第8話 ひすいお姉さんのヒミツ
「えっ……」
「だから、おむつ取り替えっこしましょ?」
う、嘘だよね? まさか、こんな綺麗なお姉さんが赤ちゃんみたいにおむつにお漏らしなんてするわけがないはず……。
しかし、目をこすって見てみても、目の前の女性の下着はどうみても普通のショーツではなく――もこもこと薄黄色に膨らんだ子供用の紙おむつであった。
「じゃあ、先にそうちゃんのおむつを替えてあげるね」
「う、うん」
動揺しつつも、俺は自分のワンピースの裾をめくる。翡翠さんはスカートを戻しつつ、俺のおむつを見て、子供をあやすかのように言う。
「うわぁ、いっぱいしちゃったね~」
「言わないでよ……恥ずかしい……」
妹に替えられるのとは違う、凄まじい羞恥心。本当に赤ん坊であったなら、こんな恥ずかしさを抱くこともなかっただろう。
だが、そんな俺にこの人は問うのだ。
「おむつにしちゃうことの、何が恥ずかしいの?」
「……だって」
普通ならそんなことしないはず。答えようとする俺に、翡翠さんは俺のおむつの横の部分を破りながら食い気味で続けた。
「おトイレに間に合わないのは仕方ないことだし、そのためにおむつしてるのに……必要なことなのに、なんで恥ずかしがる必要があるのかな。お姉さん、わかんない」
「……」
俺はしばらく、なにも言えなかった。
「そうちゃん、お姉さんの肩に手を置いてね」
「えっ、あ、うん」
言われて、ようやく気がつく。どうやら拭き終わったらしい。意図はわからないが、とりあえず言われた通りにする。
「右足上げてー」
「うん」
「じゃあ、つぎは左足ー」
「う、うん」
柔らかいふわふわしたなにかに足が通される感覚。
「じゃあ、引き上げるねー」
「……ひすいさん? 一体俺になにをしてるんです?」
「おむつ穿かせてるだけだけど?」
一人で穿けるわっ! そう言いたかったが、時すでに遅し。腰にふわふわした下着の感覚が。
お姉さんが足回りなどをしっかりと見て、指を入れたりして。
「よし、これで完璧!」
最後にお尻をぽんぽんと優しく叩かれた。
その感じに、少しだけ懐かしさがこみ上げて……胸が暖かくなった、気がした。
「じゃあ、つぎは私ね。おねがいね、そうちゃん」
「あっ、はい……」
ふたたび翡翠さんはスカートをたくしあげ、濡れたおむつを俺に見せる。どうやっても幻覚ではないらしい。
もう仕方がない。
「……まずは、脱いでくれる?」
「なに言ってるの? 脱がせてよ」
「は?」
なにを言ってるのだろう、この人は。
「だから、おむつ脱がせてって」
「……自分で脱げるよね?」
「おむつを他人に替えられる時は脱がせるのも穿かせるのもぜんぶその人に委ねる。当たり前でしょ?」
常識みたいに言われても……俺はそんなの知らない。
……だが、言われてから悟る。さっき、わざわざおむつを穿かせてくれたのは、そのルールを彼女なりに守ったからだということ。
ならば、俺はそれに報いないといけないだろう。それに、郷に入れば郷に従えってことわざもあることだし。
俺は意を決して、翡翠さんのその下着を引き下げ――「あ、ちょっと待って」
「……なんです?」
翡翠さんは俺を止め、一言。
「――でちゃう」
なにが、という疑問は、直後に聞こえた水音によって解消された。
おしっこ。
微かに、しかししっかりと聞こえる、吸水ポリマーに叩きつけられる水の音。
自分の穿いているものよりも幾分お姉ちゃんっぽい、しかし彼女の大人びた美貌にはあまりにもアンバランスなピンクのハート柄は、さらに黄色く膨らみ歪んでいく。
やがて数秒間の放尿を終えると、彼女は身震い。
「ん……ふぅ……。じゃあ、お願いします」
気持ち良さそうな微笑みで、彼女は放心する俺に話しかける。
「あ……うん」
あまりの衝撃にぼうっとした意識を取り戻すように、軽く深呼吸。甘い臭いが鼻腔を通り抜けた。
今度こそ意を決して、目の前のお姉さんの下着の横の部分を破る。
すると、彼女のありえない失敗の証がもわっと立ち上った。
大人の二回分の失敗を余さず受け止めたそれは、限界まで黄色く膨らんでいて、これ以上の水分を吸い込む余地は無さそうだった。
そして俺は困惑する。
「……ここからどうすればいいんだろう」
情けないことに、俺はおむつを替える経験はほとんど積んでいないのである。
妹のおむつを替えてあげるなんてこともしたことはない。昼間のおむつは幼稚園にはいる頃には外れてたし、小学校に入ってからは夜のおむつは自分で穿いてたし。
だから、いま翡翠さんに教えてもらうまで、女性の股間部の拭き方も知らなかった。前から後ろに拭かなければいけないだなんて、ここで教えてもらわなければ知ることもなかっただろう。
しかし。
「……ねえ」
「なぁに?」
「そ、その……やっぱり、恥ずかしい……」
「なんで? ただおむつを替えているだけじゃない」
「……おむつ替えのポーズで……その……あそこ丸出しで……」
翡翠さんは俺に、毛の一本もないつるつるの恥部をさらけ出していた。
「同性だからいいじゃない」
「体は、ね……」
こんなにも可愛い女児の体だが、入っている魂は薄汚い童貞ロリコン野郎なのだ。元の体だったら完全に犯罪だろう。
「でも、純粋でなんか可愛いかも」
なんだろうこの反応。
この言葉の真意を探ろうと思考していたら、突然質問される。
「ちなみに、子供ってどうやって作るか知ってる?」
「たしか……ちゅーしたらコウノトリが運んできてくれるんだっけ?」
それ以外の答えが思い浮かばなかった。これが違うってことだけはわかるんだけど、本当の方法はわからない。中学高校の教科書で読んだはずなんだけど……不思議なことに全然覚えてないのだ。
「……可愛いわ」
頭のなかにクエスチョンマークが大量に浮かぶなか、大人なお姉さんは静かに笑っていた。
「こ、これでいい?」
「うん、ばっちり! ありがとね、ちっちゃいお兄ちゃん」
そう言って、彼女は俺の頭を優しく撫でる。
「えへへ……」
なんとなく嬉しくなり、自然と笑みがこぼれた。
「でも、これで男の子だったなんて、信じられないわ。さぞ可愛い男の子だったんでしょうねぇ」
「あっははは……」
そんなことを言われて悪い気はしない。むしろうれしいくらいだ。
そんな風に打ち解けてきた頃、ふと思い立ったかのように、お姉さんは言った。
「ねぇ、折角女の子になったんだから……女の子にしかできないこと、やってみない?」
女の子にしかできないこと……。
どんなことだろうか。とても気になる。
高揚感、不安と期待。
俺は生唾を飲み込んで――こくりと首を縦に振った。
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