が派手に吹き飛ばされ、爆風が通路を駆け巡る。


「だろうな!」


 アキラは愚痴をこぼしながら、壁を破壊されて大幅に拡張された出入口に向けて銃を構えた。


 爆煙が漂う通路からティオルが飛び出てくる。そして片腕でユミナをつかんだまま、部屋の別の出入口を目指して駆けだした。


 今度はアキラも躊躇ちゅうちょしない。SSB複合銃をティオルに向けて、対力場装甲アンチフォースフィールドアーマー弾を連射する。ティオルの移動先を潰すように広範囲に弾幕でぎ払った。


 外れた無数の弾丸が壁に着弾する。壁を削るどころか、その弾量で壁を砕き大穴を開けていく。ティオルがその弾幕の密度の中を、回避よりも突破を優先して強引に突き進んでいく。数秒にも満たない間に大量の弾丸を浴びながら弾幕を突破し、部屋の別の出入口から脱出していった。


 アキラが驚きで僅かに硬直する。


(ちょっと待て! 今ので倒せないのか!? 何だその頑丈さは! 強力な力場装甲フォースフィールドアーマーだったとしても、人型兵器並みに出力を上げないと無理だろう!?)


 浮かんだ疑問は部分的にだが既にその答えそのものだった。移動途中に人型兵器の残骸を見付けたティオルは、それをって機能の一部を取り入れていた。人型兵器並みの防御を常時維持するのは不可能だが、短時間ならば比肩する防御を実現できるようになっていた。


(しかも連れていたやつを、自分が代わりに被弾してでも態々わざわざかばっていた。そこまでして、何のために?)


 推測を進める前に、疑問の答えが現れる。ティオルを追ってきたカツヤの仲間達だ。


 分隊として動いていた少女達は機敏な動きで部屋の前に来ると、大穴の開いた壁の向こうから室内に向けて銃を構え、即座に発砲する。アキラも反射的にSSB複合銃を相手に向けて応戦する。


 見事な連携を見せた少女達。超人的な反応を見せたアキラ。銃弾飛び交う一瞬の攻防。その動きまではほぼ互角だ。だが両者が受けた被害は著しく偏った。


 その勝敗を決定付けた一番の理由は装備だ。カツヤの部隊は装備の資金調達面でもアキラを大幅に超えている。だがそれでも部隊の人数で割れば1人当たりの予算は大幅に低下する。大量調達による値引きを考慮しても、装備の性能には限界が出る。


 カツヤは部隊長として、ユミナとアイリは副隊長として、それぞれ立場や戦闘時の役割に応じた高性能な装備を支給されているので、個人でも相応に戦える。だが他の部隊員は部隊運用を前提とした平均的な装備だ。10億オーラムを超える資金を自分のためだけにぎ込めるアキラとは、装備の性能に明確な差が存在していた。


 アキラは軽微な被害で済んだ。反撃と同時に強化服の身体能力で素早く回避行動を取ったおかげで敵の射線から逃れていた。それでも少々被弾したものの、防護コートの力場装甲フォースフィールドアーマーで防ぎ、エネルギーを多めに消費した程度で済んだ。


 だが少女達は全員無残な姿と成り果てて即死した。人型兵器ですら被弾を嫌がる対力場装甲アンチフォースフィールドアーマー弾で構成された弾幕は、少女達の装備の力場装甲フォースフィールドアーマー容易たやすく突破し、旧世界製の建物の頑丈な壁を粉砕する威力をもって、壁よりもろい生身を相応に粉砕した。頭が吹き飛び、四肢が胴体ごと千切れ飛び、宙に四散した手足が被弾して更に細かくなって飛び散った。その肉片と一緒にき散らされた血が周囲を一瞬で赤く染め、破壊された装備の破片が持ち主の血の池に転がった。


 アキラが思わず顔をゆがめる。


(クソッ! り過ぎた! 無駄弾をたっぷり使っちまった! もう残り少ないってのに!)


 自身で作り出した凄惨な光景になど気にもめずに、残弾が尽きて刀で戦う羽目になる状況へ無駄に近付けた失態に内心で愚痴を吐いて自身を戒めた。そして血まみれにした通路の奥からも、別の方向からも、多数の増援が接近していることに気付くと、ティオルがユミナをかばっていた理由を理解して、ティオルを追って走り出す。


(殺してしまったら、あいつらが追ってこないかもしれないからか! 徹底してるな!)


 アキラの推測は正しかった。加えてティオルはアキラの位置をかなり正確につかんだ上で、アキラのもとへ一直線に向かうような真似まねはせず、ビル内を走り回っていた。カツヤ達を引き離さないように注意しながら、カツヤ達にアキラを効果的に取り囲ませるために誘導していたのだ。


 少女達が部屋を取り囲むように集結する。通信障害の所為せいで装備の通信機器ではろくに連絡も取れない状態だが、部隊はローカルネットワーク内の通信で意思を統一し、高度な連携を保っている。そして分隊の壊滅をその通信で言葉も介さずに知ったカツヤの憎悪に応えるように、部屋内に向けて一斉に苛烈に銃撃した。


 部屋をほとんど包囲している配置からの一斉射撃であり、射線は同士撃ちが起こらない方が不思議なほどに過密で、部屋をしっかりと埋め尽くしていた。だが配置された部隊員全員の視覚と情報収集機器の情報を共有した極めて高度な連携により、味方への誤射など1発も発生しなかった。その理想的な銃撃は部屋を銃弾で埋め尽くし、室内から死角を消滅させていた。


 だがアキラはぎりぎりのところでその弾幕から逃れていた。敵の配置が完了する前にティオルの方向へ駆けだしていたのが幸いした。更に防御コートの力場装甲フォースフィールドアーマーの出力を全開にして、被弾による負傷を出来る限り抑えていた。


 そのまま部屋から脱出し、走りながら後方へ誘導徹甲榴弾りゅうだんを乱射する。室内で使用するものではないが、ティオルの砲撃による周囲の被害から考えて、多少乱射しても周囲を崩壊させて自分も巻き添えになることはないだろうと判断し、敵の足止めも兼ねて多少多めに撃ち出した。


 速度を犠牲にして誘導性を可能な限り高めた誘導徹甲榴弾りゅうだんが室内を曲がって広範囲に散らばっていく。少女達が迎撃を試みる。だが全ては撃ち落とせず、周囲に着弾した誘導徹甲榴弾りゅうだんが次々と爆発する。それは後続の榴弾りゅうだんと合わせて巨大な爆発を引き起こし、少女達を飲み込んだ。


 アキラは後ろからかなりの揺れと爆風を感じて、下手をすれば自分も巻き添えになったと、自身の目算の甘さに冷や汗をかいた。だが振り返りもせずにティオルの後を追い続けた。


 少し遅れて現場に到着したカツヤが場の光景を見て怒りに震える。崩れて天井から降り注いだ瓦礫がれきが少女を押し潰していた。爆発で吹き飛ばされた少女が壁に強打して崩れ落ちていた。対力場装甲アンチフォースフィールドアーマー弾の嵐を食らった者よりは軽傷で、生きている者も多い。それでも被害は甚大だ。


「あのクソ野郎が!」


 叫び声を辺りに響かせてカツヤがアキラの後を追う。一緒に来た少女達もカツヤの後に続く。どれだけ悲惨な光景を見ても、カツヤの意思がくじけない限り、部隊から戦意喪失者が出ることはない。




 逃げ続けるティオル。それを追うアキラ。それを更に追うカツヤ達。ビル内で追跡劇が続いていく。


 その間、戦闘は基本的にアキラとカツヤ達の間だけで発生していた。ティオルはアキラをカツヤ達とともに挟撃するような真似まねはしなかった。たまに離れた場所から牽制けんせい目的の砲撃をする程度で、基本的に逃げの一手だ。


 アキラがそれをいぶかしむ。


(あいつは何でここで攻撃に回らないんだ? 俺とカツヤを潰し合わせるのに徹底しているだけか? いや、それなら前の時も、俺とカツヤが戦い始めた時点で逃げれば良い。……何でだ?)


 推測の続きを少女達からの銃撃で中断させられる。アキラが疑問を棚上げして応戦する。


(今は考えるだけ無駄か! クソッ! あいつらもしつこい! 仲間が生きている以上、救出を諦めないってことか! 随分と仲間思いなやつらだな!)


 銃弾が飛び交う中、無数の擲弾てきだんがアキラに向けて撃ち出される。アキラがすかさず迎撃する。すると爆発した擲弾てきだんが周囲に濃い煙を勢い良く広げて視界を遮っていく。その途端、情報収集機器の精度が著しく下がった。


情報収集妨害煙幕ジャミングスモークか! 恐らく向こうの情報収集機器に合わせて調整済み! 向こうにはこっちが見えてる!)


 アキラが抜刀して近くの壁を素早く切り裂く。輝く刀身が壁の一部を瞬時に四角形に切り離した。続けてそこに体当たり気味にぶつかって壁を押し出し、その先に進んで情報収集妨害煙幕ジャミングスモークの影響範囲外に逃れようとする。


 だが壁の向こう側では、アキラの行動を読んでいた少女達が銃を構えて待ち構えていた。倒れていく壁を、その背後のアキラごと粉砕する勢いで一斉に銃撃する。壁が倒れきった瞬間、アキラはその弾幕を真面まともに浴びることになる。


 だがアキラは少女達の行動を読んでいた。ゆっくりとした世界の中で、切り離して前に倒れかけている壁を少女達に向けて蹴り飛ばし、同時に前方に水平に飛ぶように駆ける。そのまま蹴り飛ばした壁を遮蔽物にして少女達との距離を詰める。そして前方の相手を間合いに収めた瞬間、光刃を横に一閃いっせんし、逆側からの銃撃で砕けそうな壁ごと少女達を両断した。


 蹴り飛ばされた壁が胴体を両断された少女達に直撃する。上下に切り離された体がその衝撃で吹き飛ばされ、切断面から中身をき散らしながら飛んでいく。


 それでも即死ではない。事前の処置にもるが、ハンターとしては重傷の範囲内だ。空中で上半身だけになっても撃ち続けていた少女達の一部が、意識を失う前に射線をアキラに合わせようとする。下半身という支えを失った状態での銃撃はほとんど乱射に近いものだったが、それでもアキラの周囲の弾幕を少しは濃密にした。


 部屋を銃弾が飛び交う中、アキラは敵の射線を出来る限り推測し、弾丸から可能な限り逃れながら、その場を全力で走り抜け、ぎりぎりで離脱した。そして即座の襲撃はないと判断できる距離まで離れると、複雑な苦笑を浮かべた。


「やっぱりいたか。嫌な予感が当たった。昔からこういう勘だけ当たるんだよなー」


 スラム街の路地裏でアキラを生き延びさせていた嫌な予感。ろくでもない事態ばかり的中させる勘。アルファのサポートを十全に受けられるようになってからは、ある意味でずっと鈍らせ続けていたもの。死を紙一重でかわし続ける見切りの根幹、危機に対する探知予測能力は、この死地で再び磨かれ続け、かつての鋭さを取り戻していた。


 加えてエリオ達との模擬戦が予測精度の向上に役立っていた。模擬戦でのエリオ達を指揮していた総合支援システムは、カツヤ達の行動記録を基に学習を進めていた。その結果、エリオ達の動きはカツヤ達の模倣となっていた。


 当然練度に著しい違いはある。戦場の環境も大分異なる。それでも部隊行動の大まかな流れや癖を知ることは出来た。繰り返された模擬戦がエリオ達の技量を上げ、身体への負担を限界まで許容したエリオの覚悟が動きの精度を高め、その動きをカツヤ達のものに近付けていた。それはそのエリオ達を1人で相手にしていたアキラにも強い影響を与えていた。カツヤ達の部隊に対する対処能力を高めていた。


 アキラはそれらを基に少女達の高度な連携から相手の意図を逆算することで、敵の行動を無意識に推測していた。自身でも根拠や過程を説明できない自覚も出来ない予想は、嫌な予感としてアキラの意識に現れていた。


 その後もアキラはカツヤ達と小競り合いを繰り返す。本来なら絶望的な戦力差だ。だが外とは異なりビル内は1対少数を作りやすい地形に恵まれている。加えてエリオ達との模擬戦は、カツヤの部隊の撃退に特化した訓練に近いものであり、ある意味でアキラはカツヤの部隊との交戦に手慣れていた。それらの要素が戦力差を縮め、戦況をアキラ側に傾けていた。


 少女達が戦闘の負傷で倒れ、少しずつ数を減らしていく。前方で指揮を執るカツヤを援護するのも難しくなり、アキラを部隊として追うのも困難になっていく。アキラは敵の圧力が弱まったのを感じ取ると、牽制けんせい目的で誘導徹甲榴弾りゅうだんを撃ち出して爆破で相手の足を止めると、一気にその場から走り去りカツヤ達の応戦範囲から離脱した。背後でカツヤの叫び声が響いたが、アキラの意識を乱すことはなかった。

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