第6話 旧世界の幽霊
アキラは再びクズスハラ街遺跡にやって来た。今回は前回の
アルファはそのアキラの様子に、態度と動きの両方に満足して機嫌良く
『その様子なら、体は問題ないようね』
「ああ。よく分からないけど
アキラの体調は実際に非常に好調だ。
アキラは自身の体調を改めて自覚して不思議そうにしていた。するとアルファが何でもないことを教えるように話す。
『それは恐らく回復薬の効果よ』
「回復薬?
『念のために回復薬の用量をかなり増やしたから、恐らく銃創以外の
「あの撃たれたやつ以外は
ますます不思議そうにするアキラとは対照的に、アルファは変わらずに
『昨日は暇だったからアキラの今までの生活とかをいろいろ聞いていたでしょう? そこからの推察になるけれど、アキラの体には長年の過酷な生活でかなりの負担が掛かっていたのだと思うわ。死なない程度の
「いや、確かに裏路地の生活はきついけど、それはちょっと
『アキラが今まで普通だと思っていた状態は、実はそれほど
「……つまり、俺はずっと
驚きながらもどこか複雑な表情を向けるアキラに、アルファが少し得意げに笑って返す。
『まあ、そういうことよ。助かって良かったわね?』
アキラが少し顔を
だがそれらの気持ちに取りあえず蓋をする。今は気持ちの整理をするような状況ではない。そう理由を付けて、いろいろと目を
アキラは遺跡の中を順調に進んでいた。少なくともアキラ自身はそう思っていた。モンスターとの遭遇も無い。アルファの指示も普通の内容で、どこかに潜んでいる大量のモンスターの間を
その余裕が、実は結構気になっていたことに対して、遺跡探索の最中だからと閉ざしていた口を開かせる。
「アルファ。ちょっと聞いても良いか?」
『良いわよ。何でも聞いて』
「何でそんな格好をしてるんだ?」
アルファの服装は過剰なまでにフリルで装飾された純白のドレスだ。両袖と下半身が
『あら、そんなに似合わない? それとも、着替えの催促? こういう服はアキラの好みからそんなに外れているの?』
アルファが少し芝居がかった動きで軽く舞うように回り、美しくも挑発的な
アキラはそのどう考えても遺跡探索には場違いなアルファの格好について尋ねたのだが、その舞うような動きに、その動きに合わせて布地を舞わせるアルファに少し見
「……いや、似合ってるとは思う。まあでも、俺の好みって話なら、俺はアルファと初めて会った時の格好の方が良いと思うけど……」
普段はまず見掛けない旧世界製の衣服が放つ独特の雰囲気や、アルファとの非常に印象深い出会いの衝撃などもあって、アキラはアルファが最初に着ていた服を結構気に入っていた。アルファがそれを分かった上で楽しげに笑う。
『初めて会った時の格好……、つまり全裸ね!』
次の瞬間、アルファの服が消失し、
「違う! その後の服装だ! 服を消すな! 戻せ! 何でそんな全裸押しなんだ!?」
アルファが再びドレス姿に戻って軽く笑う。
『高精度な演算処理で綿密に計算して生成された私の裸体に興味が無いなんて、アキラは随分子供なのね。色気より食い気の年頃なの?』
アキラが少し意地になって少々強がる。
「そうだよ。間違いなく俺は子供だよ。食い
初めて会った時にアルファが全裸だったことには明確な理由があった。それならば、遺跡探索には全く似つかわしくない今の格好にも何らかの意味があるのかもしれない。アキラはそう思って何となく尋ねただけだ。別にどうしても知りたい訳ではない。アルファが
だがアルファからアキラを
『前にも説明したと思うけれど、覚えている? ほら、私を認識できる人を効率よく探す
「何か問題でもあるのか?」
『実はクズスハラ街の都市管理システムは今も一部が稼動し続けているのよ。私はそのシステムに介入して私の映像情報を広域に発信しているの。だから都市管理システムから映像情報を取得する装置には私の姿が映っているのよ。以前にあの機械系モンスターを誘導したのもその応用なのよ。だから、その手の装置を使用している人なら、アキラと一緒にいる私の姿が見えているの』
アキラがアルファの言いたいことに気付いて表情を
「……つまり、誰かに見られているのか? その装置を使っているやつが近くにいるのか?」
アキラの返答と同時に、アルファの表情から笑顔が消えた。
『ええ。絶対に振り返っては駄目よ。ずっとアキラを尾行しているわ。後ろの方から結構距離を取って、今もアキラを見ているわ』
アキラの表情が険しくなる。アルファの表情は状況の深刻さをアキラに分かり
アキラ達から大分離れた場所で2人のハンターがアキラの様子を探っている。カヒモという男は双眼鏡で、ハッヒャという男は一部が機械化されている頭部の両目、そのカメラの望遠機能で、素人には絶対に気付かれない距離からアキラを観察している。使い込まれた装備がカヒモ達の実力を、クズスハラ街遺跡の外周部しか
カヒモが双眼鏡越しのアキラを見ながら
「あのガキ、随分奥まで行くんだな。あんな手ぶら同然の装備で遺跡の奥に行くなんて自殺と変わらん。何を考えてるんだ?」
ハッヒャがカヒモの疑念を笑って流す。
「何も考えてない馬鹿ってだけさ。そういう馬鹿だから常識に捕らわれずに遺物を見付けられたんじゃねえのか? ここの外周部にはもう
カヒモが少し不機嫌な声を出す。
「おい、口を割る前に誤って殺したら
ハッヒャが緊張感に欠ける様子で軽く笑ってカヒモを
「そう言うなよ。あんなガキが遺跡のここまで奥に行くとは思わなかったんだ。お前だって外周部のどこか、その辺の廃ビルとかだと思ってたんだろ?」
「まあな。スラム街のガキが1人で遺跡のここまで奥から生還するとは普通は思わない。この辺はもう結構危険だ。もう少し奥なら俺達だって危ない」
「だろ? そんなに怒るなよ」
カヒモ達は興味本位でアキラを観察している訳ではない。
クズスハラ街遺跡の外周部には金になる遺物はもう残っていない。それがこの辺りのハンター達の共通認識だ。だが絶対に無いと思っている訳でもない。
倉庫に続く通路が何らかの理由で塞がれていたが、モンスターの攻撃の余波などで偶然通路に穴が開いて入れるようになった。非常に見付け
その手の発見が起きると、既に寂れた遺跡に大勢のハンターが再び群がることも多い。発見者が一度では持ち帰れないほどに大量の遺物が残っていれば、残りは当然ながら早い者勝ちになる。その
スラム街の子供が結構高い遺物を買取所に持ち込み、その金を巡って子供達の殺し合いも起こった。その情報を得たカヒモ達は内容を精査してその話を信じた。つまりスラム街の子供でも行ける場所に高値の遺物があると判断した。そしてその場所をクズスハラ街遺跡の外周部だと断定した。
その子供が遺跡のどこかで偶然遺物を見付けたのなら、発見場所が倉庫などで他にも遺物が大量に残っているのなら、近いうちにまた同じ場所へ行くだろう。そう判断したカヒモ達はその遺物を横取りする
カヒモはアキラを捕まえて場所を吐かせるつもりだった。だが戦闘になりうっかり殺してしまうのは
「ハッヒャ。やっぱり今からでも力尽くで口を割らせようぜ。相手は
ハッヒャから返事は返ってこなかった。カヒモが
「おい、どうかしたのか?」
ハッヒャが
「……ガキが1人だけ……なんだよな?」
「1人だけだろ? 他にどっかに隠れているようには見えねえぞ」
カヒモが不思議に思い、愛用の双眼鏡で再度アキラの近辺を見渡した。
この双眼鏡はなかなかに高性能で、かなり遠方でも高い解像度で鮮明に見ることが可能だ。また真夜中でも昼間のように映像を補正する機能や、不可視光線を識別して簡単な光学迷彩を見破る機能も付いている。更に人やモンスターなどの姿を識別して強調表示する機能まで備わっている。
これだけ高性能な双眼鏡になると、遺跡が発信している拡張現実の情報を取得して追加表示するネットワーク機能も付いている製品も多い。だがこの双眼鏡には付いていない。カヒモは過去に機械系モンスターからそれらの機能を逆に利用された経験があった。それで普通なら見えるはずの敵の姿を映像処理で消されてしまい危なく死ぬところだった。その手痛い経験から今は全てローカルで処理する双眼鏡を愛用していた。
「いねえよ。周囲にモンスターの姿も無い。あのガキだけだ」
ハッヒャが表情を
「あー、えーとな、先に言っておくが、俺は薬とかはやっていないし、酔ってもいない。お前を
「だから何だ。さっきから何か変だぞ?」
「……あのガキの
「女?」
カヒモが
「いや、いない。やっぱりガキだけだ。女の姿なんかないぞ」
「……分かってるよ。お前には見えないんだろう? 俺には見えるんだよ。
「それならその女の格好を言ってみろ。詳しくだ。どんな格好だ?」
「……高そうな白いドレスを着てる」
「ドレス? ここをどこだと思ってるんだ? 遺跡の中だぞ?」
「本当だ!
カヒモはハッヒャの態度から
「ハッヒャ。お前の両目のパーツは確かネットワーク機能付きだったよな?」
「ああ。高い金を出して改造したって自慢してた野郎のパーツを移植したやつだ。ネットワーク機能を何度も自慢してたっていうのに、遺跡で結構あっさりくたばった野郎のだ。結構高性能で便利なんだが、
「正規商品以外のパーツに手を出すからだ。どうせそれも、どこかの遺跡でくたばったやつから剥がされたものをそいつが買ったんだろう。そいつがくたばった理由も、突然の機能障害とかで視界がおかしくなった
「うるせえな。改造費とか安かったんだ。良いじゃねえか。遺物を探す時に便利なんだよ。ただ、制御装置があいつの頭と一緒に吹っ飛んだから、機能の切り替えが
カヒモが表情を真面目なものに変える。
「その女は遺跡の道案内機能かもな。俺には見えないがお前には見えるってことは、立体映像ではなく視界を拡張表示して追加するタイプだ。遺跡の一部の機能が生き残っていて拡張情報を発信しているのかもしれない。それでお前のパーツが変な情報を取得したのかもな。
ハッヒャが驚きながらアルファの姿を再度注意深く確認する。
「……あれが? 本物にしか見えねえぞ? あの女には影だってちゃんとある。あの格好以外に不自然な箇所はない。視界に拡張表示されるものは、大抵現実と何らかの差異があるんだ。影が無かったり、伸びる方向が変だったり、壁を突き破っていたり、そういう不自然さがあるんだ。あれにはそれが全く無いぞ。不自然なところはこんな場所でドレスを着てるってことだけだ。……いや、それだけで
カヒモの真面目な態度が無ければ、ハッヒャはその話を冗談だと思って笑って流していた。アルファの姿にはそれだけの現実感が存在していた。
カヒモが真面目な態度で続ける。
「その女がクズスハラ街遺跡の道案内機能の一部なら、旧世界の技術で表示されていることになる。その手の不自然さや違和感を覚えさせないぐらいに高い技術で描画されているんだろうな」
「……そうか。あれが旧世界の幽霊ってやつなのか。初めて見た。
ハッヒャは興味深そうな視線をアルファに向けていた。自分にしか見えない女がいるという不気味さは、相棒がその話を信じたことと、更に自分でも納得できる理由が添えられたことで、そのまま強い興味に変わっていた。
そこに付け込むように、カヒモが何かを思い出したように話を続ける。
「……そういえば、クズスハラ街遺跡には怪談があったな。誘う亡霊……だったか」
「それ、俺も知っているぞ。遺物を餌にしてハンターを遺跡の奥に誘い込んで殺す幽霊の話だろ? 多くのハンターが誘われて、生きて帰ってきたやつはいないって話だ。死んだハンターが仲間を求めて、生きているハンターを誘い込むんだ。最近は老若男女どころか、犬やら猫やらいろんな姿で誘ってくるんだってな」
カヒモは軽く
「遺物探しで遺跡でくたばるなんてのは、ハンターの死に方じゃ普通だ。そこで重要なのは、生きて帰ってきたやつがいないのに、何でそんな怪談になるか、だな」
「……そういえば、何でだ?」
「答えは、付いていかなかったやつがいるってことだ。亡霊が見えたやつだけが付いていった。見えなかったやつは付いていかなかったってことだな。亡霊は誰にでも見える訳じゃない。見えるやつと見えないやつがいて、そいつらの間で話が食い違ったりして詳細を確認できないからこそ怪談になるんだ」
ハッヒャが少し
「じゃ、じゃあ、あの女に付いていったら俺達も死んじまうのか?」
そこでカヒモが意味深に笑う。
「……こうも考えられる。あのガキが金になる遺物を見付けられたのはなぜか? それはお前のようにあの女が見えているからだ。あの女は旧世界の都市管理機能の一部で、今もある程度機能していて、自分を見えるやつに対して道案内をしている。あのガキは遺物が有りそうな場所を女に聞いた。そして女の案内のおかげでモンスターにも発見されずに安全に遺物が残っている場所を見付け出せた。どうだ? こういう考えもありじゃないか?」
「そうか! ……いや、でも女の道案内で死なずに済むのなら、あんな怪談にはならないんじゃないか?」
「女の案内でもモンスターに見付かる可能性が低くなるだけで、見付かる時は見付かるんだろう。加えて、あの女の道案内機能を知ったハンターが、他のやつに遺物を取られないように、女に付いていったら死ぬっていう
ハッヒャはカヒモの説明に納得すると、非常に
「そういうことか! それなら付いていっても問題ないな! あのガキだって生きて帰ってきた訳だし、注意すれば死ぬことはない!」
「合っている保証はない。だが合っていれば、効率良く遺物を探し出せる手段が手に入る。まあでも、死人有りの
カヒモはハッヒャを落ち着かせようとしたが、ハッヒャは興奮を抑えきれなかった。遺跡での安全と、高価な遺物。その両方を
「大丈夫だろ? 心配性だな! こんなチャンスは見逃せねえよ!」
「まあ、もう少し様子を見ようぜ」
カヒモが冷静な目でハッヒャを見ながら考える。
(……その手段を独占する
カヒモは自身の考えをハッヒャに悟られないように注意しながらアキラの監視を再開した。
アキラが険しい表情でアルファに尋ねる。
「俺の跡を付けているのはどんなやつか分かるか?」
『男が2人。装備から判断するとハンターよ。しっかり武装しているわ』
「……勘違いとか、そういう可能性は無いのか? 別に俺の跡を付けている訳じゃなくて、遺跡で子供を見掛けたからちょっと気になって見ているだけとか、
『無いわ。それらの可能性を考慮して
アキラが顔をかなり険しくしながらも、まだ残っている希望的観測を続けて口にする。
「……何で俺なんかの跡を付ける必要があるんだ? 俺を襲うつもりだとしても、俺に金なんか無いことぐらい見れば分かるだろう?」
その問いは、だから違っていてほしい、という希望の表れだ。それを分かった上で、アルファがアキラに現実を直視させる。
『何らかの方法でアキラが遺物を買取所に持ち込んだのを知ったのかもしれないわ。アキラを尾行する理由は、遺物がありそうな場所まで案内させる、ついでに殺して遺物も奪う、そんなところでしょうね。簡単に殺せそうな人物が高価な遺物を持ち込むのを、買取所で見張っていたのかもしれない。あるいは買取所の人間から獲物の情報を買ったのかもしれない。敵である理由は幾らでも考えられるわ。少なくとも、敵ではない理由よりも多くね。アキラ。敵として対処しないと死ぬわよ?』
アキラは
「……くそっ! 今度はハンターかよ!」
先日襲ってきた相手は拳銃程度しか持っていないスラム街の子供で、それでも死にかけた。それが今度はしっかり武装したハンターを相手にする羽目になった。いきなり跳ね上がった難易度にアキラが頭を抱える。
『アキラ。取りあえずあのビルの中に入って。なるべく自然にね。向こうを見ないように注意して』
「……分かった」
アキラは指示通りに注意して、それでも少し
『このビルにモンスターはいないから安心して良いわよ』
「……ああ」
アキラの返事は暗い。どう戦えば良いかいろいろ考えてはみたが、良い考えは全く思い付かなかった。過程の違いはあれど、全て無残に殺される結果で終わっていた。どれも勝ち目など全く無かった。
『アキラ』
その少し強めの呼びかけに応じてアキラが顔を上げると、アルファが眼前まで顔を近付けていた。驚いて
驚きと痛みが引いていくのと一緒に、アキラも我に返って大分平静を取り戻した。座り込んで
『しっかりしなさい。大丈夫。私がしっかりサポートするわ。アキラを死なせたりなんか絶対にしないわ』
アキラが驚きながらも希望を持つ。
「逃げられるのか?」
しかしアルファが続けた内容は、アキラの予想とは逆だった。
『逃げない。戦うの。返り討ちにするのよ』
アキラの顔に浮かんでいた期待が、途端に驚きと困惑で塗り潰された。
「そんなことが出来るのか!? 2対1で、しかも相手はしっかり武装したハンターなんだ! 前の相手とは、拳銃程度しか持ってないスラム街の子供とは訳が違うんだぞ!?」
アキラの不安を一掃する
『その程度、大した違いではないわ。アキラには私がいるのよ? 総合的な戦力なら私がいる分だけ
「……そ、そうなのか?」
アキラはアルファの余りに当然のような態度に思わず納得しかけた。だが本来なら絶望的な戦力差から生まれる不安を消し去るには足りず、半信半疑の様子を見せていた。
「……いや、でも、モンスターと人間ではいろいろ違うだろうし、そこまで自信が有るのなら逃げられるだろう。それなら逃げた方が……」
弱気を見せるアキラに、アルファが少し厳しい表情を向ける。
『駄目よ。ビルの外では装備の射程の差で一方的に攻撃されるわ。荒野なら
アルファがアキラを真面目な表情で見詰める。アキラも目を
「……ここで逃げても、殺されるだけか。分かった。やるよ」
覚悟を決めたアキラが立ち上がる。その表情から先ほどの不安は完全に消えていた。アルファがアキラを更に勇気付けるように優しくも力強い笑顔を浮かべる。
『アキラ、覚悟を決めなさい。この程度のことも乗り越えられないようでは、
アキラが苦笑する。その表情にはどこか楽しげなものがあった。
「そうだった。意思とやる気と覚悟は、俺の分担だったな」
意思とやる気と覚悟は、俺が何とかする。アキラは以前、アルファの指示に逆らって死にかけた時に、アルファに確かにそう告げた。その言葉は
意思を示し、やる気を出し、覚悟を決める。アキラは再度自身に強く言い聞かせた。
アルファが頼もしそうに
『それ以外は私の分担ね。私の素晴らしいサポート能力をアキラに分かり
「ああ。頼んだ」
そうしっかりと答えたアキラに、アルファは満足そうな笑顔を向けた。その後に余裕のある苦笑を
『……それにしても、その機会がこんなに早く来るとは私も思っていなかったわ。やっぱりアキラは私と出会って運を使い果たしたようね』
「……俺もそんな気がしてきた」
アキラも苦笑を返した。アルファが不敵に
『安心して。アキラが支払った幸運以上に、私がしっかりアキラの世話を焼いてあげるわ』
「それはどうも。助かるよ」
アキラが軽口を返して軽く笑った。
『ええ。助けてあげるわ』
アルファも調子良く笑って答えた。
高度な演算から生み出された非常に魅力的なアルファの笑顔は、アキラを十分に落ち着かせて、気力を回復させて、戦う意思を取り戻させた。全て、アルファの意図通りに。
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