僕らの王国
天川累
第1話
僕らの王国
僕らは今日、独立を宣言した。この島国から抜け出し、本土の外れにある小さな島で新たな王国を作るのだ。理由は単純明快。利己的で冷徹、嘘を重ね自分を偽り他者に一切の関心を寄せない「大人達」と決別をするためだ。僕らはそんな薄汚れた大人が1人たりともいないこの国で自由で楽しく、苦しみも悲しみもなく、みんなで手を取り合う国を作るのだ。とは言ってもこの国の半数以上は政治の政の字も分からぬような純粋無垢な子供達である。よって民主主義は不可能だと判断する。なので君主制にすることにした。僕がこの国の王になり同い年の仲間と共に国の指標をある程度決めた。まず手始めにこの国では労働というものを廃止した。そんな苦しいものは必要ないからだ。それでは国が廃れてしまうって?ご心配なく。この国の子供たちはお金を目の前にぶら下げなくても、自ら進んで行動してくれる。ここで暮らす仲間のためという理由だけで十分なのだ。労働がない代わり、ここでの食事は3食全て王政が用意する。言わずもがなこの小さな島では食料は足りるわけがない。だから時々大人達のいる本土に戻り食料を強奪する。なに、ひどいことはない。薄汚い大人達より未来のある純粋な子供達に与えた方がよっぽどいい。
「やっとここまで来たんだな、俺たち。」
後ろから声をかけられ、振り返る。古びたボロボロのセーターをきた青年がこちらを見て微笑んでいる。彼はアーノルドだ。彼は僕の親友であり盟友である。彼のセーターはところどころ赤い染みで染まっていて、どこか疲れ切っているように見えた。それも無理はない。つい1時間ほど前まで僕らは独立戦争の最中だったからだ。王国計画を練って実行に移すまで3年かかった。町中から同志の子供達を集め計画を練るのは骨が折れる作業だったが理想の王国を作るためには立ち止まっている余裕などなかった。アーノルドは僕の1番最初の同志であった。彼は幼いころから父親からの虐待を受けていて大人への失望と怒りが人一倍大きかった。なので僕は彼に独立戦争の指揮を任せた。彼は策士であり適任であった。うまく大人を欺き武器と船を強奪した。途中で町中を縦断しなければならなかった。立ち塞がる大人を僕と彼は躊躇なく打ち殺した。強い殺意で絶えず銃弾を浴びせてくる大人もいれば、手が震えて照準が定まらない者もいた。攻撃をしてこない大人に対してはさすがに心が痛んだがもはや引き返すことなどできるわけがなかった。こうして僕らはこの島に辿り着き長い戦いは終息を迎えた。
この島は昔は人が住んでいたらしく石造りの家が並び小さな町のようになったいる。救出した子ども達は無邪気に町を走り回り、絵を描き、兄弟と共に談笑したりと思い思いに過ごしていた。まさしくこれが僕らの望んでいた未来である。ふと広場の外れを見ると一人ポツンと大きさの違う2つの人形で遊んでいる少年がいた。
「こんにちは。君、みんなとは遊ばないの?」
「遊ぶよ?でも、今は一人で遊んでるの。」
少年はクシャッとした満面の笑みでそう答える。
「そうか。このお人形、名前はなんていうの?」
「小さいのがサリーで、大きいのがビルク。サリーは僕と同じくらいなんだけど、ビルクは大人なの。でもすっごく優しくて、二人共すっごい仲良しなんだよ!」
「大人?大人は優しくないし、仲良くはなれないよ。」
「なれるよ!!」
「どうしてそう思うんだい?」
「だってお兄ちゃん達が優しくて仲良くしてくれるもの!」
僕はその少年を強く抱きしめ、頭を撫でた。
「アーノルド、いこう。」
島の南東の海岸。ここからの海が1番きれいに見える。
「アーノルド、僕たち本土へ戻ろう。」
「はあ!?なに言ってんだよ!これからって時によ!」
「ダメなんだ。僕らはもうこの国にはいられない。」
涙が出てくる。いくら涙を流したって取り返しはつかない。利己的で冷徹、自分を偽る。それってまるで
なぜ気づかなかった。気づきたくなかったのかもしれない。必死で目をそらして、そらし続けた。
「アーノルド、大人ってたぶん気づかないうちになってしまっているものなんだろう。つまり僕たちが子供の頃の優しさを忘れなければ、きっといい大人になれると思うんだ。」
アーノルドは全てを悟った表情をして、微笑んだ。すると僕の背中をポンと叩き、呟いた。
動かそう、俺たちの止まった針を。例えどんな報いを受けたとしても。
海岸から見える海を見る目線がほんの少しだけ高くなったような気がした。
僕らの王国 天川累 @huujinseima
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