第2話 噛んじゃっただけです



 星羅は灯が眠ったのを確認すると自室へと戻っていかなかった。

 探索を始めたのだ。


「お城か」


 目ぼしい物は見つからず、気がつくと星羅は召喚された部屋へと辿り着いた。

 特に門番はいなく、易々と侵入する事が出来る。


「さて、ここだな……

 “‘光よ 《khafif》’”」


 明るくして魔法陣を見る。

 知らない形に知りもしない言葉。

 初めて見る魔法陣に星羅は驚きと興奮を抑えられないでいる。


「そんな所で何をしているの?」

「ッ」


 星羅は後ろに人が来た事も気がつかないほど興奮していたのだと自覚し、後悔する。

 急いで距離をとり、魔術をいつでも使えるように準備していたのだから。


「魔法が――――」

「――――黙れ! こっちのミスだが、見られたからには仕方がない」


 星羅は扉を閉めて逃げられないようにする。

 

「あなたは何者なんですか? 魔法の無い世界から来たと聞きましたが」

「魔法が無い訳ではない。あるにはあるが、一般人、普通の人は感じないんだよ」


 星羅は考える。

 相手が誰かわからないが服装からして偉い人なのは確か。

 口止めのために殺したら面倒事になるのは間違い無い。


「口外しないで、と言ったら?」


 人差し指を自分の口元に当てて「あざとく」首を傾げる。

 これで、少しでも油断してくれればという考えがあったのだが、


「……いやいやいや。何か答えてくれない?」

「はっ!」


 本当に油断していた……というか攻撃をされるわけ無いと思い込んでる事に星羅は驚きを隠せないでいる。


「そうですよね。自己紹介がまだでした」

「えっ?」


 星羅は更に困惑する。

 普通に星羅はどう考えても怪しい存在。

 それを目の前にして攻撃する素振りも、自衛の素振りも見せない。


「私は宮廷魔法師見習いのチャロ・ルースターです」

「はぁー」


 魔術師として、自己紹介をされたらこちらもするべきだ。

 いや、しないという選択肢、星羅にはない。


「私は魔じゅちゅ・・・・天城あまき星羅せいらです。以後、お見知り置きを」


 星羅は何事も無かったかのように、優雅にお辞儀をしながら魔術を展開する。

 8つの噐晶石きしょうせきが決められた形になるように宙に浮かぶ。


「燃やせ、そして誓え

 “‘契約焼印 《alhena》’”」


 噐晶石は淡い光を発して星羅の式句に反応する。

 そして、チャロを囲むほどの魔法陣とジュウッと焼ける音が聞こえて、


「あぁぁぁ。はぁ、はぁ、はぁ」

「言ったら死ぬからな」

「な、何をしたんですか」

「簡単な事だよ。ちょっと魔術を使っただけだ」


 噐晶石をポケットにしまいながらそう言う。


「せ、精霊の力を感じませんでした」

「精霊? 精霊って精霊か? スピリットって呼ばれるやつか?」

「スピリット、が何かはわかりませんが、精霊です」


 そこで星羅は考える。

 この世界はまだ知らない事が多すぎる。

 だから、


「よし、チャロって言ったな。俺の事を誰かに話したらその焼印でお前の体は焼けるからな」

「そんな!」

「言わなければいいだけ。ただそれだけ。簡単だろ? 後はそうだな……魔法を教えてくれ」

「へ?」


 何をそんなに驚く必要があるのだろう。

 星羅はこの世界の魔法を使えない。

 それに、どういう原理……ことわりの下に魔法が発動出来るのかを知らない。

 だから、知っていて、それなりに立場のある人に教えてもらう、と。


「で、答えは? 嫌なら別に違う人に頼めばいいだけだし」

「わ、わかりました。私でよろしければ教えてあげます!」


 無い胸を張って、誇らしげな表情をする。


「じゃあ、また明日」


 そう言いながら、魔法陣の部屋を後にして割り当てられた部屋に戻る。


「あーあ、結局わからなかったな」


 魔法陣に関する情報が少なさ過ぎる。

 言葉と形の違いが、星羅の知ってる魔法陣と違い過ぎて、皆目見当もつかないでいる。


「せめて情報が集められれば……図書館?」


 図書館……いや、書庫くらいは大きな城だ。

 あってもおかしくはない。

 と、なると、今の問題は星羅の使う固有魔術である“‘星座喰い 《constellations eater》’”の威力が弱い、という事。

 考えられる原因はいくつかある。

 1つ、魔法の形がこの世界だと違って理の影響を受けている。

 なんとか形になっているのは「まぐれ」という考え方。

 2つ、地球と違ってこの世界は、星羅の使う星座に対応する星座がない、対応する星々が無いから。

 その場合、弱いままだが、使えるだけありがたいと言える。


「いや、解決策を思い付いた。それもとびっきりの案を」


 これは考えようによっては地球に戻った時に、威力は落ちるものの魔術が使える、という事。

 魔術師として強くなれる可能性があるのは幸運だ。


 3つ、何者かに邪魔をされている、という事。

 そんな感じは一切しないし、敵の気配を感じもしない。

 あり得るのは星羅よりも強い魔術師の仕業……それは無いと切り捨てる。


「やっぱりわかんねぇな。

 “‘金の城壁 《hurma jadar alqalea》’”」


 12枚の金に輝く城壁が星羅を中心として出来上がる。

 これは、普通の魔術だからなのか、影響を受けてはいない。


「寝よう、疲れた」


 それだけ言って、フカフカでフワフワでフサフサのベッドに横になり眠りについた。



 ※



「ここは」


 星羅は目が覚めて、自分がいつもと違う場所、違う世界に来ていた事を思い出す。


「制服のままだ」


 昨日の寝るときに着替えていなかったようだ。

 魔術で制服を綺麗にしてから部屋を出る。


「おはようございます、セイラさま」

「おはようございます」

「お食事の準備が完了しています」


 世話役に連れていかれ、大広間に来た。

 星羅は最後で、他の6人は食事をしながら王様と話をしている。


「おはようございます、ファイナ国王」


 星羅は優雅にお辞儀をする。

 すると、呆気にとられたのか王様は少し間を開けてから、


「おぉ、堅苦しくする必要はない。セイラ殿も座りたまえ」


 星羅が席につくと食事が運ばれてくる。

 よくわからない肉のシチュー……牛肉のようだが変な癖がある。


「さて、魔法のない世界から来たということなので少し練習をしてもらいます」

「私があなた方を教えさせていただきます。昨日も自己紹介をしましたが宮廷魔法使いのクジュラ・リーデンスです。では、食べ終わって準備の出来た人は私の所に来てください」


 真昼は食べ終わっていたのか、クジュラの所に行った。

 そして星羅は、


「ファイナ国王、このお城に書庫はありますか?」

「あるが、なぜだ?」

「色々と知りたい事があるんです」

「そうかそうか。それは勉強熱心だな。食事が終わったら連れてってやる」


 星羅は考える。

 これは、国王自ら連れてってくれるのか、代わりの者が連れてってくれるのか。

 どちらでも良いように、星羅は食事のスピードを少し速めたのだった。

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